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chapt 1 *赤毛の魔女とハリネズミ*

以前から構想していたファンタジーがなんとか形になったので投稿することにしました。稚拙な文章ですが退屈しのぎに読んでいただければ幸いです。


kzfactry


プロローグ



 ……遠き昔、神…もしくは悪魔とも思える大いなる存在達の闘いがあった。その力はこの星の大気を裂き、大地を抉り、大海を割ったその衝撃波は数千キロにも及んだ。東の地で起きたその闘いはこの星の他の大いなる存在達にも認知され、数多の人々を畏怖させ、その魂にまで恐怖を刻み込んだ。……しかしそれも遠き昔の事。人々の魂にまで刻まれたその畏怖、恐怖を薄れさせるには十分な時が経った。しかしそれでもその記憶は伝承、伝説、神話となって受け継がれ人々の生活に根付いていった……


          *


 *赤毛の魔女とハリネズミ*



___アルパース山脈に囲まれた田舎の道を一人の少女が歩いている。背は大きい方では無い。150センチちょっとくらいか。赤毛の癖っ毛を肩のあたりまで伸ばしているが、当人は赤毛の癖っ毛をコンプレックスに感じているらしく大きな鍔の広い帽子を深めに被り、髪を隠す様にしている。鼻の周りにはソバカスが散り体もどちらかと言うと痩せっぽちの類に入る。全体的に幼い印象を受ける少女だ。高級なものではないがしっかり洗濯されている麻の服に長めのスカート、肩にはストールを掛けている。もう春になるが、山間から近いこの地方ではまだ寒さが残っているようだ。


ヒューッ


その時少し強めの寒風が山の方から吹き下ろしてきた。少女は思わずストールを掴んで体を守る様に小さくなる。その完封は一時的ですぐ止んだ。少女は寒風が吹いてきた山の方を見上げる。もう春先だと言うのにどんよりと曇っていた。寒さが強い時の濃い雲の色だ。


(…もう春だもん、大丈夫だよね…)


 少女は不安気な表情を浮かべたが、その考えを振り払うようにぶんぶんと頭を左右に振ってから田舎道を歩き出した。しばらく歩いていくと町が見えてきた。クネオと呼ばれている地方ではかなり大きめの町だ。その少し手前に“火守り“と呼ばれる見張小屋があり、三人の男がいた。“火守り“と言うだけあって少し大きめの竃がありパチパチと音を立てて火が燃えている。そのそばには大きめの縦長のカゴがあり、矢が何十本も入っていた。男達は各自背にクロスボウを背負っている。小屋の中には棚があり、小さな壺が沢山並べてあった。三人の中のリーダー格らしい男が少女に気づいて声をかける。


『ドゥーエ、“歌入れ”の仕事かい?』


にこやかに少女に向かって声をかける。


『うん、フランコさん、今日はアニタおばさんの畑なの』


フランコと呼ばれた男は思い出すように斜め上を見上げた後、


『ああ、アニタさんの所か、じゃあ結構手前の方だな。ご苦労さん』


四十絡みの年齢に見えるフランコは彫の深い顔をくしゃっと歪ませて笑顔になりながら少女に声をかける。目の下にくまが出来ているのは寝不足のせいか。


『マウロさんとディノさんも“火守り”ご苦労様』


マウロと呼ばれた三十くらいの男はフランコの様に笑顔を浮かべながら少女に話しかける。


『ほんと、今年はウィタリ中が作物の不作で苦しんでいるのに、ここクネオの町じゃどこも大豊作だもんな、まさしくドゥーエのお陰だよ、ありがとう』


『いや~~、そんな、えへへ』


ドゥーエと呼ばれた少女は赤髪の癖っ毛を掻きながら満更でもなさそうに笑う。

 

『そうそう、それにこの間ここの火を切らしちゃった時なんか本当に助かった。ドゥーエの魔法“ファイア”が無ければ火種をもらいに町中駆けずり回らなきゃいけなかったしな』


笑顔でフランコはドゥーエに話しかけたが肝心のドゥーエの方は顔を赤くして下を向いた。少し恥ずかしそうにモジモジしながら話し返す。


『…魔法って言っても桶一杯分くらいしか炎を作れないから…』


『その桶一杯の炎が大変なんじゃないか。俺たちじゃ火打石で火種に火を付けるのに大作業になっちまうよ』


フランコは豪快に笑いながらポンポンとドゥーエの肩を叩く。褒めているのだろうがドゥーエはまだ恥ずかしそうだ。


『アニタさんをあんまり待たせちゃまずいか。ドゥーエ、早く行っておあげ』


フランコはそう言って片目をつぶる。絵に描いたようなナイスガイの中年だ。ドゥーエはそのまま町まで行こうとしたが、ふと思い出したように西の山の方を見る。


『フランコさん、山の空が凄く澱んでいるんだけど…もう春だし、大丈夫だよね?』


ここで初めてフランコは眉をひそめた。


『…うん、俺達も気になっていたんだが、これだけ暖かくなってからの奴らの襲来はここウィタリ国では記録がないからな。それほど心配いらないと思うが……。隣のフランクではこの冬かなりの被害が出たって話だ。だから俺達も寝ずの番でこうして警戒しているんだが…』


その話を受けてマウロが興奮しながら喋り出す。


『酷いなんてもんじゃ無いらしいぞ!北部の方は壊滅状態らしい。プロイセンなんかもう国として成り立っていないって話だ。なんでも今まで見たこともない化け物みたいな空飛ぶ船が奴らを何十体も運んでくるらしい!』


それを聞いたフランコは渋い顔で、


『マウロ、余りいい加減な事言って変な噂を広めるなよ!いくら何でもあの怪物が何十体もなんて…』


『いやいや!本当ですよフランコさん!フランクにいる俺の親戚からの情報なんで間違いないですよ!』


マウロは唇を尖らせて興奮しながら主張する。余程情報に自信があるようだ。


『…まあ、あの険しいアルパース山脈のおかげでここウィタリでは今まで数えるほどしか奴らは現れなかったからな。マウロ、お前が過敏になるのもわかるがディノを見てみろ、震えてるぞ。あまり確証のない話を広めて周りの人間を不安にさせるのは感心できんな』


 フランコは顎でディノの方を示す。マウロがハッとなってディノの方を見やるとディノは二人を上目遣いで見ながら震えている。ディノはまだ若い。ドゥーエと変わらないくらいの15~6と言ったところか。マウロはディノのその顔を見てしまったとばかりに顔を歪ませた。フランコやマウロは慣れきっているが、ディノはまだこの“火守り”の経験が浅い。いざという時に真っ先に逃げ出されたりしたら目も当てられない。マウロがばつの悪そうな顔をしていると、フランコがため息をつきながら言う。


『気にしたところでなんとやらだ、俺達は俺達の出来る事をやるだけだ。実際今年は奴ら一度も現れなかったしな。街の防衛も大事だが、食糧を作る畑仕事も大事だからしっかり頼むぞ、ドゥーエ』


『…うん』


そう言うとドゥーエはクネオの町に向かって歩き出した。ここで今まで黙っていたディノが眉をひそめてドゥーエを見送りながらマウロに話しかけた。


『…みんなよく平気ですね、アイツ魔女なんでしょ?不気味じゃないすか』


それを聞いたマウロはびっくりした顔になり慌てたようにディノの頭を平手で叩く。


『馬鹿!何て事言うんだ!そんなの町長のアリゴさんに聞かれたら冗談抜きで火矢で打たれるぞ!』


『…いてて、酷いな何も叩かなくても…』


そこで間にフランコが入った。


『そうだぞ、ディノ。今年はウィタリ中の殆どの町で餓死者が出たんだ。一人も餓死者が出なかったのはこのクネオだけらしい。それどころかこの町の近郊の町に食糧支援まで出来たんだからな。町長のアリゴさんはかなり株を上げたそうだぞ。それもみんなドゥーエの“歌入れ”のおかげだ。ドゥーエに歌入れしてもらった畑は普段の何倍も収穫が多いからな、この街の恩人と言っても過言じゃない。町長のアリゴさんはドゥーエを下にも置かないくらいの扱いだし本来なら町中に住んで貰いたいらしいんだが、ドゥーエの引っ込み思案がな…それに今のディノみたいにからかわれたりちょっかい掛けられたりすることも無いとは言えんからなんとも言えんが…』


マウロがフランコの言葉を受けてうんうんと頷きながら続ける。


『ディノ。俺たち“火守り“は当番制とは言え町を守る立場なんだからな。守らなければならない者にそんな目を向けるんじゃない』


ディノは叩かれた頭を撫で摩っていたが不満そうに唇を尖らせた。


          *


『アニタおばさんこんにちは』


ドゥーエが庭先から声をかけるととても人の良さそうな中年の女性が家から出てきた。


『ドゥーエ、よく来たね、有難う。ちょっと待ってて』


アニタは一旦家の中に入ると、包みを下げて出て来た。その包みと銀貨を一枚ドゥーエに渡す。このウィタリでは銀貨一枚で贅沢をしなければ一週間生活出来る。決して安くはない対価だ。


『はい、それとこれはパニーニだよ、まだ暖かいからね、早めに食べておくれ』


ドゥーエの顔がパッと明るくなる。


『アニタおばさん有難う!』


 ニコニコしながら包と銀貨を受け取ると、そのまま家の裏の畑に向かう。現金なもので包みを胸に抱き締めながら足取りが軽くなる。家の裏に回り込むとすぐ畑が見えてきた。アニタの畑は綺麗に耕してあり、ウネが作ってあって種を蒔き終えたばかりと言う感じだ。畑に着くとドゥーエは大切そうに包みを一旦下に置き、大きく深呼吸する。眉をひそめ、そばかすがある鼻にも皺が寄る。彼女の集中が頂点に達したらしい。カッと目を見開いて顔を上げると、小さい体には不釣り合いの声量で歌い出す。


『ラ~ラ~ ラ、ラ~ラ ラ~ラ~ ラ、ラ~ラ♬』


ドゥーエの周りの空気が歪み、僅かだが虹色の光が出る。すると、彼女の立っている位置から放射状に、彼女の歌に乗って、空間を歪ませながら、何かエネルギーの様なものが拡散していった。


むくっ むくむくっ


ドゥーエの近い場所から土を割って小さな芽が出だす。まるで生き物のようだ。その小さな芽は放射状に広がって行き、あっという間にアニタの畑全体に広がる。全てのウネから芽が出るのに三分とかからなかった。ドゥーエは綺麗に芽を出した畑を満足げに見つめ、腰を下ろして頂き物のパニーニを楽しむことにした。


          *


__うぁ、来た。近いな。ビリビリ来る。


 その生き物はまるで両手で耳を押さえる人間の様な動きで耳を塞ぐ様にする。一瞬目は瞑ったがやがて小さな鼻をヒクヒクさせながらキョロキョロ辺りを見渡す。目もつぶらで小さい。ちょっと尖った鼻に髭がかなり生えている。髭どころか丸っこい体上半分に髭…ではなく棘が生えていた。上側は栗色で体の下の方は白。ハリネズミだ。その生き物は小さなハリネズミだった。一つ普通のハリネズミと違うのは頭部から三本長めの針が前方に向かって生えている。その針は少し下向きにカーブしていて、針…と言うよりはツノの様だった。少しそのツノをあちこちに向けていたが、


__トロワ、こっちだ、間違いない!


ハリネズミは体を起こし、その小さな左前足をある方向に向け、右前足で何かに触る。それは人間の首だった。ハリネズミは人間、女性の左肩に乗っていた。そのトロワと呼ばれた女性はその方面を向き、


『あの町か、思ったよりも手間取ったけどなんとか接触出来そうだね、ミツキ』


__うん、一刻も早く接触したい。あれだけの思念波だ、この地域だけどころかどこまで飛んでいるやら。何時あいつに目をつけられてもおかしく無いからね。


『わかった。ソフィー、カティ、急ぐよ!』


 女性三人組だった。三人共冒険者風でトロワは腰にサーベルを差し、ソフィーと呼ばれた女性は先端に小さなガーネットが埋め込まれた長い杖を持っている。長めの赤茶色のマントを羽織り、魔法使いと言ったいでたちだ。カティは背中にクロスボウを背負っている。背は三人では一番小さいが、半袖の服にホットパンツ。機動力に全振りしているような装備で体を防御するものは左肩から胸を覆うようなデザインの革製の簡単なアーマーのみ。右肩はクロスボウを扱う為に自由にしてある感じだ。腰に扱いやすそうな短剣を差している。

 トロワは170センチを超える長身でブルネット色の髪は短め、頭部の後ろの毛が上に少し跳ねているちょっと変わった髪型だ。ソフィーは暗めの茶髪を長く伸ばしている。カティは金髪をショートボブに。三人は旅姿の冒険者パーティと言ったところか。皆二十歳前の若さだ。


『うん、トロワ、了解。…それにしても私たちもミツキの言葉が解ればね。二度手間だもん。そもそもトロワの言う事じゃなければハリネズミが喋れるなんて誰も信じないよね?カティ』


『ほんとほんと。でもミツキは物凄い力があるし今じゃミツキなしじゃ私たちのパーティは成立しないもんね』


どうもハリネズミは発声して意思伝達しているのではなく、思念波の様なものでトロワと意思疎通をとっているようだ。しかし人間の言葉をちゃんと理解しているらしく、ソニアの言葉を聞いて照れているようだ。…ハリネズミが。


『よし、もう一息、急いじゃおう』


トロワがそう声をかけると三人共小走りで移動を始めた。


         *


__緋威ひい、起きているか?


『…ああ、目覚めちまった』


 少年はそう答えると左眼の眼帯の下から滲んでくる涙を指で拭う。眼帯は少年の眼窩にピッタリ合うように作られている…刀の鍔の様なデザインの眼帯だ。少し変わったところがあるのは外周の縁が青白く光って見えるところだ。その眼帯に黒い幅広の紐を通し頭の後ろの方で固定している。少年は体を起こすと、


『ヒトツキ、大体の距離はわかるか?』


__うむう、思念波だけでは解らんが側にミツキがおる様じゃ。遠くはない。


『連絡をとって来たと言うヒトツキの弟か』


__うむ、長い年月が経っているし、ミツキの“端末“はまだ未熟の様じゃ。気付くのに時間がかかったわい。しかし間違いないぞ。間違いなくミツキじゃ。


『わかった。じゃ、少し急いでもらうか』 


         *


 パニーニは大きめの物が二つ入っていた。女の子が食べるにはちょっと多いと思われる量だ。確かにまだ暖かく、外側のしっかり縞模様の入ったパンの部分を持つとまだちょっと熱いくらいだ。間に挟んでいるのは肉厚のベーコン、レタス、薄切りのトマト。アニタおばさんのこだわりで中のベーコンは先に一度炒めてありしっかり火が通っている。

 包みを開けた時にふわっといい香りの湯気が顔に当たり、思わずドゥーエの顔が笑顔で崩れた。嬉しくてたまらないと言う表情だ。大きめのパニーニを一つ両手で掴み、思わずゴクリと唾液を飲む。それからドゥーエは少女らしからぬ大口を開けパニーニにかぶり付いた。


がぶっ モシャモシャモシャ


『う~ん、美味しい!♡やっぱりアニタおばさんのパニーニは最高!♡』


晴れやかな太陽、しっかりと芽吹いている畑、それに美味しいパニーニ。まさに至福とはこの事。ドゥーエは幸せだった。

 …が、幸せがいつまでも続かないのはこの世界においても同じ事の様で


__パニーニってなに?トロワ


急に何かの声が頭の中に響いてきた。


『??』


もう少しで一つ目のパニーニを食べ終えようとしていたドゥーエはそのまま豪快な咀嚼を続けながら周りをキョロキョロ見る。すると女性の声がした。


『パニーニ?ウィタリの食べ物かな。アタシは食べた事ないねぇ。アンタたち知ってる?』


『知らない。ムイエットみたいな感じ?』


『ケークサレかも知れないよ』


三人程の女性達が各々喋り出しながら近付いてくる。一番前の背の高い女性は左肩に乗せている小動物、ハリネズミに話しかけていた。ちょっとおかしな光景だった。しかし…


『ミツキ、この娘?』


そう話しかけられて、ハリネズミはドゥーエの方を正面から見据えて、


__そう、この娘。やっと会えた。


鼻をヒクヒクさせているだけで決して口を開いているわけではないのだが、明らかに会話がドゥーエの脳内に届いた。


『!!!???XXX』


思わず食物が変なところに入ってしまったドゥーエは咳き込みそうになるのを懸命に堪える。口から吹き出しそうになるものをぐっと両手で押さえ込む。…思わず鼻から出そうになってしまったことは内緒だ。ドゥーエは包みを顔の前に持って来て懸命に女子としての体裁を保つ。


『あれ?ご免、びっくりさせちゃったかな?でもアンタもミツキの言葉が伝わっているってことでいいのかな』


 背の高い女性、いや、まだ15、6才位の年齢か。その女子がドゥーエの顔を覗き込む様にして聞いてきた。その少女は170センチ位はある高身長でしゃがんでいるドゥーエをまじまじと見てくる。…中々の威圧感がある。まだ動揺がおさまっていないドゥーエだったが、少女の高身長、ショートだが綺麗なブルネットの髪、それに大きく自己主張の強い胸。その自己主張の強い胸をさらに強調するようなデザインの服。胸の上の方はガバッと開けられていてこれ見よがしに胸の谷間を見せつけてくる(ドゥーエの被害妄想)。胸は大きいのに腰は細い。身長はドゥーエの方がはるかに低いが腰回りは同じくらいか、…少し負けてるか?おへそを出してゴールドの洒落たピアスをしている。足もスラっと長い。特に膝から下が細長い。足首までのピッタリした赤いスキニーパンツでさらにスタイルが強調されていた。……どれを取ってもドゥーエには無いもので羨望とコンプレックスと嫉妬心が入り混じった複雑な気分に押しやられた。その感情が表情に出てしまったので、動揺しながらも少し険しい顔で少女に聞き返す。


『な、何?私に用?それに、ハリネズミ、ハリネズミが喋っているの?』


少女はドゥーエの反撃におっとなったが、すぐ笑顔になってドゥーエに話しかける。


『そう警戒しないでおくれな。アタシはトロワ。この二人はソフィーにカティ。フランクの冒険者パーティさ。アタシ達はアンタに害をなすために来たんじゃ無いんだ。逆にアンタを守りに来たんだよ』


__そう、俺たちは君を守りに来たんだ。


『私を…守りに?』


まだ包みで鼻から下を隠しながらドゥーエが上目遣いで眉を顰めて聞き返す。


『そうそ、しかもタダで。タダ』


トロワが渋く嫌そうな顔で言う。


『『そうそ』』


他の二人も渋い顔で相槌を打つ、が苦笑いしながら、


『でも仕方ないよね、ミツキには世話になっているし、どうしてもって言われればねぇ』


ソフィーが言うとカティも相槌を打ちながらハリネズミの顎を人差し指でくすぐる。


『そうそ、今じゃミツキなしのパーティなんて考えられないもんね』


__にゃはは、もっと褒めて褒めて♡


(…照れてる?ハリネズミ…が?なんならオス?)


 ドゥーエの表情が怪しげなものを見る目でハリネズミのミツキを見る。少し落ち着いてきたドゥーエはハリネズミの観察を始めた。トロワの左肩に乗ったハリネズミはここウィタリでもよく見るサイズで体の大部分は栗色、腹側だけ白い。それほど尖った針を持っているわけではないが、このハリネズミは頭から三本、まるで角のように見える針が出ていた。他の針よりだいぶ長めで前方に向かって伸びていて、少し下に向かってカーブしている。猫の爪に似ているかもしれない。今はその角を上に向けている。何の事は無い寝転がって女性二人に指でお腹をくすぐられている。小動物の顔だが、だらし無く緩んでいるのがドゥーエにも見てとれた。


__ニャハハハハハ♡


ドゥーエはここが千載一遇のチャンスだと思った。三人と一匹がわちゃわちゃしている間に音を立てないようにそろりそろりとこの場から逃亡を図ろうとした…が、


パチンッ


『あ痛っ!』


何かの衝撃がドゥーエのお尻に走った。痛い。攻撃されたと言うよりは、叩かれたと言う感じだ。


__悪いけど、今君を一人にする訳にはいかないんだ


ドゥーエがお尻をおさえて振り返ると、女性の肩に乗っているハリネズミが二本の足で立ち上がっている。その体が青白いオーラに包まれ目が光っていた。頭のツノの周りには小さな稲妻の様な物がパチパチと散っている。ドゥーエは初めてこの小さな生き物に畏怖を感じた。


__僕達が君を守りに来たのは本当だ。それにお金とやらもいらない。僕達の都合もあるからね。ただ…


『ただ?』


ドゥーエはお尻をおさえながら身構える。ハリネズミを脅威と認識したので眉をひそめている。


__その袋の中にパニーニって言うのまだ入っているよねぇ、ちょうだい!


『……え?』


__ちょうだいちょうだいパニーニちょうだい!♡


『……あなたハリネズミなんだから虫とかミミズとかを食べるんじゃないの?』


__虫?ミミズ?食べないよ、そんなの。気持ち悪い。


(…何を言っているんだ?このちっちゃいケモノは?)


流石に混乱していたドゥーエも腹が立ってきた。急に現れた集団プラス小さい獣からいい様に振り回されてお尻を攻撃された挙句に食糧まで奪われようとしているのだ。


『アナタちょっといい加減に…』


カーン カーン カーン カーン…


 甲高い鐘の音が聞こえて来た。時間を知らせるようなのんびりとした音ではなく、明らかに危険を知らせる音の大きさと叩く間隔。小動物に文句を言おうとしていたドゥーエだったが、その音が聞こえてきた方向を向くと目を見開き、顔色がどんどん青ざめてきた。


『……あ、…』


見る間にドゥーエはブルブルと震え出した。


『い、行かなきゃ、火が、火が消えたら…』


ドゥーエは震える足を支えるように両手を当てそれでも毅然とした足取りで町の入り口、鐘の音が聞こえる方向にある火守り小屋の方を目指した…

 女子三人と小動物一匹のパーティはお互い顔を見合わせていたが、慌ててドゥーエの後を追い出した


         *


…パタパタパタパタ…


 上空から空気を切り裂く様な音が聞こえて来る。現代人ならばすぐ思い出す乗り物、ヘリコプターの出す飛翔音にそっくりだ。しかしどう見ても中世の文化レベルにしか見えないこの世界では非常に違和感のある音だった。しかも明らかに複数の音が重なっている。少し前からその音に気付いていたフランコは遠く西の空を見つめていたが、その顔が曇り苦渋の顔付きに変化していく。同じ方向を見ていたディノとマウロは既に顔面蒼白になっている。


『…ドライアゴレム、しかも三体だと…?』


フランコは一瞬息を呑んだが慌ててディノとマウロに指示を出した。


『ディノ!大急ぎで鐘を鳴らせ!ガンガン鳴らせ!!マウロ!油壺の準備をしておけ!』


そう叫んで二人に指示を出すと、フランコは急いで矢筒を竈の近くに置き、その中の矢を一本引き抜いて竈で矢の先に火をつける。


『でもフランコさん、ドライアゴレムが三体もいるなんてどうにもならないよ…』


ディノが震えながらフランコに言い返す。


『馬鹿もん!アイツらを街中に入れたらどれだけ被害が出ると思っているんだ!!ガーディアンが来るまで少しでも時間を稼ぐんだ!』


ディノは震えながらも鐘の方に行くと、鐘からぶら下がって伸びているロープを掴んで思い切り振る。


カーンカーンカーンカーン…!


マウロは手の平大の壺を両手でつか掴むと青い顔をしながらも空飛ぶ飛翔物体を睨む。


ドン ドン!


 三体のうちの二体の物体が着地した。大きい、体長は四~五メートルはあるか。頭頂部から四枚の羽根がアーチを描きながら地面に接地している。今までヘリコプターのローターみたいに回転していた羽根だ。それが着地した途端今度は昆虫の足のような動きを見せている。今まで羽根だった四本の足が支えているのは、ナスのような形をしていた。

 ウツボカズラ。食虫植物として知られるウツボカズラにそっくりだ。ただ、その蓋にあたる部分には一抱えもありそうな丸い水晶が埋め込まれていて、まるで目のように見える。実際透明な水晶を良く見ると、埋め込まれた水晶の裏からびっしり糸のようなものが付いていて、それが体内に向かって伸びている。まるで視神経のようだ。その巨大な植物のようなものが四本の足で移動を開始する。巨体に似合わず速い。四本足の獣のような動きであっという間に三人に近づいて来た。


ギャァ!キャァ!


 悲鳴とも叫び声とも取れる奇声を発しなが前方の二本の触手で襲いかかってくる。フランコはその攻撃をかろうじてかわし、矢をドライアゴレムに向かって放つ。火矢は本体部分に突き刺さる。しかしその化け物は火矢をものともせず突っ込んで来る。


『マウロ!早く油壺を投げるんだ!』


『は、はい!』


マウロは両手で持っていた壺を走る勢いを付けながら怪物に向かって投げる。日頃から修練しているらしく、壺は放物線を描いて飛んでいき、怪物の体に当たって割れた。


カシャ! ギィッ!


初めて怪物が嫌そうな反応を見せて触手で火矢と火のついた部分を払う。


『やった!』


マウロが喜んで声を上げた瞬間、


ゴッ


いつの間にか接近していたもう一体のドライアゴレムの触手が横薙ぎにマウロの頭部を襲った。一瞬でマウロは頭部を粉砕され絶命する。


『マウローッ!!』


 マウロを倒した怪物はそのまま前方の触手を変わり果てたマウロの遺体に近づける。触手の先の方は幅広になっていてしゃもじを思わせる形状だったが、その広がった部分は折りたたまれていたようで、その触手の先の部分を手のひらを広げる様な動きで開いて行く。すると赤い毛の様なものがびっしり生えている面が現れた。その毛の先には丸い球状の粘液がついている。モウセンゴケにとてもよく似ている。怪物はその部分でマウロの遺体を掴んで持ち上げて行く。そして水晶の付いた蓋部分をカパっと開くとマウロの遺体をその中に放り込んだ。…まるで人間が何かを飲み込むときにする動作とそっくりだ。


『……!』


 フランコは声を失う。彼の当てた火矢とマウロの油壺で付いた火も怪物に致命傷を与えることはなく、燻った黒い煙をわずかに出していた。フランコの顔に絶望感が広がる。


『わわっ、…!』


 鐘を叩いていたディノはその惨劇を目の当たりにすると恐怖心に駆られて脱兎の如く鐘を離れて街を目指して一目散に駆けた。…が、その目の前に空中に浮遊していた最後の一体が降り立ち、彼の命は一瞬で散った。そしてそのままディノはその怪物に飲み込まれてしまった。

 フランコは火矢を持ちながら呆然とする。三体の怪物に囲まれ、飲み込まれた二人の後追いをする未来を彼の頭が拒否していた。


          *


『ドライアゴレムが三体!』


 トロワが現状を見て慌てる。しかしトロワが慌てたのも一瞬で、直ぐ表情を引き締めると二人に指示を飛ばす。


『ソフィー、詠唱の準備を!カティはクロスボウでドライアゴレムの眼の部分を狙って!』


トロワは前衛なのか彼女達とドライアゴレムの間に入る様なポジションを取りサーベルを抜いた。サーベルと言うよりはレイピアに近いのか、かなりの細身だ。トロワは威力よりも速度重視の剣術を使うようだ。


『『了解!』』


ソフィーは右膝をついて顔を伏せ、杖に向かって呪文の詠唱を始める。杖の先端には大きくはないが、宝石のガーネットが付いていて赤い光を反射している。ソフィーはその宝石に向かって


『イスピ イディル カゥディヌ コンパニォン イドゥニヌ レヴン ファフチヌ…』


 するとソフィーの身体から魔力が湧き出し杖の先端のガーネットに注がれ出す。次の瞬間ガーネットから赤い光が放射され彼女たちを包んだ。ソフィーの魔法には仲間の身体能力を強化する力があるようだ。カティはソフィーの位置を確認しつつ、トロワのフォローに入れるよう素早く移動した。


『ミツキ!どうすればいい!?』


トロワがミツキの意見を求める。この小動物はかなりの信頼を得ているらしい…が、


__何?あれ…


『へ?…??』


思わずトロワが急ブレーキをかける。


『何って、ドライアゴレム、フランクでも最も恐れられている怪物だよ!アンタ見たことないの!?』


__うん、木?樹木?なんであんなものが動いているんだ…?


ミツキは一瞬逡巡したが、トロワの肩から飛び降り、青白い光を帯びた後


カッ


頭部の三本のツノから雷撃を飛ばした。一番近くのドライアゴレムの本体に当たる。…が、少し焼け焦げを作った程度でダメージには至っていないみたいだ。しかしドライアゴレムの気を引くには十分だったようだ。


ギィッ


 すぐに小動物ではあるが侮れない敵とミツキを認識すると触手をすごいスピードでミツキに向かって飛ばす。ミツキはその攻撃を見た目からはとても想像できない軽やかな動きで躱した。そのまま再び雷撃をドライアゴレムに。今度は正確に水晶の部分を攻撃する。


パシィッ


水晶に当たった雷撃はそのまま拡散してしまった。ドライアゴレムは嫌そうな動きを一瞬したが怯んではいない。


__(マズイ、マズイマズイ。このくらいの雷撃ではダメージを与えられない。あの木の怪物を吹き飛ばす程の雷撃なんか放ったらこの“端末”なんか一溜まりもないだろうし…。こんなヤツ昔はいなかったぞ…悠久の時を経てやっと手に入れた“端末“、失うわけにはいかない…けど)


『ミツキ、雷撃効かないじゃない!どうするのっ!!』


__トロワ、何コイツら!?


『何ってもう百年も前からこのエウロペに現れている怪物さ!北のスカンジナの方から現れては人を襲って喰っちまうんだよ!アンタ本当に知らないのかい!?』


__(百年?そんな最近の話か…それにしてもこのままじゃマズイ。マズイマズイ。せめてあの娘だけでも逃すか…)


ミツキが逡巡しているといきなり空間が歪む程の魔力を感じた。


__!?


それを感じることができたのはハリネズミのミツキだけだったらしい。他の三人はドライアゴレムの攻撃をかろうじて凌いでいる。ミツキが魔力を感じた方向を見ると


『…スピリト デル フォルコ コンチェデミ イ トゥ ポテェレ…』


赤毛の少女が真っ青な顔をしながら地面に片膝をついて呪文を詠唱している。彼女を中心に周囲から渦を巻くように魔力が集まっていく。それに呼応するように彼女の周りに地面から何か力が立ち上っていた。


__スゴイ、スゴイスゴイ。今まで見た人間の魔力とは桁違いだ。とても人間とは思えないくらい。どれだけ物凄い魔法が顕現するんだ!?


 何とかなるかも知れない、ミツキは絶望的な状況の中にわずかな光明を見出した。


ブブ ブォン


大気を震わせながら出現したそれは…火?炎?……丁度手桶一杯程の。


ステンッ


ミツキがこけた。綺麗にハリネズミがコケた。


__え?えぇ~~~~!?


『ありがとう!助かるよ!』


強大な魔力が集まっていると知らないカティは火矢を取ると矢尻を炎の中に突っ込んだ。


バチバチバチッ


『えっ!?』


炎の中に入った矢尻は火花を散らしながら一瞬で蒸発した。ソニアは蒸発した矢尻の先を見ながら呆然としている。それを見たドゥーエが申し訳なさそうに


『…御免なさい、私のファイアちょっと変わってて端っこの方で上手くやらないと火が付かないの…』


と恥ずかしそうに言うが、その炎の様子を見たミツキの表情が思案顔になる。


__(イカズチ?炎が帯電しているのか?……)


ドゥーエの言葉を聞いたカティが困惑した顔で二本目の火矢の矢尻を炎の境界ギリギリに近づけた。


パチパチッ


『あ、ホントだ、火が着いた!』


カティはちょっと驚いた顔をした後に笑顔になった。が、すぐに顔を引き締めると、火のついた矢を素早くドライアゴレムに放つ。その矢は触手の根元のあたりに刺さった。


ギャッ


ドライアゴレムから悲鳴のような、木を引き裂くようなどちらとも取れる音が出る。


『カティ!ナイス!』


トロワはそう叫びながら姿勢を低くして高速で火矢の刺さったドライアゴレムに駆け寄る。右手には腰から抜いたサーベルが光っている。そのままの勢いでジャンプしながら空中で火矢の刺さったドライアゴレムの触手の根元目掛けて空中で


『トリプルエペ!!』


裂帛の気合と共に空中で三段突きを放つ。高速で放たれたその突きは正確に触手の根元を粉砕した。


バキッ! ギィエエエエッッーーー!!


ドライアゴレムは触手の一本を吹き飛ばされたが、残りの三本の触手と本体部分の底でバランスを保つ。しかし僅かに体勢を崩した。そこにトロワは追撃を入れようとした、が…


ゾワッ


トロワのうなじの毛が総毛立つ。嫌な空気の流れを感じとれたのはトロワの冒険者としての経験と感だった。体を左に捻ってサーベルを両手で盾がわりに体の前に保持する。


ガキッィィィン! 『ぐっ!!』


いつの間にか近づいていたもう一体のドライアゴレムの攻撃をサーベルで受けたのはよかったが、その圧倒的なパワーで軽々とトロワは吹っ飛ばされてしまった。そのままトロワは立木に叩きつけられ意識が飛びそうになる。


『『トロワ!!』』


__考えている場合じゃない!


ミツキの帯電した三本の角から雷撃が放たれた。


パリパリッ


その雷撃はドライアゴレムでは無くドゥーエの方向に向かって放たれた。


『『えっ!?』』


炎の側に居たカティとドゥーエはギョッとしてその雷撃から逃げようとしたが、雷撃は彼女等ではなく炎を捕らえた。


__いける!


雷撃が炎に到達した瞬間手応えを感じたミツキは雷撃で炎を捕らえたまま体を捻る。まるで鉄球をチェーンで操るモーニングスターの様な動きで炎を振り回す。その炎は倒れているトロワに追撃しようとしていたドライアゴレムの本体を正確に捕らえた。


ボシュッ!!


ドライアゴレムの本体が爆散する。その勢いは凄まじく、爆発の勢いでバラバラになった触手が高く宙を舞った。


『…凄い…』


爆風を受けたトロワが自分のダメージを一瞬忘れて呟く。


__ヨシッ!思った通りだ。お嬢ちゃん、もっとファイアーボール作って!


ミツキがトロワの方を振り返って思念で指示を出す。やっと勝ちスジが見えたハリネズミの表情が明るくなる。


『…ごめんなさい、次作れるまで少し時間がかかるの…』


ドゥーエが本当に申し訳なさそうに言う。肩と首をすくめて縮こまっている。


__え、えぇ……!?


ミツキが一瞬呆然とし、ハリネズミのくせに二本足で立っていたが尻餅をついてしまった。かなりショックだったらしい。しかし状況は切羽詰まっている。すぐに頭を切り替えた。


__仕方ない、この“端末”を犠牲にしてでもみんなの為にあの娘は守らないと。……次はどのくらい待たされるのかなぁ…ええい!


ミツキは一瞬弱気な顔を見せたが、厳しい顔つきになると三本の角を帯電させる。


バチバチバチバチッ!!


明らかに今までより高いエネルギーが発生する。ハリネズミの頭部の棘がエネルギーに耐えきれず焦げ出す。ミツキが更に威力を上げようとした時、


__慌てるな、ミツキ!後は任せろ!!


ミツキのとは異なる強力な思念波が響き渡った。その直後、


『抜刀!菊一文字!!』


裂帛の気合いが響く。速度の高い黒い稲妻の様な影が横切ったと思ったら青白い光が一瞬光った。


ざんっ


一体のドライアゴレムが斜めのラインで真っ二つに切り裂かれた。そのままの勢いで高速に移動した黒い影はもう一体のドライアゴレムに襲いかかり、


がきぃん!


ドライアゴレムの目となる水晶の部分に長剣が突き刺さった。水晶が粉々に砕ける。


ギ、イィィィィ!!


黒い影はそのままドライアゴレムを縦に引き裂く。


びくん びく


 僅かに動いていた体が沈黙する。ドライアゴレムを真っ二つに切った影はすくっと立ち上がり、その長い剣を背中に背負った鞘に下方から戻す。大分変わった剣の使い方だ。それに立ち上がったのはまだ少年といった年で、身長は160センチあるかどうか、それに左目に金属製の眼帯を付けていた。刀の鍔だが、エウロペには無いものなので大きめの奇妙なメダルに見えるのかもしれない。着ている物も黒を基調とした忍者の様な服、これもエウロペには馴染まないものだ。

 それに酷く特徴的な肩当て、ショルダーアーマーを左肩だけに付けている。材質がよくわからない青白い硬質な物質で出来ているのだが、形が鬼の顔になっている。それも般若や仁王などのおどろおどろしい物ではなく無機質な、円錐型の一本の角、幅広い眼窩、真球に近い単眼。面の下部には口の様なものまである。

 その鬼面の単眼が淡い光を放ちながらギョロギョロと辺りを見回す様に動いているのに、まだ誰も気づいていなかった。九死に一生を得た彼女達が観ていたのは…


少年の黒髪、エウロペでは見ない黒衣の服、青白い長剣……と、一つ一つ彼女達の目が確認する度に顔色が青くなっていく。そして全ての確認を終えた彼女達の声が揃った。


『『きゃ~~~~!!ジパン帝国!』』


四人ともまるで死神を見たとばかりに驚愕し、真っ青な顔で後ずさった。さっきまで勇しくドライアゴレムと戦っていたとは到底思えない狼狽ぶりだ。ソフィーとカティなど腰が抜けたようにしゃがみこんで二人で抱き合っている。トロワまで顔色が真っ青だ。ドゥーエなどは三人の女子を盾にする様に一番後で縮こまった。まさにパニック状態。そのパイニックに拍車をかけるように


『お~~~~~い!!大丈夫か~~~~~!?』


ガチャ ガチャ ガチャ!


 クネオの街からの街道を兵士らしい一団が駆けつけて来た。三十人はいようか。大型のクロスボウを持った兵士が五人ほどと長剣を携えた兵士が五人、十人程はかなり大きめの戦斧…と言うよりは木こりが持っている斧に限りなく近い武器を持っている。残りの兵士達は改造された馬車を二台引いている。一つは人の身長くらいある鉄の筒、明らかに大砲だ。それと巨大なクロスボウ、バリスタと呼ばれる兵器だ。口髭を生やした少し大きめの長剣を持った兵士が真っ先に駆けつけ、状況を確認していたが、倒されたドライアゴレムの残骸を見てギョッとなった。


『一、二、…三体!ドライアゴレムが三体もいたのか!?何で…こんな…!』


男はかなり動揺している。改めて男は辺りを見回した。冒険者風の女性が四人一塊になっていてその側には黒衣で背中に青白い鞘に入っている長剣を携えた黒髪の少年…を確認した時に男の動揺も限界突破した。


『ジパン!!……帝国!』


思わず後ずさる。彼の後から到着した残りの兵士も彼と同じく、いや、それ以上にパニックになっている。


『ジパン!ジパン帝国の兵士が何故!……お終いだ!ウィタリももうお終いだーーー!!』


三十人もいる兵士たちが少年一人に怯え、パニックを起こして我先に逃げ出した。まさに蜘蛛の子を散らすといった様子だ。


それを見ていた黒衣の少年は違う意味で動揺していた。


__…ヒトツキ、俺達は人助けに来たんじゃなかったっけ?!


黒髪で黒衣の少年が左肩の鬼面型ショルダーアーマーを見ながら念話で語りかける。十四~五才に見えるその黒髪の少年は歳の割には落ち着いているが、それでもはっきり動揺しているのが見てとれる。話しかけられた鬼面型のショルダーアーマーの幅広い眼窩がUの字に近く下に向かって歪む。…なんならこの鬼面は一筋の汗を流している。少し困った顔になった鬼面から返事が返ってきた。


__…うむぅ、命を助けられた美女達が感極まって抱きついてくる……と言う雰囲気じゃないのぅ…


何ならその美女達はジリジリ後ろに下がっている。ソフィーとカティが腰を抜かしていなければとっくに逃げ去っていたかもしれない。


__皆んなまるで鬼か天狗でも見る様な目で俺のこと見てくるけど……そう言えば親父がジパンの人間はエウロペの人達からちょっと嫌われているかもしれないと言ってたな…


__頼久よりひさがか?…そう言えばそんな事を言っていたような気もするな…


__なになに何?!どうなってんの兄者?!この人間達の反応は何?


ミツキも状況が掴めずにいるらしく、怯えているトロワの肩の上でウロウロしている。


少し考えていたヒトツキがふっと何かを思い出したように上を見上げた。横長の眼窩が少し上向きになる。


__…あ、あれかな?


__心当たりがあるのか?ヒトツキ?


__うむ、ないでもない。取り敢えずこれだけ混乱していては戦闘になりかねん。助けに来たのにそれでは本末転倒じゃ。原因は緋威ひいお主じゃろうからここは一旦姿を消してこの場はミツキに任せよう。


__えっ?!兄者、そんなこと言われても!話も出来ないのにどうすんの?!


__ほれ、緋威!そうと決まったら急がぬか!


緋威と呼ばれた少年は全然納得いっていない表情だったが、確かにこの場に居づらいのも確かなので渋々鬼面の言う事を聞くことにした。緋威が左手を挙げるとかろうじてその場に残っていた隊長風の兵士が一瞬ビクッとなった。…が、


シュンッ!


青白い紐状の糸がついた三本爪のフックの様なものが射出された。そのフックが見渡す中で一番高い木の天辺付近に食い込む。


くんっ


フックに引っ張られる様に緋威の体が宙を飛ぶ。その勢いは凄まじく、木の高さを遥かに超える空中まで少年の体が飛ぶ。すると緋威はくるくるっと前転の様な動きをして体を丸め、両足首のあたりに両手をやり何かを引っ張りながら両手両足を開いて伸ばす。すると青白い布の様なものが緋威の両側に帆のように張られた。そう、まるでムササビそっくりだ。緋威は本家のムササビよりも遥かに自由に空中を飛んで、そのまま視界から消えていった。

 それを見送る様に見ていたミツキはハリネズミなのにしっかり肩を落とした。


__兄者、ずるいよ~…


ミツキはため息の様な念波を出して恨めしそうに空を見上げていた。


         *


読んでいただけました?作品を作るのってホント大変だなと今更ながらに頭を痛めてます。他にも書いているので同時に色々考えていたら、何と言うか軽トラックに大きなコンテナを乗っけてしまって動けなくなった…と言う様な状態になってしまいました(涙)。しかし構想はあるので何とか形にしたいと思い少しずつでも投稿していくことにしました。……場合によっては前後が繋がらなくなってそっくり書き換え…などと言うことになるかもしれません(汗)。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。


   kzfactry



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