上
怨霊にまみれた平城京。
血の深泥はぬぐい切れぬ。怨嗟の声はこだまする。
かような地がこの国の中央であってはならぬ、この穢れから身を離さねば。
鎮魂の像は力を失い色あせた。
甲斐なく滅んだ血族の屍をここに置いていく。
怨霊をここに封じ新たな都を立てよう。
我が、我が殺したのではない。兄、他戸親王も義母井上皇后もましてや同母提早良親王も。我のせいではない。
同胞の怨霊を恐れ桓武天皇は新たな京を願う。
そして逃れた長岡京は夢も無残に砕け散り。
そしてたどり着いたは船岡山のふもと。そこより代理を作り新たな都を立てる。
ここに怨霊は来ない。
ここは救いの都。一切の穢れを祓いただ清浄である場所。
もはや平城京を顧みることはない。
ここは平安京。その名たたえよ永遠の平安の都。
軍を解散せよ。この国にいらない。人を怨霊にする軍を解散せよ、怨霊こそすべての禍の源、怨霊を作らぬために人を殺してはならない。
平城京は穢れた都、その都に戻るなどあってはならない。
その都に、平城天皇を封じ、藤原仲成薬子兄妹をその平城京にその屍をうずめた。
すべてを過去に封じ新たな平安京を、この永遠の平安のためこの国のために平安卿を守るため。
見よ一切の穢れを排除した朱雀大路。
都の前から皇居までまっすぐに続く。両脇には白亜の壁、壁の向こうに何があるか決して見ることはできない。
そう貧しきものは醜いもの。醜いものなど見たくない。壁を壊せばむち打ちに。
都を二つに両断し、互いに行き来はできはしない。
これは異国の大使の通る道。この国で醜いものの姿など見せてはならぬ。見せてはならぬ
美しく清められた道を見よ。
内裏ではこの国を寿ぐ歌を歌う。
歌をうたえ永久に続く平安のために。
内裏に集う殿上人。それらは平安を歌う。
たとえ遠く離れたその場所で何が起ころうと見なければない。見なければない。
帝は皇子に姓を与えた。平と源、しかし、それは藤の蔓に阻まれ遠くに追いやられた。そして都は藤の蔓に覆われ、貴色の花が咲き乱れる。
都からはるか東に平将門がいる。そして死んだ。
将門が攻めてくる。その知らせを宮中は聞いた。そして詔が出された。
将門は討たれた。宮中は詔を出しただけ、それであっさり討たれた。
寿げ寿げ、帝の威光は照り輝いている。この都こそ聖地、ここは永久の平安の都。
その戦がどれほどの悲惨を極めても見ぬものはない。見ぬものはない。
牛車が揺れる。その時歌が聞こえた。
ホトトギスを呪う歌。
なぜあの鳥を呪うことに気づかない。田に苗を植える、それが何を意味するかも分からない。
米は天から降ってくると思うのか。
宮中に響くその名は清少納言。
宮中は、宮中こそ地上の中で最も天井に近い場所。