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バスで見かける人

「ああ、桜がキレイだ」



通学で乗るバス。

いつも私の次のバス停で、あの人は乗り込んでくる。


私の学校の制服ではないから、バス通り近隣にある学校なのだと思う。私が知らない制服だった。



そのバスは、普段から満杯になることなんてなくて、前の方に年配の方が座り後ろはガラガラ。


私は一人席の列の後ろから2番目の席、あの人は一番後ろの広いシートがいつもの席。


言葉を交わすことなんてなくて、時々彼が席へ移動する時に顔を合わせる程度。


時々、「フフフン」と鼻唄が聞こえてくる。

ふと彼を見ると、イヤホンの音楽を聞きながら目を瞑り陽気な雰囲気だ。


私は手元にある単語帳を閉じて、メロディーを聞く。

(ああこれ、髭◯の新曲だ)

そんなことがあると、テストのある憂鬱な日でも少し気が紛れた。


彼はいつも私の後に降りるから、彼が何処で降りるのかを私は知らない。



いつものように私が乗って彼が乗って。

でもその日の彼はいつもと違って、バスと列車が停車するターミナル駅で降りた。私が降りる前のバス停で。


「ピンポーン」の音が響き、彼が動く気配がする。

私は気になって彼を見ると、彼は微笑んで外を指差す。

「見て、桜がキレイだよ。君も、たまには外も見てごらん」


咄嗟のことで気の利いたことも言えず、「はい」としか言えなかった私。


ターミナル前には何本もの垂れ桜が五分咲きで、これから満開になると感じさせる。その桜の中に彼が姿を消すのを、私はずっと見ていたのだ。

(列車で何処かに行くのかしら?)



何となく彼がいつも座る最後尾の中央に移動すると、全ての窓が桃色に染まった。街路樹に植えてある桜が、強い風に飛ばされ一斉に舞ったのだ。


「ああ、本当に綺麗ね。まるで桜の中にいるみたい」




翌日から、彼がバスに乗り込むことはなかった。


私は彼に、桜が綺麗だと伝えたかったのに。




私は彼がどうしたのか知りたかった。

だからそれとなくクラスメートに聞いてみたら、たぶんその人のことらしい情報を得られたのだ。



彼は私と同じ年で男子校に通っていたけれど、両親の転勤で上海に行くらしい。ギリギリまでこっちに残っていて、たぶんその日は空港に向かった筈だと、彼と部活で交流のあった男子が教えてくれた。


彼のことを知ろうと思えば、いつでも知れたのだとその時気づいた。



私はいつも眠そうに、バスに乗り込む彼が気になっていた。ほぼ丸二年、何となく彼を意識していた。


それは恋とかではなく、“ただ今日もいる” という確認作業みたいなもの………だと思っていた。


けれど、彼の笑顔や仕草が気になって、鼻唄を聞くと嬉しくて……………



ああ、やっと気がついた。


これが私の初恋だったと――――――――




4/10 11時 推理ランキング(短編)10位、13時2位でした。19時になんと1位にΣ(゜ロ゜;)

嬉しいです♪ ありがとうございます(*^^*)



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― 新着の感想 ―
[一言] 爽やかさと切なさと甘酸っぱさのある素敵な文章でした。 素敵な物語、ありがとうございました!!
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