7話
「ヴァンポッポさん! あれはやり過ぎです! どうしてあそこまでっ!」
ユーリが召喚された次の日。
訓練場で彼を手酷くしごいたヴァンポッポに、ポッポロは食ってかかった。
「ユーリ様、あんなにボロボロになって……っ! 気絶するまで手を休めないなんて、あんまりですよっ!」
ヴァンポッポと模擬戦を行ったユーリ。しかし全く歯が立たなかった。
そればかりか、ヴァンポッポの攻撃を全て体で受け止めるという有様だった。
成すすべもなく倒れたユーリへ、兵士達は蔑むような視線を送った。
自分が呼んでしまった人。そして勝手な願いを託してしまった人がそんな扱いを受けていることに、ポッポロは耐えられなかった。
「ヴァンポッポさんっ!!」
「あー! うるせーうるせー! 聞こえてるよ!」
ずっと無視をしていたが、自分に付きまとい、挙句部屋にまで入ってきたポッポロ。
こうなるとヴァンポッポも耐えられず、ついに声を上げた。
「大体だな、お前らが独断で勇者召喚なんてするからだろうが! 必死にここを守ってるのは俺達だぞ!? 何で俺達に召喚のことを隠してやがった!?」
「ど、独断じゃありません! 長の指示です!」
「少なくとも俺達は聞いちゃいねーよ! そんなに俺達が頼りねぇか、ええ!?」
「そ、そういうわけじゃ……!」
勇者召喚の断行。これはポッポロら魔法使い達と、長ブゥポッポとの話し合いの末行ったことだ。
しかしこれをヴァンポッポら兵士達には知らせていなかった。
理由があった。
「……そもそも成功する可能性なんて、無いと思っていたんです。ただの願望に近いものだった……。だからそんなことを言って、悪戯にみんなの士気を下げたくなかった」
「その結果、見事に下がっちまったけどな。皆何も言わねぇが、あのユーリって奴に良い感情を持ってる奴はいねーよ。俺達は命を懸けてこの場所を守ってきた。だっつーのに、ポッと出の、どこの馬の骨か分からん奴にデカい面されたらたまらねー」
「ユーリ様は大きな顔なんてしていません!」
「どうだかね。今日だって訓練してるところずかずか入ってきやがってよ。お前も止めねぇし」
「それはっ! ……すみません」
皆で必死に訓練をしているところ、全く戦う恰好をしていないユーリが我が物顔で割って入ってきたのだ。
長が許しているからと目を瞑っていた兵達も、これにはとさかに来た。
袋叩きにされてもおかしくない状況だったのだ。
「俺が叩きのめさなきゃ、奴はフクロだった。感謝して欲しいくらいなんだがな」
これを止めるため、ヴァンポッポは彼らの代わりにユーリを叩きのめした。
ヴァンポッポは彼らを束ねる兵士長。彼がやったからこそ皆の溜飲も下がったのだ。
叩きのめされた後何かの草をもしゃもしゃと食べ、何事も無かったように起き上がったユーリには驚いたが。
他の兵士と同じく、ヴァンポッポもユーリの事を気に入らないと思っていた。
だから手を抜かず、全力で彼を叩きのめした。
しかし最後まで全力で、気絶するまで自分に立ち向かってきたユーリ。ヴァンポッポは彼のことが少し気になり始めていた。
「今は仲違いしている場合じゃねぇ。でも皆気が立ってる。あいつが変な事をすれば、お前ら魔法使い達への反感も増しちまう。そうなる前に、お前が止めてやれ」
「……はい。ありがとうございます、ヴァンポッポさん」
「ヘッ」
ヴァンポッポはぷいとそっぽを向く。
まるで子供の様だが、彼が頼れる兄貴分であることをポッポロは知っていた。
「私がここを案内した後、ユーリ様は一直線に訓練場に向かったんです。たぶん、ご自分を鍛えたいんだと思います」
「そりゃそうだろうよ。あんな弱っちかったら、勇者どころか役にも立たねぇしな」
「たぶんですけど。明日目が覚めたらユーリ様はまた、訓練場に向かうんじゃないかと思うんです」
「……何が言いてぇんだ。はっきり言え」
「その時はヴァンポッポさんが力を貸してあげて下さい。お願いします」
ぺこりと頭を下げるポッポロ。
しばらく彼女の頭頂部を見ていたヴァンポッポは、
「あれだけ叩きのめしたんだ。もう来ねぇ気がするけどな」
彼女に背中を向けて、そうとだけ言った。
ポッポロはその背中にまた頭を下げ、部屋を出て行こうとする。
「ポッポロ」
「え?」
「これ持ってけ」
「わ!? え、これ――」
しかしかけられた声に振り向くと、何かを押し付けられた。
それは木製の盾だった。
「その気がある奴を遊ばせておけるほど、俺らに余裕はねぇんだ。気概があるならしぼってやるさ」
また背中を向けて、ぶっきらぼうに言うヴァンポッポ。
ぽかんとしていたポッポロは、それがどうにも可笑しくて、クスクスと笑い出した。
「な、何笑っていやがる!」
「だって。ヴァンポッポさん素直じゃないから」
「な!?」
顔を赤くして何やら喚くヴァンポッポ。
しかしそれがただの照れ隠しだとポッポロは分かっていた。
おかしそうに笑うポッポロ。ヴァンポッポは深いため息を吐き、最後には彼女を部屋から追い出した。
そして、次の日。
「――マジで来やがった」
あれだけ叩きのめしたと言うのに、ユーリは来た。
手には自分が渡した木剣と木の盾。
それを持って当然のように、ユーリは自分の前に立ったのだ。
どよめく兵士達。彼らは信じられないものを見るような目でユーリを見ている。
だがそんな中、ヴァンポッポだけは彼を前に、ニヤリと口を歪めていた。
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