6話
その日はバンポッポにボコボコにされただけで終わったらしい。
暗転していく画面を見ながら、悠里はため息を吐いた。
「これ、もしかしなくてもクソゲーじゃねぇ? バランス調整サボってんだろ。レベル上がっても全然強くならねぇし」
ゴキゴキと首を鳴らしていると、ふと冷蔵庫が目に入った。
「あ、ちゃんと飲み食いしろってティリスさんが言ってたな」
そうだったと悠里は立ち上がった。
冷蔵庫を開けると、意外にも悠里が好きなものばかりが入っている。
悠里は「おっ」と嬉しそうな声を上げながら、中からサンドイッチとお茶を取り出す。
そしてまた座布団に胡坐をかいた。
「ふー……。ま、ティリスさんを助けると思って、もうちょっと続けてみるか」
笑顔で「頑張れー」と応援するティリスタリスを想像しながら、ごくりとお茶を飲む。
目を画面に向けると既に場面が切り替わり、ユーリの部屋が映っていた。
「しっかしこれ、バンポッポにボコられてレベル上げなきゃならないのか? 全然面白くねぇんだけど。他に何かねぇのかな」
いくらゲームとは言え、延々とやられ続けるというのはストレスが溜まる。
悩みつつ部屋を出ようとすると、またポッポロが部屋に入ってきた。
≪あっ おはようございます ユーリさま。 ぐあいは いかがですか?≫
いかがも何もない。NPCにボコられただけで終わったのだから。
しかしゲームのキャラクターとは言え、気遣われて嫌な気はしない。
ドット絵の可愛らしさもあり、悠里のポッポロに対する好感度は既にかなり上がっていた。
そして、それはさらに加速する。
≪あの これをさしあげます。 よかったら つかってください≫
”ユーリは きのたて を てにいれた!”
”ユーリは ポッポロのおまもり を てにいれた!”
「おっ、盾来た! あと御守りって、これも装備品だよな? ポッポロ、メインヒロインか?」
悠里は早速装備してみる。
木の盾はプラス補正がかかっており、+1だった。
また御守りを装備すると防御が1上がった他、すばやさが1、MPに関しては10も上がった。
「おいおい、ポッポロ有能過ぎだろ! これで少しは戦えるんじゃね? ――と思ったけど攻撃が上がってないんだよな。MPも今のところ使い道がねぇし」
防御が上がるのは良かったが、肝心の攻撃がまだ貧弱すぎる。
攻撃力を上げなきゃなと思いつつ、悠里はポッポロに話しかけてみた。
≪わたしのまりょくで きょうかして みました。 おやくにたてば いいんですけど≫
「いやいやめっちゃ助かる。何たってこっちは無一文だからな。まず装備だろRPGは。なんで金持ってねぇんだよ。誰かもっと良い武器をくれよ。マイナス補正かかってる木剣なんてただの枝じゃねぇか」
悠里のポッポロに対する好感度は爆上がりだ。
とにもかくにもユーリは少し強くなった。
とは言え外へはまだ出られないらしく、出口を兎兵士達が通せん坊している。
何もする事がないユーリは、結局また訓練場でバンポッポに話しかけていた。
”ユーリの こうげき! バンポッポに 1のダメージを あたえた!”
「お、入った」
初めて与えたダメージ。たったの1だったが、昨日レベルが上がった分、少し通ったようだ。
”バンポッポの こうげき! ユーリは 9のダメージを うけた!”
「ダメージもちょっと減ってるな。一桁になってる」
防御が上がった分だろう。僅かにダメージが減っている。
防具の装備前は3回攻撃を受けてやられていた。しかしこのダメージなら辛うじて3回は耐えられる。
与えられるダメージは1を超えなかったが、多少強くなったことは実感できた。
「つーかさ。こいつら金属の鎧着てるよな。こっちにも鉄の剣とか盾装備させてくれよ。そしたらもっと戦えるだろ」
強いのは装備の差じゃないのか。
そんなことを言っているうちに、ユーリが4回目の攻撃を受けて倒れた。
まあ予測できた結果だった。
”ユーリは 8の けいけんちを もらった!”
「あ?」
しかし、予想できない結果もあった。
昨日より少しだけ多く、経験値が入ったのだ。
「え、あ、そうか! 負けても経験が手に入ると思ってたけど、戦えば戦うだけ経験が多く入るのか! あーなるほど! じゃあ防御だけ上げても意味があるんだな。すげー。おー、ポッポロしか勝たん」
またもポッポロの好感度が上がる。
≪はっはっは。 でんせつの ゆうしゃってのも こんなもんか。 たいしたこと ねーな≫
「何かむかつくし、こいつと戦いまくって経験値稼ごう。で、レベル上げて逆にボコってやる」
逆にバンポッポの好感度は下がりっぱなしだった。
悠里はまた薬草をユーリに使い、バンポッポとの戦闘に入る。
昨日は戦闘2回目で暗転したが、今回は3回まで戦うことが出来た。
レベルもまた1上がり、加えて今度は前回よりも伸びが良かった。
「でも、MPとかかしこさが全然上がらねーな。たまたまか? まあまだレベル3だしな。もうちょい様子見るか。──っと、今のうちにトイレトイレ」
真っ暗になった画面を見て、悠里は立ち上がりトイレに向かった。
彼が戻る前に画面が変わり、ユーリの部屋が映し出される。
画面の中のユーリ。彼は悠里が戻るまで、じっとこちらを見続けていた。
ユーリ レベル3
HP 32
MP 15
ちから 10
たいりょく 9
すばやさ 8
かしこさ 12
うん 10
こうげき 11
ぼうぎょ 14
E ただのふく
E ぼっけん-2
E きのたて+1
E ポッポロのおまもり
 




