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47話

「悠里ちゃん」


 どのくらいそうしていただろう。

 不意に悠里の背に暖かいものが触れ、彼は勢いよく振り返る。


「あ、あんたっ!」


 そして尻餅を付いたまま、バッと素早く後ずさった。

 そこにいたのはこの元凶。

 ティリスタリスと名乗った神だった。


 突然現れたティリスタリスに悠里は驚きを顔に張り付ける。

 しかし徐々に怒りがこみ上げ、その表情は大きく歪んだ。


「俺を騙したのか」


 低い声を上げる悠里。


「ゲームだとか言ってっ! 俺を騙したのかっ!!」


 悠里の目から涙が溢れる。

 これをティリスタリスは静かに見ていた。


「何がゲームだっ! こんなの――こんなのの、何がゲームだよ! 馬鹿じゃねぇのかっ!」


 悠里の心はぐしゃぐしゃで、言葉が上手く出てこない。

 しかし彼はそれでも、目の前の相手に感情をぶつけずにはいられなかった。


「あんた神だとか言ったな! ああ、神様にとっちゃゲームかもしれねぇよ! でもな! 人間はあんたらの玩具なんかじゃねぇッ! 俺だって、ポッポロだって、ポッポロンだって――! ふざけんなぁッ!!」


 ティリスタリスへ大声で罵声を浴びせる。

 悠里は肩で息をしながら、目の前の相手を見つめていた。


 ティリスタリスはそんな彼をじっと見つめている。

 いつからだろう、その表情には悲しみが浮かんでおり、それに悠里は今になって気づいた。


「悠里ちゃんを騙す気は無かったわ。結果そうなってしまったけど……でも、そこには理由があったの。少しだけ、私の話を聞いてくれないかしら」

 

 以前ティリスタリスに会った時、悠里は彼女にほんわりと暖かな印象を受けた。

 しかし今目の前にいる相手から感じるのは、深い悲しみだけ。

 悠里は怒りに肩で息をしながらも、相手が真剣である事を察した。

 無言で首を縦に振ると、ティリスタリスも「ありがとう」と返した。


「悠里ちゃんも分かった通り、これはただのゲームじゃないの。悠里ちゃんが生きていた地球とは別の星……ルンデリオラと呼ぶ星の、ある場所に実際起きていた事なの」


 ティリスタリスは初めて説明する。

 このゲームが架空のファンタジーではなく、実際に起きていた現実なのだと。


「これはね、元々私達神のために、主様が作られた物なの」

「神のため……?」

「私達は力が大きすぎるわ。ふとした瞬間に、その星すら滅茶苦茶にしちゃう事もある。だから直接行って助けて、なんて無理なの」


 だがどうしても救済したい場合がある。

 そんな時に使われるツールがこのゲームなのだと彼女は言った。


「でもね、だからと言ってこれは万能じゃないの。主様は制約を付けたわ。その世界に住む生物と同じくらいの力まで落としてから、救済をするようにって」

「何でそんな事……」

「主様は反対なのよ。下界は下界に生きる生命のもの。そこに神が手を出すのは反則だって」


 そう言われ、手を出す事を止めた神も多かった。

 ゲームがクリアできず折れた神もまた多かった。


「でも私は、見て見ぬ振りなんてできなかった……」


 しかし、ティリスタリスは違った。


「だから何度も何度も諦めずにやったの。でも私は下手みたいで、すぐにゲームオーバーになっちゃって。他にやるべき事も多いし、主様からいい加減にしろってこの前言われちゃって……。だから私は主様に相談したわ。それなら使徒に頼んでもいいかって」


 使徒。つまり、神の使いだ。

 真剣に話すティリスタリスに、悠里の怒りは徐々に冷えて行く。

 話の趣旨がやっと分かった。


「それで、俺を使徒に?」

「正確には候補だけどね。でも主様は使徒を新しく作る事を了承されたけど、一つ条件を付けたの」

「条件?」

「使徒候補には最初、ゲームの事を詳しく教えるなって」

「なん――っ!!」

「待って待って。どうしてかは理由があるの。もう少しだけ、話を聞いて?」


 悠里の頭に血が上る。思わず立ち上がりかけた悠里を、ティリスタリスがやんわりと止めた。


「悠里ちゃんは生前、よくゲームしてたでしょう? なら分かるんじゃないかしら」

「何をですか」

「ゲームだからって何をしてもいい、なんて思っている子、多いんじゃないかしら? 主様はね、それを危惧していらしたの」

「あ――」


 言われてみれば確かにそうだった。

 ゲームには様々な種類がある。ジャンルは多岐に渡るし、一人で楽しむものや、大勢で協力するものもある。

 沢山の種類がある中で、皆自分が一番楽しめるプレイスタイルでゲームを楽しむ。

 それが普通の楽しみ方のはずだった。


 だがそんな中で、人に迷惑をかける事を楽しむプレイヤーも多かった。

 一人を大勢で嬲ったり、罵声を浴びせたり他人を煽ったり。

 死体蹴りなんて言葉が出来たのも、そんな人間の行為からだ。


 つまりこのゲームもそんな人間がプレイしたら、助けるどころではなくなってしまう。

 そういう事だったのかと、悠里はその場で胡坐をかき直した。


「もちろん使徒候補は私がよく調べて選定するわ。だからそういう事はないと思う。でも主様はその点を絶対に譲らなかったの。その世界に悪影響が出てから対処するんじゃ遅いって」


 説明を終えたティリスタリスは眉を八の字にした。


「ごめんね。でも悠里ちゃんを馬鹿にしたり騙したりする気は無かったわ。それだけは信じて欲しいの」

「……分かりましたよ」


 じっと見つめてくるティリスタリス。

 見ていられず、悠里は目を逸らした。


「それと……すいません。俺、そんなの知らなくて。その、言い過ぎたみたいで」


 怒りに任せて言った事を、悠里は後悔していた。

 ティリスタリスはこのゲームに真剣で、必死だった。

 騙したなんてとんでもない事だった、と。


「――悠里ちゃん!」


 ティリスタリスの顔にパッと花が咲く。


「ぐもっ!?」


 彼女はばっと両手を開き、悠里の顔を胸に抱きしめた。


「やっぱり悠里ちゃんは優しい子だわっ! ありがとう悠里ちゃん! ママ感激して、もう泣きそうだわっ!」

「~~~~っ!!」


 ぎゅうぎゅうと抱き締められ、悠里の顔は柔らかいもので包まれる。

 呼吸もままならず、悠里はたまらずティリスタリスを押しのけた。


「だ、誰がママですかっ!」

「え~……っ。もうママで良いでしょ……?」

「良くないですよっ!」


 先ほどまで怒りに赤く染まっていた悠里の顔。

 だが今は別の意味で、彼の顔は真っ赤になっていた。

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