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39話

 悠里は次のコマンドを悩んでいた。

 不用意に動けば10ダメージを確定で負う。

 回復手段が限られているからこそ、慎重にならざるを得なかった。


「でもなぁ、俺はともかくポッポロンはなぁ。回復の薬で20しか回復しないだろ? 追っつかねえんだよなぁ」


 ポッポロンのHPを維持しながら戦うとなると、2ターンに一回回復しなければならない。

 現実的な事を言えば、それはあまりにも無駄な事に思えた。


「……よし。ちっと不安だが、やってみるか」


 初めて取る行動に躊躇いはあった。

 しかしこれしかないと決断し、悠里はコマンドを入力した。


 ”ユーリは アースヒールを となえはじめた!”

 ”ポッポロンは かいふくのくすり+を つかった!”

 ”ユーリの HPが 40かいふくした!”

 ”キグリギスは いきぎれを している……”


「このターンは問題ねぇんだ。次だ、次」


 ユーリは詠唱中となり防御行動ができない状態だ。

 ここでどれだけ被害が出るか。それが大きな問題だった。


「さて」


 とは言え。


 ”ポッポロンは クエイクを となえた!”


 悠里も悠里で、何も考えていないわけでは無かった。


 ”キグリギスの たいせいを くずした!”

 ”キグリギスは たいせいを くずしている……”


「よっしゃ! いいぞ!」


 上手く聞いた魔法に悠里は喜びの声を上げる。


 ”キグリギスは しっぽを おおきく ふりまわした!”


「えっ!?」


 しかし次に表示されたメッセージに、悠里は思わず戸惑いの声を漏らした。


 ”ユーリは こうげきを かわした!”

 ”アースウォールは こうげきを かわした!”


 ”キグリギスは おおきくいきを すいこんだ!”

 ”キグリギスは らいめいのいきを はきだした!”

 ”ユーリは 16のダメージを うけた!”

 ”アースウォールは 37のダメージを うけた!”


 呆然とする悠里。クエイクで相手の行動を阻害する方法は上手くいった。

 しかしその後、キグリギスは普通に攻撃してきた。

 この仕様を理解するのに、悠里はしばしの時間を要した。


「まさか……クエイクの行動阻害って、1ターンじゃなくて、一回?」


 クエイクは確かにキグリギスの態勢を崩した。

 だがその後、敵は二回も行動をしてきた。

 キグリギスは1ターン三回行動。となれば単純な引き算だった。


「くっ……! 1ターン効いてりゃ、このターン無傷だったのにっ!」


 悠里はクエイクの効果を1ターンだと思っていた。

 複数回行動をする敵が今までいなかったため起こった誤算だった。


「いやでも、1回行動不能にするだけでも多少は意味がある。今ポッポロンは攻撃魔法撃ってる暇ねぇからな」


 だがそんな糞仕様は今始まった事ではない。

 鬱憤を上手く飲み下し、悠里は気持ちを切り替える。


 ”キグリギスは しかいを とりもどした!”

 ”ユーリは 10のダメージを うけた!”

 ”ポッポロンは 10のダメージを うけた!”

 ”キグリギスは 10のダメージを うけた!”


「次はマッドショットだな。このターンでアースウォールが壊れなかったのはデカい。っつーかさ、さっきアースウォールが攻撃をかわした! って出なかったか? 足でも生えてんのかアースウォールに」


 今更ながらおかしなシステムメッセージに突っ込みを入れる悠里。

 だが次のターンは勝負となる。

 アースウォールが残っているとは言え、悠里は防御しておらず、キグリギスは視界を取り戻した。

 もしマッドショットが外れたら、三回まともに攻撃を食らう事となる。


 悠里は視界を一旦そこに向ける。

 ユーリのHPは112。ポッポロンのHPは29。

 もう後が無かった。


「さっきクエイクじゃなくて、もっかい回復の薬使っときゃ良かったかな……くそ、しくった」


 次のターンはアースヒールでポッポロンを回復できる。アースウォールもまだある。

 だが、ユーリのHPが不安だった。

 このHPなら1ターンは耐えるだろう。しかしマッドショットが外れたら。

 もし回復の薬を使っていたらと思うが、もう後の祭りだ。


「くそ……やるっきゃねぇな」


 一度行動を考え直す。しかし、選択肢はやはりたったの一つしか無かった。


 ”ユーリは アースヒールを となえた!”

 ”ポッポロンの HPが 35かいふくした!”

 ”ポッポロンは マッドショットを となえた!”


 ”マッドショットは あたらなかった!”


「マジか――」


 ”キグリギスの こうげき!”

 ”ユーリは 31のダメージを うけた!”


 ”キグリギスは しっぽを おおきく ふりまわした!”

 ”ユーリは 23のダメージを うけた!”

 ”アースウォールは 73のダメージを うけた!”

 ”アースウォールは くずれさった……”


 ”キグリギスは おおきくいきを すいこんだ!”

 ”キグリギスは らいめいのいきを はきだした!”

 ”ユーリは 16のダメージを うけた!”

 ”ポッポロンは 14のダメージを うけた!”


 その後、全員が毒を食らう。

 事前に回復できたポッポロンのHPは40に留まった。

 だが、ユーリのHPは――


「32……。何とか残ったが……」


 想像以上に大きなダメージを負ってしまったと、悠里の顔が歪む。

 ここまで来て、流れも掴んで、後は倒すだけだと思っていた。

 だがたったの一手で盤上をひっくり返されてしまった。


 表示の白枠はすでに真っ赤に変わっている。

 最後の最後で、何て理不尽な相手だろう。

 あまりにも強すぎると悠里は思う。しかし、それでもこれが最後なのだ。

 悠里のモチベーションはまだ萎えてはいなかった。


「次のターン……。ポッポロンのマッドショットに、全てを懸けよう」 


 一度悠里は深呼吸をする。

 勝ち目はこれしかない。

 確信をもって、悠里はコマンドを選択する。


「頼むぞポッポロン。これを外したら俺達心中するしかねぇぞ」


 最後、悠里はぐっとAボタンを押し込む。

 カーソルはマッドショットを示していた。

ユーリ レベル43     ポッポロン レベル26


HP  32/160    HP  40/ 64

MP  39/ 45    MP  58/119

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