34話
襲い来る竜族をちぎっては投げながら辿り着いた先。
そこは地底に広がる大空洞だった。
「おー、なんか雰囲気あるな。最後ーって感じの」
壁に掛けられた松明が仄かに周囲を照らしている。
ピロパッポ族の集落も地下だったが、そこは茶色一色で多少の柔らかさはあった。
しかしこの竜族のアジトは暗い色の岩盤でできているらしい。
悠里の目には非常に重苦しい雰囲気を放っているように見えた。
「ただやっぱ出てくるのは竜人兵だけなんだな。こう、ラストダンジョンだったらそれ用のモンスターとか普通ならいそうだけど」
先ほどからずっと襲ってきっぱなしの竜人兵に、悠里は呆れたような声を漏らす。
「ま、今更か。このRPG、敵の種類が極端に少ねぇし」
だが今までで出て来た敵ですら、兎兵士と竜人兵、そして竜兵長の三種類だけだ。
新モンスターなど期待する意味はないなと、悠里は既に察していた。
”ユーリたちは りゅうじんへいのむれを たおした!”
”ユーリたちは 387の けいけんちを もらった!”
竜人兵を蹴散らしながらユーリとポッポロンは進んで行く。
何度も懲りずに襲い掛かってくる竜人兵。
しかし奥へ進めば進むほど、徐々にエンカウントが少なくなっていく事に悠里は気づいた。
それだけではない。周囲も徐々に暗くなり、だんだんと黒に近づいていたのだ。
「それだけ地下って言う演出かな。有りがち有りがち」
しかしそれを気にするでもなく、悠里は真っすぐ最奥を目指す。
すると突然開けた空間に出ることになった。
「なんかそれっぽい空間に出たな。そろそろか?」
臆さずユーリは突き進んで行く。
そのまま進むと、そこには大きな玉座に座る、一人の巨大な竜人の姿があった。
「デカいな。これが竜王か……?」
ドット絵で言って、竜人兵四体分の大きさ。
明らかにこれがボスだと分かる威圧感を、悠里はそのドット絵から感じていた。
「ドット絵のゲームって今まであんまり触って来なかったけど、何て言うか、結構いいな。味があるって言えばいいのか」
だが悠里はそれを見て、画面に映る竜王とは別の事を考えていた。
もはや自分は死んでいる。だからもう昔の、名作や神ゲーなどと呼ばれていたゲームをする機会は無いだろう。
少し触っておけば良かったかなと今更考えながら、悠里は黙々と手を動かす。
アイテム欄を開き、ポッポロンにアースヒール。そして二人に携帯食を食べさせ、HPとMPを最大まで回復させる。
そしてお茶をぐびりと一口飲み込んで、悠里は最後の戦いに挑む準備を終えた。
「よし、これで二人とも全回復だ。んじゃ竜王に話しかけてみるか」
そしてまるで知り合いに話しかけるような気楽さで、目の前の竜王に話しかけたのだ。
≪きたか……≫
そう言って竜王は話し始める。
≪おぬしが ユーリ だな。 こうなることは わかっておった。 だが やるせないものだ≫
「何か急に語り出したな。何だこいつ」
相手はどんなラスボスなのだろう。
そう思っていたところ、唐突に始まった悟ったような会話に、悠里はぽつりと独り言つ。
≪ひとつききたい≫
「何がだよ」
≪われらが にくいか?≫
はい いいえ
「ここで選択肢か。憎いか? って、そりゃあ――」
悠里は今までのイベントを思い返す。
突然殺されたポッポロ達の事を思えば、好感など抱けようはずもない。
ただ、これは所詮ゲームである。
突然憎いかと聞かれても、悠里には答えようも無かった。
「んー、そう聞かれてもなぁ。こいつらただの敵だしな。だから倒してたわけだし。むしろシナリオ上倒さない選択肢がねぇ」
最終局面でのこの選択。きっと何か意味があるのだろう。
悠里は少し悩む。そして、カーソルを動かした。
はい ⇒いいえ
悠里が選んだのは”はい”ではなく、”いいえ”だった。
≪なるほど にくくはない か≫
竜王はどこか自嘲を滲ませる台詞を吐く。
≪にくくはないが ほろぼすと。 そうおぬしは いうのだな≫
「やべ、選択肢ミスったかもしれん」
竜王のその台詞に、悠里は自分の誤りを悟った。
≪かみのいしに したがって…… われらにだまって ほろぼされろと いうのだな!≫
竜王の口調は徐々に怒りを帯びて行く。
BGMはぱたりと止まり、ただ文字の流れる効果音だけが聞こえている。
≪たとえかみに みすてられようとも われらにも いきるけんりがある! それをうばおうと いうのなら もはやかみになど すがらぬわ!≫
竜王は初めて椅子から立ち上がる。
その大きさはユーリの一体何体分だろうか。
≪われらが ここでほろぶ うんめいならば そのうんめいすら もうしらぬ! ここで きさまのからだを ひきさいて そのすべてを くらいつくしてくれるわ!≫
竜王は背の翼を大きく広げる。
ドット絵とはいえその迫力に、悠里は言葉が出なかった。
≪ギャオオオオオオンッ!!≫
竜王の咆哮が画面を揺らす。
画面は一瞬のフラッシュの後に、黒塗りの先頭画面へと移り変わる。
”りゅうおう キグリギス が あらわれた!”
画面を覆い尽くす程巨大な敵、竜王が映し出される。
ユーリ最後の戦闘が今、ここに切って落とされた。
ユーリ レベル43 ポッポロン レベル26
HP 160 HP 64
MP 45 MP 119
ちから 66 ちから 15
たいりょく 86 たいりょく 25
すばやさ 47+5 すばやさ 39+3
かしこさ 40 かしこさ 69
うん 17 うん 14
こうげき 73 こうげき 28
ぼうぎょ 107 ぼうぎょ 61
E ピロパッポのほうけん+2 E ちりゅうのつえ+2
E おうりゅうのよろい+3 E ひりゅうのローブ+3
E せきりゅうのたて+3 E スケイルガード+3
E りゅうのかぶと+3 E かりゅうのベスト+3
E ポッポロのおまもり
E そうりゅうのマント+2




