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25話

「ウォォォォオーッ!!」


 竜人クラーコが咆哮を上げる。

 もう何度目だろうか、大剣をユーリへ叩きつけるように振るってくる。

 金属の鈍い音が部屋全体に絶え間なく轟く。

 ビリビリと壁を震わせるそれを、ポッポロンはアースウォールの陰で聞いていた。


 竜人兵ですら恐ろしいと言うのに、クラーコはまるで鬼神のようだった。

 咆哮を上げ、大剣を振り回し、口から火炎を吐き、殺意を叩きつけてくる。


 ポッポロン一人なら、もう何度殺されているか分からない。

 しかし今彼は生きている。

 ユーリへの絶対的な信頼によって、彼はまだそこに立っていた。


「ロックブラストッ!」


 ユーリが稼いでくれる時間を使い、ポッポロンは全力で魔法を放つ。


「グゥゥゥッ!? ガハァッ!」


 その魔法はクラーコの横腹を抉り、鱗と鮮血をまき散らした。

 ぐらりと揺れる巨体。しかしクラーコは倒れずそこに踏みとどまった。

 クラーコの血走った眼がギョロリとポッポロンを捉える。

 その憎しみに燃えた目は、ポッポロンの体毛をぶわりと総毛立たせた。


 それを知ってだろうか。すぐにユーリが割り込み、視線を遮る。

 お前の相手は俺だと、そんな気迫がユーリからにじみ出ている。

 だがそんなユーリの体も、もう全身血まみれだった。


 瀕死の状態であることは傍目にも分かった。

 なぜ立っていられるのか不思議なほどだ。

 敵であるクラーコですら若干の戸惑いを滲ませている。

 なぜこの男は倒れないかと、その苛立たし気な表情が明確に物語っていた。


 今の彼を見たら、きっと誰もが同じことを思うだろうと、ポッポロンは思う。

 しかし、ポッポロンは知っていた。

 ユーリという男が、一体どんな人間であるかという事を。


 当初、ユーリの事を勇者などと思えず、疑心を抱いていたポッポロン。

 しかし彼とコンビを組むようになって初めて、彼の異常性をその目にすることとなった。


 ユーリという男は、例え傷を負おうと、どんなに激しく戦おうと、動きの精彩を欠くことが一切無かった。

 いつどんな状況でも、いつもと変わらない動きを見せる。

 食事もあまり必要としないし、休憩も殆ど取ろうとしない。

 まるで痛みを感じない人形。ともすれば死人のようにも思えた。


 だがポッポロンは知っていた。

 ユーリという男は、無口で、表情に乏しく、何を考えているか分からない人だ。

 しかし、自分を必死になって助けてくれた人だ。

 本来関係ないはずの自分達のために、おびただしい血を流してもなお、全力で戦い続けてくれる人だ。


 最後まで絶対に諦めない。膝を突かない。怯まない。

 そんな姿をポッポロンは一番間近で見てきたのだ。

 ポッポロンの心はもう既に、彼という人間を信頼しきっていた。


「アースウォールッ!」


 三度目のアースウォール。

 またロックブラストだろうとポッポロンは杖を構える。


「ポッポロン、薬を!」


 しかし、ユーリの口から出て来たのは意外な言葉だった。


(――! やっぱりユーリさんでも持ち堪えるのは厳しいんだ……っ!)


 いつもユーリは端的に指示を出す。

 これが彼の決意のように思えて、ポッポロンは頼もしさすら感じていた。

 だがしかし戦闘時に薬を要求されたのは初めてだった。


「はい!」


 思わず目を見開くも、ポッポロンはすぐに懐に手を突っ込んだ。

 クラーコの一撃を受けたユーリが、その勢いを利用して後方に離脱してくる。

 ポッポロンはユーリに駆け寄ると、回復薬を素早くユーリに手渡した。


「グォォォオーッ!!」


 クラーコが猛然と向かってくる。


「ロックブラストだ!」


 ぐびりと飲み干し瓶を投げ捨てると、その一言を残してユーリは前に駆けだした。

 再びぶつかり合うクラーコとユーリ。衝撃で二人の鮮血がバッと散った。


(ユーリさんは攻撃している暇がない。僕が魔法で倒すんだ。残りの魔力じゃ後三発撃つのが精々。だから――)


 その三発に自分の全てを込めよう。

 尊敬する勇者、ユーリの勝利のために。


「ガァァァァッ!!」


 竜人クラーコが咆哮を上げる。


「ロックブラストーッ!」


 ポッポロンは負けじと、あらん限りの声を上げた。

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