24話
「りゅうへいちょう……竜兵長、か? ここのボスってことだな」
突然戦闘に入ったことで、悠里はこれが砦のボス戦イベントだと察していた。
「何か今までのトカゲっぽい奴と違って、こいつは本当にドラゴンっぽいな。強そうだ」
今まで戦ってきた竜人兵も強そうなグラフィックではあったが、この竜兵長と比べるとただのトカゲだ。
大きな翼に鋭利な鱗。重厚な鎧を身にまとい、盾と大きな剣を構えて仁王立ちしている。
竜人兵より一回り程大きな姿は、ドット絵でも強さが伝わってくる。
先ほどまでのような楽な戦いにはならないだろうと、悠里は気を引き締めた。
「つってもこっちはやる事は同じだな。まず俺は防御で、ポッポロンはロクブラ」
しかし打てる手はそう多くない。
結局鉄板の行動をユーリ達に取らせる。
”ユーリは ぼうぎょを かためた!”
”ポッポロンは ロックブラストを となえはじめた!”
「で、こいつの攻撃はどんくらい食らうか――」
”クラーコの こうげき! ユーリは 5のダメージを うけた!”
「防御してて5か……結構痛ぇ。素だと15くらい食らうぞ。ポッポロンに行ったらかなりヤバイかもなぁ」
そう言いつつも、悠里の声には余裕の色があった。
防御していても5。しかし、防御さえしていれば5なのだ。
”ユーリは ぼうぎょを かためた!”
ユーリには防御を徹底させ、ポッポロンの魔法で仕留める。
今までやってきたことと変わらない。
そんな思いが悠里の頭にはあった。
”クラーコは おおきくいきを すいこんだ!”
「――うん?」
しかし。次のターンに表示されたそのメッセージが、悠里の思惑を狂わせる。
”クラーコは ほのおを はきだした!”
”ユーリは 6のダメージを うけた!”
”ポッポロンは 13のダメージを うけた!”
”ポッポロンは えいしょうを ちゅうだん してしまった!”
「全体攻撃!? ってか詠唱中断!? ありかそんなの!?」
ダメージはさほどでもない。
しかし詠唱の中断という追加効果が悠里には痛すぎた。
「やばい、どうするこれ。多分、今殴っても殆ど効かないだろ? でもまたロクブラやっても、中断されたらジリ貧だ。どうする……」
竜族は魔法を先に食らわせないと、通常攻撃ではダメージが期待できない。
しかしその魔法をブレスで中断させられてしまう。
「どうする、どうする。せめてブレスもユーリがかばってくれりゃ目があるんだが……」
HPが高いユーリは、今いくらダメージを食らってもいい。
まずポッポロンに魔法を撃ってもらう。それが何よりも重要だ。
そうすれば通常攻撃もダメージソースとなるのだ。
「この詠唱中断って確定なんかな? それにブレス吐く確率もまだ分らん。もっかいやってみるか」
”ユーリは ぼうぎょを かためた!”
”ポッポロンは ロックブラストを となえはじめた!”
結局良い手が浮かばないまま、再度同じ行動を取る。
”クラーコは おおきくいきを すいこんだ!”
「げっ」
しかし今度は間髪おかず、ユーリ達をブレスが襲った。
”クラーコは ほのおを はきだした!”
”ユーリは 7のダメージを うけた!”
”ポッポロンは 12のダメージを うけた!”
”ポッポロンは えいしょうを ちゅうだん してしまった!”
「やばい、ポッポロンのHPがもう半分だ。色々試してる場合じゃねぇ」
あと二回ブレスを食らうと、最悪ポッポロンのHPが0になってしまう。
そうなるともう勝ち目は無かった。
これはRPGだ。稀に負けイベントがあるが、それ以外なら倒せる敵しか出てこない。
悠里はこの相手も倒せる敵だろうと思っている。
そして、それにはポッポロンがどうしても魔法を撃つ必要があると考えていた。
「消去法で考えろ。ポッポロンが攻撃されたら死ぬ。だからユーリは防御するしかねぇんだ。防御してれば攻撃を吸ってくれる。ポッポロンは行動できる」
今のところ防御中のかばうは確定で発動している。
現状ユーリが取れる行動は一つしかなかった。
悠里はまたユーリに防御を取らせつつ、ポッポロンの行動で”まほう”を選択する。
どの魔法を使えばいいか。
そんな思いから開いたウィンドウに、打開の一手を悠里は見つけた。
「――これだ! これしかねぇ!」
”ユーリは ぼうぎょを かためた!”
”ポッポロンは アースウォールを となえはじめた!”
以前竜人兵相手に試してみた結果、ポッポロンが受けるダメージを肩代わりする魔法だと判明したアースウォール。
しかし耐えられるダメージはたったの40。しかも防御力も紙だった。
結果、1ターン持たず崩れ去った土の壁。
詠唱時間1ターンを消費して使う意義を見出せず、悠里の評価は散々だった。
「耐久よわよわウォールとか紙粘土とか言っててスマン! ここはお前っきゃねぇ!」
しかしその性能が悠里には今、状況を打開する可能性の塊に見えた。
”クラーコの こうげき! ユーリは 6のダメージを うけた!”
「よし、次のターン!」
”ユーリは ぼうぎょを かためた!”
”ポッポロンは アースウォールを となえた!”
”つちのかべが そびえたった!”
「これでどうだ!?」
”クラーコは おおきくいきを すいこんだ!”
”クラーコは ほのおを はきだした!”
”ユーリは 7のダメージを うけた!”
”アースウォールは 14のダメージを うけた!”
悠里はパチンと手を打った。
思った通り、ブレスの威力はアースウォールに対しても13程度だ。
これならブレスが連続で来ても、アースウォールは3ターンは持続する。
ユーリのロックブッラストなら4ターンかかるため中断される可能性がある。
しかしポッポロンの場合、3ターンで魔法が発動する。
次に取る行動は考えるまでも無かった。
「よし行けポッポロン!」
”ユーリは ぼうぎょを かためた!”
”ポッポロンは ロックブラストを となえはじめた!”
再び悠里はポッポロンにロックブラストを詠唱させる。
”クラーコは おおきくいきを すいこんだ!”
”クラーコは ほのおを はきだした!”
”ユーリは 6のダメージを うけた!”
”アースウォールは 13のダメージを うけた!”
「いいぞ! アースウォールさんが今、これ以上ないくらい輝いてる!」
アースウォールが攻撃を肩代わりすることで、ポッポロンは詠唱を続けることが出来る。
悠里の読み通り、アースウォールはポッポロンの魔法発動まで、見事にその場を守り続けた。
”ユーリは ぼうぎょを かためた!”
”ポッポロンは ロックブラストを となえた!”
そして、待望の魔法が発動する。
”クラーコに 62のダメージを あたえた!”
「固!? めっちゃ固いぞコイツ! 竜人兵なら三桁超すのに、ダメ半分かよ!」
ダメージ自体は期待していた程ではなく、悠里は文句を垂れ流す。
しかし魔法を発動できたことで、敗北への焦りは、勝利への糸口を掴んだ楽しさへと変わっていた。
”クラーコは おおきくいきを すいこんだ!”
”クラーコは ほのおを はきだした!”
”ユーリは 7のダメージを うけた!”
”アースウォールは 11のダメージを うけた!”
”アースウォールは くずれさった……”
「アースウォールさん……。お前の輝きは忘れない」
”ユーリは ぼうぎょを かためた!”
”ポッポロンは アースウォールを となえた!”
「だからもっかい頼むわ」
”クラーコの こうげき! ユーリは 6のダメージを うけた!”
「やっべ、ユーリのHPがそろそろヤバイ。こいつの攻撃やばすぎる」
厳しい状況に悠里の口調も相当やばい。
体力オバケのユーリだが、クラーコの攻撃が激しくHPが見る間に減っていく。
どこかで回復したいとは思う。しかし、その隙が見当たらなかった。
”ポッポロンは アースウォールを となえた!”
”つちのかべが そびえたった!”
”クラーコの こうげき! ユーリは アースウォールを かばった!”
”ユーリは 6のダメージを うけた!”
「ええ……何だよアースウォールをかばったって。いや多分かばわなきゃアースウォール壊れてたけどさ。文字として表示されるとシュール過ぎる」
そこはポッポロンをかばったでいいだろうに。
そんなことを思いつつ、悠里はまたロックブラストで攻撃する体制を取った。
ユーリ レベル29 ポッポロン レベル19
HP 32/112 HP 26/51
MP 30/30 MP 49/92
アースウォール
HP 40/40




