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16話

 新しい仲間ポッポロンを加えて、ユーリはまた荒野を歩いていた。


「外に出たはいいけど、なんもねぇんだよなぁ。目印もねぇから迷いそうだ」


 迷う可能性があるため、悠里はずっと左ボタンを押し続けている。

 しかしスクロールする先もまた荒野。まったく変わりない風景に、悠里は面倒くさそうに溢した。


「あー、ダッシュがあればなぁ。ダッシュ――そうだ、駄目元で取説見てみるか」


 ゲームに関してのことは取説に出なかった。

 でもゲームの機能に関しては、何か出るかもしれない。


 悠里はダッシュ、ダッシュと念じながら取説を開く。

 するとそこにあったのは、意外にも真っ白なページではなかった。


「おお! ダッシュあるんじゃん!」


 悠里は文字が書かれていたことに喜び、目を走らせる。


「何々――って、何だこれ」


 だがすぐに困惑の声を上げた。

 取説に書かれていたのはダッシュの方法ではない。

 次のような文字だけが書かれていたからだ。


『 ダッシュ機能     200/1000pt



        解放しますか?



        はい  いいえ


                       』



   

「はい、いいえ、っつったって……どうすんだ? これ」


 ゲームならともかく、取説に選択肢が書かれている。

 悠里は少し困惑するが、しかしダッシュ機能は欲しい。


「200/1000pt……。今1000ポイント持ってるってことか。で、消費が200。なら大丈夫だ。でも許可ってどうすんだ――?」


 ぶつぶつと独り言を言いながら、取説の”はい”に指を当ててみる。


「うお!? まぶしっ!」


 すると取説がぱっと光り、驚いた悠里は取説を手から落としてしまった。


「な、何だ今の。これで解放できたんかな?」


 悠里はまた取説を手に取り、ダッシュと念じながらページを開いた。


『 ダッシュ機能



     ダッシュ機能は解放済みです。


                       』



「お! やっぱり解放されてる!」


 その文字の下には使用方法だの注意事項だのが書いてある。

 しかしそんなものは詳しく読まなくても普通分かる。

 とりあえずBボタンを押して移動すればいいことを確認した悠里は、さっそくBボタンを押しながら十字キーを操作してみた。


「あれ? ダッシュしねぇ……。どうなってんだ?」


 が、早速つまづく。移動速度は先ほどと全く変わらなかった。

 悠里はBボタンを押しながらぐりぐりと十字キーを操作してみる。

 だがすぐに諦めて、再び取説を開いてみた。


 先ほどは目も向けなかった、ダッシュ機能の注意事項を読んでみる。

 悠里は少しの間黙って目を動かす。だがすぐに取説を床に叩きつけた。


「ダッシュ機能の無い仲間を連れているときは無効って何だよ! これ、ポッポロンがいるからダッシュできねぇんだな!? 変な仕様止めろや!」


 仲間の内一人でもダッシュが出来れば、全員ダッシュ移動ができるようになる、なら分かる。

 仲間がいるせいでダッシュできないなんて、そんな仕様聞いたことが無い。

 悠里が憤慨するのも無理はない。

 ただ、これはただのゲームではない。神様が作ったゲームなのだ。


「あー、くそっ。ダッシュ取った意味がねぇじゃん。まぁ、仲間がいるならその方がいいけどさぁ……」


 再び左へ進み続けるユーリ。

 どこまで行っても退屈な画面に、悠里はふわぁとあくびをこいた。


 だがそんな時、初めて画面に反応があった。


「お! 敵か!?」


 一瞬軽い点滅を見せた後、画面が黒く塗りつぶされていく。


 ”りゅうじんへいA が あらわれた!”

 ”りゅうじんへいB が あらわれた!”

 ”りゅうじんへいC が あらわれた!”


 現れたのは、ドラゴンとトカゲの合いの子のような、緑色をした二足歩行の敵だった。

 手には盾と剣があり、胴体を覆う前掛けのような鉄の鎧を着ている。

 名前には竜人兵とある。しかし悠里の目には、竜と言うよりトカゲ人間のように見えた。


「いきなり三体か……。強さが分かんねぇし、とりあえず最初は魔法ぶっぱしとくか」


 初めから全力で戦うことを悠里は選択する。

 竜族は魔法に弱い。そう聞いていた悠里は迷うことなく”まほう”からロックブラストを選択し、竜人兵Aにカーソルを合わせて決定した。


「んで、ポッポロンも魔法を選択――って、はぁ!?」


 だが次の瞬間、悠里は思わず声を上げてしまった。


 ”ポッポロンは にげだした!”


 ポッポロンの行動を選択しようとしたのに、なんとその前にポッポロンが勝手に逃げ出してしまったのだ。

 それだけでは終わらない。


 ”りゅうじんへいBは にげだした!”

 ”りゅうじんへいCは にげだした!”


「は? え、何だ!?」


 突然逃げ出す味方に敵に、悠里の困惑はさらに増した。

 そして――


 ”ユーリは ロックブラストを となえはじめた!”

 ”りゅうじんへいAの こうげき! ユーリは 11のダメージを うけた!”


 思わぬ高いダメージに、大きく目を見開いた。


「じゅ、じゅういち!? おいおい、鉄シリーズ揃って、防御はかなり上がったんだぞ!? なのに二桁出してくんの!?」


 ”りゅうじんへいAの こうげき! ユーリは 10のダメージを うけた!”

 ”りゅうじんへいAの こうげき! ユーリは 11のダメージを うけた!”


「やばいやばいやばい! これ魔法一発で倒せなきゃ終わるぞ!?」


 魔法を二発唱えられるだけの余裕はない。

 竜人兵の高すぎる攻撃力に、悠里は焦り声を上げる。


 ”りゅうじんへいAの こうげき! ユーリは 9のダメージを うけた!”

 ”ユーリは ロックブラストを となえた!”


「よし! これでどれだけ食らうかだが!」


 ”りゅうじんへいAに 73のダメージを あたえた!”


「73っ! やっぱ魔法に弱いんだなコイツら! 与ダメが高い!」


 今までそこまで高いダメージを出したことは無かった。

 悠里は一人喜ぶ。

 だが、竜人兵が倒れたというメッセージはまだ流れていなかった。


 ”りゅうじんへいAの こうげき! ユーリは 11のダメージを うけた!”


「やばい、まだ倒れねぇのか……。もうHPねぇぞ」


 残りHPはたったの12。

 辛うじて一撃は耐えそうだが、もうそれだけだ。

 悠里が取れる選択肢は、もう殆ど無かった。


「回復の薬貰ってたよな。んー、どうすっか……」


 どうすべきか悩む悠里。

 しかし今彼の頭の中にある考えは、どうすれば敵を倒せるか、ではなかった。


「……そういや、セーブとかなかったんだよなぁ。これ、最初からか? 死んだら復活とか、何か無さそうなんだよなぁ」


 悠里はもう殆ど諦めてしまっていた。このゲームのどうしようもない仕様に、飽き始めていたのだ。

 ポッポロ達の事が、彼のあまりなかったやる気を削いでしまったのも大きい。

 悠里からは今、敵を倒そうという意識も薄れ始めていた。


「ちょっと戦って、どのくらいダメージ通るか見てみるか。次、対策取れるかもしれねぇし」


 そうして彼は安直に、”たたかう”を選択する。


 ”ユーリの こうげき! りゅうじんへいAに 6のダメージを あたえた!”

 ”りゅうじんへいAの こうげき! ユーリは 10のダメージを うけた!”


「意外と攻撃通るじゃん。こいつの残りHP、どのくらいなんだろうな」


 相手の残りHPを気にする悠里。

 しかし、ユーリの残りHPはたったの2だった。

 画面の枠はいつもの白から赤へ変わり、ユーリが危機的な状態であることを知らせている。


「これ負けイベだったりしねぇかな。どうなんだろ」


 悠里はまたも”たたかう”にカーソルを合わせる。

 そして、Aボタンを迷いなく押した。


 ”ユーリの こうげき! りゅうじんへいAに 7のダメージを あたえた!”


 倒したというメッセージは流れずに終わった。

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