11話
”ユーリは ロックブラストを となえた!”
”バンポッポに 29のダメージを あたえた!”
「あー、ロクブラが固い奴に通らないのマジでダルい。なんで魔法なのに防御で与ダメ減るんだよ」
バンポッポから防具を貰って3日目。
今日もまた悠里はバンポッポ道場で、バンポッポ相手にロックブラストを撃っていた。
最初40越えのダメージを叩き出したことで、バンポッポも倒せるかと思っていた悠里。
しかし本気を出す宣言の後、与えるダメージが落ちたことで、落胆を隠せなかった。
”バンポッポの こうげき! ユーリは 4のダメージを うけた!”
”ユーリは たおれてしまった!”
「せっかく2発当てても60行かないからな。あー、バンポッポ倒せねぇわ。こいつ強すぎ」
防御が上がったことで、バンポッポにもロックブラストを2回は撃てるようになった。
しかしそれで倒せるバンポッポではなく、やっぱりユーリは負け続きだった。
≪はっはっは。 まだまだだな ユーリ≫
負けた時のセリフも本気宣言の後に変わっている。
最初は「おっ」と思ったものの、特に面白い内容でもない。
悠里の興味はもう消え失せており、すぐにAボタンを押してメッセージウィンドウを閉じてしまった。
「レベル13まで上げたけどさ。でも、こんなゲームってあるか? 最初の町から出られねぇまま、レベル13まで上げるなんて。未だに無一文だし」
いつまでも倒せないピンク兎が恨めしい。
暗転していく画面から目を外して、悠里はぼやきながらサンドイッチを頬張る。
「んー、なんかちょっとずつフラグが立ってる気はするんだよな。でもイベントが始まったって感じでもねぇし。これサブイベなのか?」
一応、悠里は集落を軽く回って兎達に話しかけてはみた。
しかし何かイベントを感じさせるような会話をしてくる者はおらず、結局訓練場で兵士相手に経験値を稼ぐばかりだった。
「もっかいあの豚兎にでも話しかけてみるかぁ」
この集落の長、ブーポッポが何か鍵を握っているのではないか。
そう思いながら、悠里はサンドイッチ最後の一口をぽんと口に放り込んだ。
暗転が解け、ユーリの部屋が映し出される。
悠里はいつものようにユーリを操作し、部屋から出ようとした。
≪ユーリさま! たいへんです!≫
「お?」
突然BGMが緊迫したものへと変わる。
部屋を出ようとしたユーリの前にポッポロが姿を現し、焦ったようなセリフが流れた。
≪このばしょが りゅうおうのてしたに ばれました! じきにやつらが おそってくるでしょう!≫
「あ、何かフラグが立ったっぽいな。よっしゃ、そいつらを倒せばいいんだな。レベルも上げたし楽勝だろ」
そのためのレベル上げだったのかと、今更悠里は思う。
だからこそ彼は、次のポッポロのセリフに顔を歪めることになる。
≪いまたたかっては かちめがありません! どうかこちらに! ユーリさまは みを かくしてください!≫
「は? いやいや、ここは協力して敵を倒す場面だろ。レベル上げにどれだけ時間くわされたと思ってるんだよ。っていつもの選択肢がでねぇし。強制イベかよ」
変なところで出てくる”はい”と”いいえ”の選択肢も出ず、ユーリはポッポロに部屋から連れ出される。
兎兵士達が慌ただしく歩き回る集落を進み、ついた先はポッポロの部屋だった。
ポッポロは部屋の壁の前に立つ。そこは何の変哲もない壁だったのだが――
「おお。穴が開いた」
ゴオンという効果音と共に、壁に大きな穴が開いた。
ポッポロはまたユーリを連れて、その穴の中へ入っていく。
そこはユーリの部屋よりもさらに狭い、ただの穴倉のような部屋だった。
≪ユーリさま。 これを≫
”ユーリは まりょくじしゃく を てにいれた!”
「なんじゃこりゃ。魔力磁石、か?」
ポッポロから何かを貰い、メッセージが流れる。
しかし見ても用途が分からないものに、悠里は困惑の声を上げた。
≪これは わたしのふたごの おとうとがもっている もうひとつのものに はんのうします。 この まりょくじしゃくが おとうとのいるばしょへ ユーリさまを あんないして くれるでしょう≫
「あー、コンパスみたいな奴か? ポッポロの弟限定の」
≪ただこれは みっかしか もちませんから きをつけてください。 いまのはんのうは にしを さしています。 おとうとならかならず ユーリさまの ちからに なってくれるはずです≫
使い方を理解した悠里。
しかし同時に、あることも察してしまった。
「いや……待てよ。ポッポロは? 一緒に行くんだよな?」
だが嫌な予感と言うものはよく当たる。
最後に開いたメッセージウィンドウを見て、悠里は一瞬言葉を失くした。
≪さいごまで ごいっしょできず もうしわけありません。 ユーリさま…… ごぶうんを おいのりして おります≫
そのセリフを最後に、ポッポロは部屋を出て行ってしまう。
彼女が出て行った後、またゴオンという効果音が鳴り、ユーリは完全に閉じ込められてしまった。
「おいおいおい……ふざけんなよ。何だよこのシナリオはよ」
しばらくして、戦闘しているような効果音が聞こえてくる。
悠里の苛立ちはここに来てピークに達した。
「普通一緒に戦うだろうが? 何で閉じ込められて待ってなきゃいけねぇんだよ。馬鹿じゃねぇの?」
ユーリを操作して、ポッポロが出て行った場所に体当たりを続ける。
しかし出口は開かない。
「ロクブラでもして穴開けろよ。戦闘で撃てるんだから戦闘じゃなくても撃てるだろうが。クッソ、ホント何なんだよこのゲーム」
何もやれることがなく、悠里はAボタンを連打しながら十字キーをぐりぐりと回す。
ユーリもまた落ち着かないように、狭い部屋をうろうろし始めた。
しかし何かが起きるわけもない。それがまた悠里の苛立ちを煽った。
カチャカチャと音を立てて、コントローラーを握る悠里。
そうこうしていると、突然戦闘の効果音がピタリと止んだ。
悠里の手も同時に止まる。
しかしまだ出口は開かない。
結局出口が開いたのは、それから十秒ほど後の事だった。
ボコォと崩れるような音が鳴り、壁が崩れた。
悠里は何も言わず、すぐさま外へと歩き出す。
そこには何も変わらない、ポッポロの部屋があった。
いつの間にかBGMは止まっている。
「何がどうなった……?」
悠里はぼそりと呟きながら、ポッポロの部屋を出る。
そして見た。
部屋の外は、どこもかしこも赤く染め上げられていた。
あちこちが赤いドットで埋め尽くされた集落。
そして、その上にゴロゴロと転がる何者かの長い耳。
だが、体は無い。それがまた不気味だった。
「何だよコレ……」
一瞬操作を忘れる。ユーリは画面の真ん中で足を止めていた。
「いや、他の奴らはどうなったんだよ。ポッポロは? バンポッポは流石に無事だよな?」
長い耳が転がる集落の中を、ユーリはあちこち探し回った。
数々の入れなかった部屋。自分の部屋、結局使わなかった道具屋と武器防具屋。
どこへ行っても誰もいない。あるのは血の跡と耳ばかりだった。
残るは長のいた大部屋と、訓練場だけだ。
だがどうしてか、悠里は訓練場には行きたくなっかった。
彼は先に大部屋へユーリを向かわせた。
「あ……。あれ、ピンクじゃね……?」
その道中、気づいたものがあった。
ピンク色の2本の耳が、道の脇に転がっていたのだ。
ピンクの耳。つまり、それは――
”バンポッポの みみだ……”
調べると、システムメッセージが現れた。
”みみのそばに けんが おちている”
”ひろいますか?”
はい いいえ
”ユーリは バンポッポのけん を てにいれた……”




