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Jam On The Rock〜頭のイカれたギルドマスターとその仲間が家族になる話〜  作者: 81MONSTER
-忌まわしき古竜の血-
9/9

最終節【邪竜ケイオスグリュード】



 全身を温かな光が、包み込んでいる。


 ハクビから供給される闇の魔力が、優しい光と折り重なっている。血中に流れる()まわしき古竜の血が、闇と同化していくかのように(けが)れを浄化されていく。そんな感覚に(とら)われながら、竜化する身体の変化に気付く。


 これまでは竜化するたびに、何かに取り憑かれたように制御が難しかった。それなのに、今は心と体が一体化したかの様に、自然と古竜の力を引き出せた。全身を竜鱗(りゅうりん)幾重(いくえ)にも折り重なる。背に生えた翼は、意の(まま)に動かせた。


 風を割いて急行する中で、ハクビへの想いが溢れていた。何が()っても守護(まも)るなんて大層なことを誓ったけど、自分はまだ余りにも弱い事に気付いた。


 ハクビやハウゾウ達に、助けられてばかりいる。自分の弱さに対する甘えかもしれないが、一緒に成長していきたい。もっと強く()って、ハクビを幸せに出来るような男に()りたい。ハデスとの一戦で、自分の弱さに気付いた。ハクビの大切さに気付いた。


 想いが強く()るに連れて、自分の中の弱さに気付いていく。


 そんな自分に、ハクビは優しさを伝えてくれている。感謝の気持ちが、心の中に満ちている。


 折り重なる闇の光が、古竜の血に溶け合いながら変化を与える。


 温かな力が、全身を駆け巡る。


真面(まとも)な面構えに、()ったみたいやな?」


 バウルの全身を、異常な魔力が包んでいる。


 目の前には、人化した邪竜がいる。こちらを窺いながら、臨戦態勢を()っている。明らかに、バウルを警戒している。


「本当に……その小僧に勝てれば、見逃してくれるんだな?」


「約束しよう」


 一体、どんな取引をしたのだろうか。すでに話が、付いているような感じだった。


 邪竜に警戒されるバウルは、異常すぎる。


「さぁ、小僧。邪竜ケイオスグリュードを見事、討ち(たお)してみろッ!」


「アンタが、やれば良いだろッ!」


 言っても無駄なのは、解っている。


「倒すこと自体は、可能や。だが、私がやれば……国が滅んでしまう」


 言っている意味が、解らなかった。


「私の本来の魔力は、封印されてるんや。体内に流れている一部の魔力しか、練り上げられない」


 益々(ますます)、訳が解らない。


 目の前にいるのは、間違いなく邪竜を凌駕(りょうが)した化物だ。


「冗談だろ?」


 はっきり言って、笑えない冗談だ。


「冗談だったら、どれほどいいやろうか。私の魔力を封印したのは、元妻だ」


「はぁっ……?」


 何もかもが、イカれすぎている。


 だけど、バウルの眼が余りにも哀しそうで、冗談には聞こえなかった。


「だから、魔力疾走(インパクト・ドライブ)の様な単純な技しか使えん。使えるんは、苦手な聖属性の術だけや」


 元嫁が一体、どんな化物かは解らないが、一つだけ解ることがある。


 バウルが異常だということだ。


「今のアンタから感じる魔力なら、勝てる気がするんだが?」


 並々ならぬ魔力が、バウルを包んでいる。


「一時的に封印を、無理やりこじ開けてるだけや。これでも全開やないし、振るえば手加減はできひん。隣国が消し飛ぶことになる」


 話がぶっ飛びすぎている。


 前方の邪竜から感じる魔力は、相当なものではあるが絶望的な実力差は感じない。(もっと)も、勝てるとも思っていない。


 明らかに邪竜の方が、自分よりも強いのは確かだ。


「どうして、封印を解いた? 放っておけば、害はなかったはずだろ?」


「依頼主が、邪竜の骨を欲している。ギルド的には、邪竜の討伐は必要なんや。本来なら、(せがれ)にやらせる予定やったんやが、別件で動いている」


 真面(まとも)に話していると、こっちまでおかしくなりそうだった。


 溜め息をつくと、レウスは抜刀していた。


 ――破竜断裂斬ドラゴニック・ミューティレイト


 斬撃が邪竜に届いた頃には、レウスは邪竜との距離を詰めている。明らかな実力差を埋めるには、奇襲しかない。すでにハクビは自分の意図を()みとって、闇の力を供給してくれている。出し惜しみするつもりは、一切ない。一気に叩いてやる。


 ――無尽竜刃ドラゴニック・スラッシュ


 無呼吸運動からの連続斬撃を、邪竜は涼しい顔で受け流している。全ての攻撃を、(さば)き払いながら反撃を入れてくる。ハクビの呼吸が、闇を通じて伝わってくる。邪竜の手刀を破竜刀で右側に()なして、左側から懐に潜り込む。それと同時に、ハクビが斬撃を放っている。


 ――死影半円月斬ハーフムーン・ブラスト


 闇の斬撃が、邪竜を捉えている。すでに破竜刀には、ハクビの魔力が宿っている。幾重(いくえ)にも折り重なる光と闇が、極限まで魔力を高めている。


 至近距離から、滅竜断影斬ドラゴニック・アニフィレイションを叩き込んでやった。


「私の皮膚を切り裂くとは小僧、人間にしては中々、やりおるな」


 血に染まりながら、邪竜が(わら)った。


「今度は、こちらから行かせて貰おうかッ!」


 禍々(まがまが)しい魔力の結晶が、邪竜の前方に出現する。


 背筋に寒気が走って、反射的に後退していた。


 ――貪婪結晶グリドリー・クリスタル



   ●



 ハクビの胸奥(きょうおう)を、不安が埋めていく。


 性格が災いしているのか、不安を抱くと際限(さいげん)がなく(とら)われてしまう。どうしようもない恐怖が、全身をそっと包み込んでいる。強大な魔力の渦が、邪竜を中心にうねりをあげている。


 ――貪婪結晶グリドリー・クリスタル


 魔力の結晶から、幾筋(いくすじ)もの光が伸びている。全身を焼かれるような痛みを感じているのに、皮膚が凍っている。燃えるような痛みが走り抜けていく。


 レウスの全身を、炎が包んでいる。焼かれながらも、刀を振るっている。


「ママ上、大丈夫でござるかッ!」


 燃えながら、ハウゾウが語りかけてくれている。


「ハウタ、寒いの嫌いッ!」


 氷に包まれるハウタの周囲を、魔力が収束している。


「どうやら、氷属性と炎属性の両方を、同時に行使しているようやな?」


 バウルが静かに、こちらに歩み寄ってくる。


 優しい眼差しを、こちらへ送ってくれている。不安が静かに、瓦解(がかい)していく。不思議で()った。バウルの存在が、心を落ち着けてくれている。


 ――神聖鎮火(ホーリー・スティール)


 バウルが手を(かざ)しただけで、周囲の魔力が消えた。痛みも何もかもが、()えている。


「お嬢さん。月の満ち欠けを、イメージしなさい。ゆっくりと、呼吸を落ち着けて」


 バウルの指示に従いながら、鎌を握る手に力を籠める。


 後ろから大きな魔力が、渦を巻いているのを感じた。もうすぐ、ハウタ奮塵が起きる。


「ハウタ、駄目だッ!」


「ハウタ、寒いの嫌いーーーーッ!」


 物凄い勢いで、ハウタが突進している。


 邪竜はそれを、全く意に介していない。巻き起こる爆発の中で、レウスが動いているのが解った。ハウタを庇おうと、動いているのが解った。


 ――死影満月裂斬(フルムーン・ブラスト)


 闇が温かく、包み込んでいる。ゆっくりと、ゆっくりと、時がスローモーションのように流れている。


 ハクビの放った斬撃が、邪竜の右手を切り落としていた。次にレウスの身体が、邪竜の一撃で吹き飛んでいた。その際に、ハウタも同時に吹き飛ばされている。瞬時にして、魔力が膨らむのを感じていた。大きな魔力の爆発が起きていた。


 ハウタ奮塵と同じことを、邪竜もしているのだ。


 視界を爆炎だけが埋めていく。


 記憶が残っているのは、それだけだった。



   ●



 大爆発が、全てを呑み込んでしまった。


 自分とバウル以外は皆、倒れている。


 レウスの胸裏(きょうり)を、悲しみが満ちている。


「ごめんな、ハウタ……」


 まだ、息は()る。だけど、危険な状態だった。ハクビが邪竜の右手を切り落としていなかったら、バウル以外は全滅していただろう。


 ハウゾウやハクビも、同じように倒れている。


 歯嚙みしながら、己の弱さに怒りが込み上げてくる。


「頼みが在る。皆を、治療してくれ」


 バウルならば、皆を救う事ができる。


 静かに経文を唱え始めるバウルから、温かな光が発せられた。光に充てられたハウタの傷が、癒えていく。少しだけ安堵して、レウスは頭上を見上げていた。


 巨大な竜が、こちらを見下ろしている。


 邪竜ケイオスグリュードの本来の姿だった。


「貴様らは、残らず皆殺しにしてやる」


 どうやら余程に、腹に()えかねているようだ。


 だが、怒りに関していえば、邪竜を遥かに超えている。


 懐から、龍鳳石(りゅうほうせき)を取り出す。力を解放してやると、大きな魔力が全身を流れてきた。だけど、これだけでは()だ、足りてない。腹立たしい事だが、今の自分では邪竜の力には及ばない。だから、覚悟を決めなければいけない。


 自分の弱さの所為(せい)で、大切な人達を傷付けさせてしまった。泣き言なんて、言ってられなかった。


 ――全身を熱く、鈍い衝撃が()き抜けていく。


 破竜刀で、自分の身体を貫いていた。


 自分の体には、()まわしき古竜の血が流れている。


 吐血しながら、古竜の血を無理やり解放していく。


 破壊される細胞が、強靭な竜の身体へと作り替えられていく。大きな魔力の渦が、心を優しく撫でている。甘やかな幻想が、脳裏を甘く痺れさせていく。力に酔い()れそうになるのを、抑えながら邪竜を睨みつける。


 ――ハクビの存在が、自分を変えてくれた。ハウゾウやハウタが、教えてくれた。


 守護(まも)るべき大切な存在が、強さを与えてくれている。


 不意に、大きな魔力が身体に流れ込んでくる。


「……レウスさん」


 倒れながら、ハクビが微笑を投げ掛ける。


 穏やかな気持ちが、心を満たしている。


「ありがとう、ハクビ!」


 翼を広げ、力強く羽搏(はばた)かせる。


 飛翔しながら、雄叫びを上げていた。


 ハクビへの想いが、心を満たしている。弱い自分を、ハクビは優しく抱き締めてくれている。


 強く、()りたかった。


 強く、()りたかった。


 ハクビを守護(まも)りたい。ハクビを、喜ばせたい。ハクビと共に、生きていきたい。共に笑い合いながら、一緒に歩んでいきたい。哀しい表情(かお)なんて、見たくなんてない。辛い想いなんて、させたくない。初めて出逢(であ)った時に、すでにハクビに惹かれていた。何よりも、誰よりも、ハクビを愛している。素直に気持ちを伝えられないけど、誰よりもハクビの傍に居たかった。


 その為にも、己の限界を超えなければいけない。


「愚かな人間よ。我が力を、思い知るが良いッ!」


 闇色の吐息が、魔力の塊となって飛び込んできた。


 破竜刀で受け止めながら、飛翔を続ける。激しい衝撃が、全身を撫でつけている。


 全身を流れる古竜の血が、(ざわ)ついている。全てを破壊しろと、脳裏に囁き掛けている。


 だけど、まだ足りない。まだまだ、力が必要だった。


 ――絶対聖域セイクリッド・サクリファイス


 全身を大きな力が、流れ込んできた。見ると、バウルが笑い掛けている。


「何が、聖属性が苦手だ。いつか絶対、ぶっ飛ばすからなッ!」


「やってみろ、小僧ッ!」


 バウルの術によって、邪竜の動きが鎮静化されていた。


 完全竜化する身体からは、有り得ない程の力が(ほとばし)っていた。


 ――破竜無尽斬インフィニティ・ミューティレイト


 無呼吸運動からの連続攻撃。その一撃一撃が、強靭な邪竜の身体を分断していく。細切れになるまで、動きを止める気はなかった。



   ●



 全身の力が、入らなかった。


 邪竜ケイオスグリュードは、レウスの剣撃でバラバラに砕けてしまった。


 気付けばハウゾウ達が、邪竜の肉を食べている。


(うま)ーーーーッ……で、ござる!」


「美味しいんにーーーーッ!」


 レウスは力を使い果たしたのか、眠ってしまっている。


 ハウゾウ達の見た目は変わらないが、魔力の量が急激に上昇しているのが理解(わか)った。きっと、あとからレウスに、しこたま怒られるんだろうな。庇ってあげたいけど、怒ると恐いもんなぁ。


 そんな事を思いながら、レウスを想った。


 ハクビにとってレウスは、特別な存在だ。誰よりも愛おしい存在だ。


 だから、常に一緒に居たい。ずっと、一緒に居たい。


 その為には、自分もギルド【ジャム】に所属しなければいけないのだが。


 どうしたものだろうか。


 ハクビは引っ込み思案で、人見知りなのだ。


 なので、人にお願い事をするのが、非常に苦手なのだ。


「ところで、お嬢さん。ウチのギルドに入らないかい?」


 バウルの唐突な申し出に、言葉が出なかった。


「そうか、嫌か。なら、レウスをどつき回さんとアカンくなるなぁ」


 バウルが、めちゃくちゃな事を言っている。


「入りたいです……」


 それだけ言うのが、精一杯だった。


「そうか、そうか。それは、良かった。では、私は先に帰らせて貰おうか」


「え……?」


 レウスは意識不明。


 自分も立ち上がる力が、残っていない。


 なのに、置き去りですか。


「置き去りですかーーーーッ!」


 ハクビの叫びだけが、快晴の青に吸い込まれていた。






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