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Jam On The Rock〜頭のイカれたギルドマスターとその仲間が家族になる話〜  作者: 81MONSTER
-忌まわしき古竜の血-
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第八節【闇の覚醒】



 天候が荒れていた。


 雷鳴と共に、土砂降りの雨が打ちつける。


「ハウタ、水きらい~ッ!」


「拙者、水浴びは好きでござるッ!」


 ハウゾウ達の(たの)しそうな笑い声をよそに、レウスの身体は緊張しているのが伝わる。闇を通じて、感覚を共有しているような錯覚に陥る。


 天高く飛翔したハデスからは、禍々しい力を感じた。何か途轍(とてつ)もない不安が、心に(まと)わりついて離れない。このままでは、不味いと()う事だけは理解(わか)った。今のままでは、自分たちに勝ち目はない。絶望的なまでの魔力の差を感じて、泣きたくなってきた。だけど懸命に歯を喰いしめて、堪えている。どうにかして、レウスの力に()りたい。


 レウスの(ため)ならば、何だってしてあげたい。


 (たと)えそれが、どんなに苦しくても構わない。自分の中に宿る力の全てを、レウスの為だけに捧げたい。


 自分でも不思議だった。出逢って数日だと言うのに、こんなにもレウスを想っているのだ。自分の全てを、差し出したいと感じている。


 ハデスが雄叫びを上げるのと同時に、周囲を大きな魔力が渦を巻いて光を放った。その光は幾筋もの雷鳴となって、レウスを襲う。


 (まばた)きをした時には、レウスの姿は消えて物凄い雷鳴だけが鼓膜を振るわせていた。上空でもう一度、雷鳴がした頃には、全身を炎に焼かれたレウスが落下していた。ほんの一瞬の攻防の中でも、レウスが押されているのが解る。ハデスが急降下して、レウスの襲い掛かっている。


 闇の残滓(ざんし)が、糸を引いている。


 レウスが後方に吹き飛んでいくのが見えて、胸が苦しくなった。レウスが傷つく姿なんて、見たくない。心の奥底から沸き起こる悲しみと、どす黒い怒りの感情が周囲の魔力を掻き集めていく。


「止めるでござるッ!」


「パパを、虐めるなッ!」


 ハウゾウとハウタが、獰猛(どうもう)表情(かお)でハデスの元に飛び込んでいく。


「駄目っ……」


 気付いた時には、動いていた。


 大きな光の弾丸が、ハウゾウとハウタに向けて放たれている。弾丸には、途轍(とてつ)もなく大きな魔力が籠められている。いくら強靭な竜とは言え、真面(まとも)に受けては只では済まない。


 ハウゾウ達が傷つけば、レウスが悲しんでしまう。レウスを、悲しませたくない。不意に大きな闇の魔力が、身体の中から沸き起こるのを感じた。これまでに感じた事のないほどの強大な力は、不思議と温かな優しさに溢れている。


 ――ハクビよ。


 唐突に、世界から光が消えた。


「……え?」


 音が無くなり、闇だけが全てを彩っている。脳裏に木霊する声だけが、全てを物語っている。



   ●



 (かつ)て神に、反逆を(くわだ)てた者が存在する。


 闇の神官リラ。


 彼女は自らの身体を、闇に捧げる事によって精霊と一体化した。


 闇の大精霊と化して、強大な魔力を手に入れた事によって、神に届くだけの力を手に入れたと錯覚した。


 結果だけ言えば、リラは神の御遣(みつか)いの手によって敗北を(きっ)した。その魂は荒ぶる精霊として、(ほこら)に奉られて鎮められた。


 長い永い年月を掛けて、リラの魂は次第に浄化された。そして完全に鎮静化された頃を見計らって、神は再びリラに更生の機会を与えた。


 転生された魂は全ての記憶を奪われて、別の生命として生まれた。


 ――ハクビよ。


 神の御使(みつか)いの声は、優しさに満ち溢れている。


 ――闇の荒霊(こうりょう)リラと共に、贖罪(しょくざい)を果たしなさい。


 自分自身に()された使命が、何なのかは解らないけれど、はっきりしている事だけは()った。レウスの為に、自分の全てを捧げたい。この身を犠牲にしたって構わない。


 温かな光が、闇の中で燦然(さんぜん)と輝いていた。


 それは、生命の(きら)めきであった。



   ●



 気付けば、ハデスの放った弾丸を(はら)っていた。


 全身から、重力の束縛が失われている。手に握られた大鎌からは、温かな力が感じられた。


 ハウゾウ達は空中で静止しながら、此方(こちら)を見ている。その表情は、いつもの陽気なものに戻っていた。少しだけ安堵する。


 ――漆黒死影斬(クレセント・ブラスト)


 弾丸をはらった闇の斬撃が、勢いを増してハデスの身体を捉えている。


 空中を舞いながら、ハクビは微笑を浮かべていた。レウスを包み込む闇にも、変化は訪れている。レウスの竜鱗(りゅうりん)に、闇が溶け込んで大きな翼を与えていた。


 レウスもまた微笑を投げ返すの見て、途端に心が跳ねるほどに嬉しかった。


「レウスさん、今ですッ!」


 飛翔するレウスからは、(ほとばし)るほどの魔力(エネルギー)が感じられた。


 大きく息を吸い込むレウス。ハウゾウとハウタもまた、同じように息を吸い込んでいた。とんでもない量の魔力が、一瞬にして集められている。三者が同時に、炎を吐き出していた。三つの炎が一つに重なり、溶け込んでいる。


 ――豪炎煉獄(インフェルノ・ブレス)


 煉獄(れんごく)の炎に焼かれる罪人のように、ハデスは苦しみ(もだ)えている。


 破竜刀に持てる全ての魔力を送り込むと、闇が鋭く折り重なった。


 ――滅竜断影斬ドラゴニック・アニフィレイション


 レウスの放った無数の斬撃が業火と共に、ハデスの身体をバラバラに分断した。


 全ての肉片が燃え尽きて、ハデスはこの世から完全に消滅する。


 安心して気を抜いた途端、重力が全身に()し掛かった。


「あっ……」


 間抜けな声を漏らすハクビを、竜の翼を羽搏(はばた)かせたレウスが抱き留めていた。


 温かな優しさに触れて、心が急激に乱れるのが解った。


「ハクビ。何も言わずに、聞いてくれ!」


 遥か先に、大きな魔力が息衝(いきづ)いているのを感じた。


 邪竜が復活してしまったのだろう。だけど今は、それどころではなかった。


 ハクビに取っては、それどころではない。


 余りにもレウスの表情が真剣だったので、呼吸すら忘れてしまっている。真っ()ぐな瞳に見つめられて、苦しくなる。だけど、いつまでも見つめられていたい。


 ――いつまでも、見つめていたい。


 何よりも、誰よりも、レウスが好きで()った。自分に取って、レウスが全てだ。レウスの為だけに、人生の全てを捧げたいぐらいに大好きだ。


 ()の想いを打ち明けてしまいたくなる程に、今のレウスが真剣に自分を見つめている。


「俺は、ハクビが好きだ。何が()っても、守護(まも)ってやる。だから、俺と一緒に来てくれ!」


 ――嬉しかった。


 素直に、泣くほどに、嬉しかった。大粒の涙が溢れ出して、上手く言葉が紡げなかった。


「私も……レウスさんが、大好きです」


 それだけ言うので、精一杯であった。


 気付けばハウゾウ達が、周囲を旋回している。その姿がまるで、天使のようで可愛らしかった。


「パパ上、一大事でござるッ!」


「解ってる。皆、もうひと踏ん張りだからね」


 レウスの魔力が、優しさを帯びているのが理解(わか)った。


 先程までと、明らかに違っている。


 光と闇が折り重なりながら、ハクビとレウスをより強固に繋げていた。






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