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Jam On The Rock〜頭のイカれたギルドマスターとその仲間が家族になる話〜  作者: 81MONSTER
-忌まわしき古竜の血-
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第七節【破竜刀アポカリプス】



 甘い微睡みが、心を(とら)えている。柔らかな温もりが、肌に伝う。ハクビの吐息が、優しく耳に掛かるのを感じて、心を秘めやかな熱情へと彩って()く。ハウタはいつの間にか、ハウゾウと共にベットの下で寝ている。完全にハクビと密着する形で、抱き付かれている。


「レウスさん……」


 耳元で囁く声が、心博(しんぱく)を加速させる。


 横目でハクビを見る。余程に疲れていたのだろう。完全に熟睡しているようだった。可愛らしい寝顔が、無性に愛惜(いとお)しく感じられた。このままずっと、いつまでも見つめていたい。深雪のような白い肌に、そっと触れてしまいたい衝動に()られていた。どうしようもなく、ハクビに恋慕(れんぼ)の情を抱いている。生まれて初めての感情に、戸惑い(うれ)いている自分がいる。愛しくて、恋しくて、気が変になりそうだった。


 ――ハクビを失いたくない。


 ずっと、一緒に居たかった。自分だけの物にしたいと言う独占欲に駆られて、身勝手な自分に苛立ちを感じる。自己嫌悪と慕情(ぼじょう)の波状攻撃に、激しく心が乱れている。ハクビの唇に、なぜだか視線が吸い込まれた。


 狂い咲いた恋心が、下心と合い舞う。


 このままでは、不味い。


 過ちをおかしてしまいそうだった。


 ハクビを起こさないように、ベットの下に左手を伸ばす。


 手に触れた毛並みからして、ハウゾウだと解った。彼女は少し、ごわごわしている。首根っこを掴み上げると、そっと抱き寄せる。意識が不思議と、ハウゾウへと向いた。獣の匂いが、平静を取り戻してくれる。


 溜め息をつきながら、眼を閉じる。


 頬を生温かい感触が、(ねば)りつく。大方、寝惚けたハウゾウが顔を舐めているのだろう。


 少しでも眠って、魔力を回復させないといけない。


 バウルは本気で、邪竜を復活させるつもりだ。恋心に、惑わされている場合ではない。


 湧き上がる恋心を無理やり押し込めて、レウスは眠りに就いた。



   ●



 目を覚ますと、牢が開いていた。


 ベットの脇には、取り上げられていた筈の破竜刀が立てかけられている。心当たりは、バウルしかない。邪魔をしたり、協力したり、バウルの真意を計り兼ねている。只、一つだけ言える事があるとすれば、間もなく邪竜ケイオスグリュードが復活すると言う事だ。だからこそ、バウルは自分を解放したのだ。


「レウスさん……?」


 全身を竜鱗(りゅうりん)が覆うのを見て、ハクビが不安げな声を漏らす。


「近くに誰か居る」


 声を落として、周囲を窺う。


 気配の殺し方からして、【アサシン・ファング】の連中だろう。


「ハウタ、そろそろ起きな」


 気持ちよさそうな寝息を立てるハウタの身体を揺すると、ゆっくりと目を開く。寝ている所を起こすと、ハウタは激昂する。


 不機嫌なハウタは、はっきりと言って手が付けられない。


「ハウタ、寝てるーーーーーーーーッ!」


 鼓膜を激しく刺激しながら、怒号を上げる。声が高い所為(せい)で、これだけで耳が痛くなる。


 狭い室内の空気が、びりびりと震える。


 空気中の魔力が、見えない渦と()ってうねりを上げる。


 不機嫌なハウタは、本当に手が付けられない。まだ子供とは言えハウタは、竜なのだ。(いか)れる姫君の逆鱗(げきりん)に触れる事は、死を意味する。


「又、始まったでござるなッ!」


 いつもの事なので、慣れた様子でハウゾウは伏せをする。


 ハクビを抱き寄せると、防御態勢を取る。魔力を練り上げて、闇の暗幕(あんまく)を全身に(まと)う。


 その刹那、大爆発が起きる。


 ――ハウタ奮塵(ふんじん)。と、個人的に呼んでいる。様々なものが、物凄い衝撃で吹き飛んでいく。毎度の事だが、物凄い威力である。と言うか、ハウゾウは伏せただけで毎度、耐え(しの)いでいるが一体、どういう原理なのだろうか。本人、(いわ)く。気合いでござる、との事だが。


 建物が一瞬で、内側から吹き飛んでいた。


「やれやれ、でござるな」


 瓦礫(がれき)から顔を出したハウゾウが、(すす)で汚れている。優しく払ってやると、少しだけ()げ臭かった。


 可愛らしい笑顔に、心が和む。


「ハウゾウ。女の子なんだから、綺麗にしないとね」


御意(ぎょい)ッ!」


 なぜか、伏せをするハウゾウ。


 可愛らしい。


「えっ……ハウゾウちゃん、女の子なんですか?」


 驚く、ハクビ。


 そう言えばハウゾウもハウタも、女の子で()ることを、言っていなかった。


「ママ上っ……失礼でござるッ!」


「ごめんなさい~ッ!」


 ――不意に、悪寒が走る。


 反射的に破竜刀を引き抜きながら、背後を振り返る。


 破竜刀を通して、鈍い衝撃が走る。


「昨日の決着を付けようかッ!」


 ぎらつく眼光が、こちらを捉えている。


 本能を剥き出しにしたハデスは、昨日とは印象が違って映った。


 剣撃の威力が、以前とは段違いである。



   ●



 ――破竜刀アポカリプス。


 竜の住まう火山帯では、特殊な金属が産み出される。火山の熱で長い年月をかけて、竜の(うろこ)や皮膚の表皮が溶けていく。それらが火山灰や土中の金属と混ざり合って、一つの鉱石が産まれる。


 一般的にドラグナー鉱石と呼ばれるその金属は、オリハルコンに並ぶほどの高度と魔力を持つ。


 破竜刀アポカリプスには、ドラグナー鉱石を用いられている。特殊な錬金によって打たれたその刀には、鍛冶師の魔力が宿っている。


 呼吸に呼応する様に、破竜刀に宿った魔力が目を()ます。業火のように宿った魔力が、破竜刀を燃やしている。


「どうやら、お主も本気のようだな。()らば、全霊の剣で応えるまでだッ!」


 暑苦しい言葉とは裏腹に、ハデスの剣に冷気が宿る。


 全身を流れる古竜の血が、身体を変異させる。表皮を覆う竜鱗(りゅうりん)は、幾重(いくえ)にも折り重なっている。


 視界が異常に明瞭(クリア)()っている。全身が異様に熱い。体内を(めぐ)る魔力の量が、普段とは桁違いだ。バウルに施された封印術に()って、制御できる臨界点までしか力は発揮されないが、気を抜けば一瞬で意識を持っていかれそうであった。


 ハデスの動きが、スローモーションのように錯覚される。気が付いた時にはすでに、抜刀を終えて、破竜刀を鞘に納めている自分がいた。


 ――破竜断裂斬ドラゴニック・ミューティレイト破竜断裂斬。


 ハデスの剣が折れて、全身を覆う鎧が砕けていく。


 激しく後方に吹き飛んでいくハデスを見て、驚愕して、更に警戒を強める。


「やったでござるッ!」


「パパ、強いんに~」


 ハクビだけが、眼を閉じて意識を研ぎ澄ませている。影がこちらに伸びてきて、闇が全身を包み込んでいる。


 ハデスの全身を、竜鱗(りゅうりん)が覆っている。


 それはつまり、古竜の血を飲んだことを意味する。


 先程の一撃に、(たし)かな手ごたえを感じた。完全にハデスの意識は断たれていても、何らおかしくはなかった。もしも、意識を喪失していたとすれば――。


 禍々しい魔力の渦が、暗雲を呼び込んでいる。


 悪い予感は、不思議と当たる。


「ハクビ。ハウゾウ達を、護ってやってくれッ!」


 ハクビが返事をするよりも早く、ハデスは天高く羽搏(はばた)いていた。


 全身を覆う竜鱗(りゅうりん)。背に生えた翼。異様に赤い眼に、額の角。何とか肉眼で確認されたその姿は、竜その物で()る。


 すでにハデス自身の自我は、存在していない。古竜の血が暴走すると、理性は失われ、自我は次第に薄れていく。尋常じゃない程の大きな力だけが、己の心を酔い()れさせる。


 力の暴走は、個の終わりを意味する。


 バウルが居なければ、自分も力尽きるまで破壊の限りを尽くしていただろう。






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