表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Jam On The Rock〜頭のイカれたギルドマスターとその仲間が家族になる話〜  作者: 81MONSTER
-忌まわしき古竜の血-
5/9

第五節【邪竜騎士ハデス】



「ハクビ、遠慮せずに食べな」


 申し訳なさそうに、前菜(オードブル)ばかりを食べるハクビに、スペアリブを取り分ける。この地域では、摩天狼(フェンリル)の肉が使われるのだが、臭みがなくて意外とあっさりしている。


 肉も柔らかくて、甘いタレが口の中で油と溶け合って絶妙なハーモニーを奏でる。


「ハウタはきちんと、野菜も食べないと……ハウゾウ。食べ過ぎない様にね」


 ハウタは好き嫌いが多くて、バランスを考えてあげないと栄養が偏る。


 ハウゾウは、放っておくと幾らでも食べてしまう。余り酷いと、下痢をする。


「美味しい?」


 恥ずかしそうに、スペアリブにかぶり付くハクビと目が合った。


「ほぉいふぃふぇす……」


「ごめん。何言ってるか解らない」


 口いっぱいに頬張るハクビが、とても可愛らしい。


「あんた、お母さんみたいだね?」


 豪快にスペアリブを(かじ)りながら、レゼが言う。


「そうかな?」


 生まれて直ぐに、両親が死んだので、お母さんと言う物がどんな存在なのかは解らないが、そうなのだろう。


「で? アンタらの目的は?」


 厄介な事なら、断るつもりだ。


「貴方たちも、【アサシン・ファング】の連中に襲われなかった?」


 ギルドの連中が何故、山賊まがいの事をしているのかは、確かに疑問だ。


「アイツら一体、何なんだ?」


「この先にある村は、邪竜を崇拝している。貴方たちの目的も、邪竜討伐なんでしょう?」


 気付けば、ハクビが不安そうな眼差しを送っている。何か言いたげだったが、無視した。


「邪竜について、知ってる事が有るなら教えてくれ。内容次第で、協力してやる」


「パパ、上から目線なんに~!」


「パパ上、人に物事を頼む態度では、ござらぬ!」


「お前らは、少し黙ってな」


 ハクビは終始無言だ。


「続けてくれ」


「村の名前は、アスラム。私達は、そこで生まれ育った」


 レゼは胸元をはだけさせると、竜の刺青(タトゥー)を見せた。


「邪竜の名は、ケイオスグリュード」


「ちょっと、待て。今、何て言った? ケイオスグリュードって言った?」


 竜にはそれぞれ、頭級が付いている。と言っても、滅竜士が勝手に付けた物だ。


 E~SS級まであるのだが、レウスが討伐可能なのは、A級までだ。邪竜ケイオスグリュードは、SS級だ。(かつ)て祖父が、命懸けで封印を施したのが、邪竜ケイオスグリュードだと言う話だが、完全にレウスの手には負えない相手であった。恐らく、バウルもそれは理解(わか)っている。


「ハウゾウ、ハウタ。帰ろっか?」


「帰るでござるか?」


「うん。無理だろ?」


 勝てる訳がない。


 バウルが何を考えているかは解らないが、やりたくない。


「ちょっと、待ってくれ!」


 ダリアが、口を挟む。


「俺達には、切り札が()る」


「切り札って?」


 レゼが懐から、小さな蒼い石を取り出した。


 半透明のそれからは、不思議な力を感じた。


「これって、龍鳳石(りゅうほうせき)じゃね?」


 竜がその生命を終える時に、最後の(エネルギー)を一粒の石に籠める。


 見た所、目の前の龍鳳石はSS級の力を感じる。


「これは邪竜を奉る祭壇に在った物を、私達が盗んできた物。連中は今、血眼になって探してるわ。わざわざ【アサシン・ファング】に依頼してでも、必要としている」


 大体の話は、読めた。


 邪竜復活には、龍鳳石の力が必要だ。


「これを、貴方に託す。だから、邪竜復活を何としても、阻止して欲しいの」


「あ~……めんどくせぇ」


 龍鳳石を乱暴に受け取ると、レウスは立ち上がっていた。


「ようは俺に全部、丸投げするってんだな?」


「別に、そんなつもりは……」


 立ち上がろうとするレゼを、手で制するレウス。


「良いよ、別に。どうせ、やらないと、バウルにボコられるし」


 逃げ帰れば、バウルにどんな仕打ちを受けるか解った物ではない。



   ●



「ケイオスグリュード様の導きにより、我等に新たな同胞が遣わされた!」


 司祭が壇上で、叫んでいる。


 村の中央に有る広場に、大勢の人が集まっている。


 壇上の片隅には、腰に剣を携えた男がいる。一目で邪竜を守護する騎士だと理解(わか)った。邪竜騎士の男は、相当な腕前だ。あとの奴らは、秒で沈めれる。


 司祭の横には、見慣れた男の姿がある。


「諸君。私が来たからには、邪竜を必ず降臨させる事を約束しよう。私には、大きな力が有る。龍鳳石の力を借りずとも、封印を解く術を持っている!」


 村全体を、熱が帯びている。


 皆、レウス達の来訪には興味がないと言った風に、男の演説に共感を示している。多くの歓声に包まれて、壇上の男――バウルは拳を天に掲げている。


「ふざけるなよ、おっさんっ……」


 意味が、解らなかった。


 邪竜討伐を依頼しておいて、わざわざ復活させようとしているバウルの真意が理解できない。


「レウスさん。知ってる人なの?」


 申し訳なさそうに、ハクビが問い掛ける。


「知ってるも何も、ウチのマスターだ。イカれ過ぎて、訳解んねぇ……」


 バウルの視線が、こちらに向いている。


「諸君、招かれざる者が、紛れ込んでいるようだ!」


 こちらを指差して、バウルが叫んでいた。


 言下(げんか)の内に、全員の視線が注がれる。


「逃げるぞッ!」


 ハクビの手を引いて、走る。


「祭りみたいで、楽しいでござる!」


「ハウタ。お祭り、好き~!」


 二人の笑い声が、場違いすぎて滑稽に思えた。


 人混みを掻き分けて、ひたすら走り抜ける。ハクビはずっと、不安そうな表情(かお)をしている。どうしてだろう。とても、愛おしく感じている。ハクビを護りたいと、感じている。だから、不安な表情(かお)なんて見たくない。


 背後からは、大きな魔力を感じた。バウルではない。恐らく、邪竜騎士だ。


「ハクビ、覚悟して!」


 振り向くと、邪竜騎士が居た。


 呼吸を整えると、全身を竜鱗(りゅうりん)が覆う。


 破竜刀を抜き放ち、前傾姿勢に構える。ハクビは既に闇の装束を(まと)っている。


「我が名は、ハデス。小僧、名前は?」


 剣を抜き放つと、男は誰何(すいか)する。


「レウスだッ!」


 大きく踏み込んで、破竜刀を振り上げ気味に放った。鈍い衝撃が、破竜刀を通して伝わってくる。


 ()ぜる金属音。交わる刃を通して、ハデスの力量が伝わる。周囲の空気が、冷たく全身を撫でる。紫色の光が、ハデスの剣に(まと)わり付いている。


「良い名だな、レウスよ。それに、良い目をしている。我等に従うのなら、命を助けてやるが……どうする?」


「ふざけるなッ!」


 闇色の吐息(ブレス)を、吐き掛ける。


 真面(もとも)に喰らって、呼吸困難に陥れば勝機が訪れる。


「それが、答えか……残念だ」


 全身に寒気を感じて、飛び退()いていた。


 ハデスの全身を、闇色の光が包み込んでいる。相当量の魔力を感じる。


「レウスさんを、傷付けさせないッ!」


 ハクビが闇色の斬撃を放つ。


 ハデスは剣で、軽く()なす。


 その隙を()いて、切り付けるが紫色の光に阻まれる。


 明らかな実力差を感じていたが、手を休める事が出来ない。無呼吸運動を利用した連続斬撃を只、ひたすらに続ける。


 ――無尽竜刃ドラゴニック・スラッシュ


 斬撃を放ちながら、魔力を練り込んでいる。その全てを、ハデスは制している。一撃を放つごとに、レウスの魔力は増大している。魔力が絶頂(ピーク)を迎えると同時に、ハデスの全身を包む力も増大していた。


 紫色の光と、闇色の斬撃が、二頭の竜と()って喰らい合っている。その瞬間、大きな(エネルギー)が生まれて両者の間で爆発が起きる。


 砂埃(すなぼこり)が両者の姿を、覆い隠している。


 瞬間的にレウスは、気配だけを頼りに破竜刀を振るう。ハデスの剣と、破竜刀がぶつかり合うと、再び爆発が起きた。尚も両者は止まらない。三度、四度と爆発が重なっていく。激しい(エネルギー)の衝突が続く中、ハクビが闇の力を練り込んでいる気配を感じている。


 同時に遠くから、禍々(まがまが)しい力も感じた。


 バウルが祭壇から、衝撃疾走(インパクト・ドライブ)を放とうとでも()うのか、悪い予感が脳裏を掠めている。ハウゾウ達は、相変わらず楽しそうな笑い声を上げている。






皆さんの評価やブックマークが励みになるので、面白いと感じた方。


広告の下の☆☆☆☆☆をタップして評価をお聞かせくださると、嬉しいです!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ