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Jam On The Rock〜頭のイカれたギルドマスターとその仲間が家族になる話〜  作者: 81MONSTER
-忌まわしき古竜の血-
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第二節【闇法師ハクビ】



 ハクビには、特殊(とくしゅ)な才能がある。



 精霊と心を通わせて、同調(シンクロ)させる事が出来るのだ。

 世にも珍しい能力(ちから)であったが、彼女は折角(せっかく)才能(ギフト)を持てあましている。



 故に能力(ちから)の使い方を知らない。



 知らない――と言う事は、使えない事と同異義語ではない。能力(ちから)を振るえはするが、制御が出来ないのだ。




 闇と同化した彼女は、夜に溶け込むような錯覚(さっかく)をする。ハクビは闇の精霊と契約(けいやく)を交わしたため、闇属性の魔力を手に入れている。最も全てが無自覚なので、何が出来て、自分が何をしているのかも理解(わか)っていない。




 ハクビの生まれ育った里は、本当に小さな集落であった。人口数も五十にも満たないほどで、自給自足の生活を送って過ごしてきた。外界との接触を、極端に避けていた。



 だけどハクビは、不自由を感じた事はない。それに里の者達も大好きであった。




 ――里が、燃えている。




 見知らぬ二人組の男が、含み笑いを浮かべながら里の者達を殺している。



 親しき者達の断末魔の悲鳴が、十五歳の少女の心を無情に()き乱していく。胸の奥底を、何かが掻き(むし)っていく感覚に(さいな)まれて、ハクビは苦しくなっていた。




 ハクビの全身を、闇色の影が覆う。其れはまるで死神の装束のように、ハクビを秘めやかに彩っている。漆黒の鎌が、いつの間にか握られていた。闇夜の月が、美しい音色を奏でている。漆黒の刃が男達を嘲笑うかの様に、襲い掛かる。其の影はまるで、獰猛な獣で在るかの様に男達を喰らっていた。




「駄目ッ……」




 か細い声が、闇に消える。


 次の瞬間には、闇が飛散(ひさん)して里の者達を襲っている。ハクビの意思に関係なく、闇が暴れ狂っている。





「お願いッ……止めてッ……」




 ハクビの胸奥を、悲しみと罪悪感が埋めていく。




「お願いッ……」




 ハクビの声は、何処(どこ)にも届かない。


 次々に里の者達が、襲われている。




 ――殺したくない。誰も、傷付けたくない。お願いだから、誰か助けて。




 届かぬ声が、闇に呑まれていく。




「辛いよなぁ……」




 優しい声が、ハクビの心を温かく抱擁(ほうよう)する。


 呼吸も出来ないほどの衝撃が、ハクビの胸を締めつけている。




「力の(おさ)め方は知らないけど、俺が何処(どこ)までも付き合ってやる」




 眼前の少年は、穏やかな表情で笑い掛けてくれた。




 ――嬉しかった。不謹慎だけど、嬉しかった。



 その頬を伝う涙の意味が解らなくて、ハクビは戸惑っている。気付けばハクビの頬にも、涙が流れていた。




「お願い、逃げてッ……」




 一際(ひときわ)、大きな力を己の内側(なか)に感じて、ハクビは声を振り絞る。


 ハクビの周囲を、闇が収束していく。




「大丈夫。この程度じゃ、死なないから」




 解き放たれた闇を、少年は剣で払っている。




「疲れ果てるまで、俺と踊ろうッ!」




 少年の笑顔が、ハクビの闇を(はら)っていくのを感じた。




   ●




「あ~ッ……。めっちゃ、疲れたッ!」




 ハクビを抱えながら、少年は叫んでいる。




「あの……降ろして、下さい……」




 消え入りそうな声で、ハクビは講義をするが少年は歩き続ける。



 夜明けまで、少年――レウスは付き合ってくれた。


 暴走する力を、全て受け止めてくれた。


 そして、最後まで話し掛け続けてくれた。




 自分の生い立ちや葛藤(かっとう)。ギルドでの自分への仕打ち。どんな物が好きで、何が嫌いかも教えてくれた。



 年が自分と同じ十五歳だと言うことも教えてくれた。




「降ろさないッ!」


「どうして、降ろしてくれないんですかッ!」



 恥ずかし過ぎて、死にそうだった。



「だって、歩けんやん?」



 全身に力が入らないほどの倦怠感(けんたいかん)が、ハクビを襲っている。




「歩けないですけど、置いて行って下さいッ!」




 置いて行かれたら、めちゃくちゃ泣くほどに辛いだろう。


 だけど、どうせ行く所なんてない。帰れる場所なんてない。



「何で又、泣いてるの?」


「だって……帰る所、ないもん……」



 皆を、傷付けてしまった。もう、戻れない。


 ハクビは号泣している。



「あ~……うるせぇ、泣くなッ!」


「だって……」



 自分は(ゆる)されない事を、してしまった。


 取り返しのつかない事を、してしまった。



「こっちが、泣きたいわッ!」


「ごめんなさい……」


「謝るな。怒ってないから!」


「だってぇ~……」



 気付いた時には、泣き止んでいた。



「行く所がないなら、俺についてくれば?」


「えっ……?」



 レウスの顔を見上げると、レウスも此方(こちら)を見ていた。


 目が合って、すぐに視線を()らす。



「どうせ俺も、今のギルドにしか、居場所ないし。それに……」




 そこまで言うと、レウスは言葉を切った。




「それに……なんですか?」



 何故だか、期待しているのか、声が少し弾んでいた。



「別に。何でもないから、気にすんな」



 ぶっきら棒に、言い放つレウスに、ほんの少しだけハクビは不機嫌な表情(いろ)を示した。



「もぉ~……やっぱり、降ろして下さいッ!」




   ●




 レウスは不思議な少年だった。



 自分と同い年なのに、自分なんかよりもよほどに大人だ。初めて里以外の人間――それも、同じ年の異性――と接したが、緊張と驚きの連続である。



 何故(なぜ)だか、レウスが気になった。だけど、恥ずかし過ぎて直視できないでいる。

 だから、こっそりと視線を送るのだが、その(たび)に目が合ってしまう。


 その度に、慌てふためいて怪訝(けげん)な顔をされる。




「ごめんなさいッ……」




「何で一々(いちいち)、謝るんだ。もっと、堂々としてれば良い」



 元々、ハクビは引っ込み思案で、臆病な性格だ。それに心配性で、自分に自信が持てないでいる。


 だから、何でもはっきりと言えるレウスが、凄いと思った。



「どうしたの……?」



 レウスが突然、立ち止まった。



「近くに、竜が居る」



 身構えるレウスを見て、ハクビは緊張している。


 そっと、レウスの横顔を盗み見るが、此方(こちら)の視線に気付いていない様子だった。



「来るぞッ!」



 剣を引き抜いて、レウスが前に出る。


 物凄い勢いで、二つの影が現れる。



拙者(せっしゃ)、ハウゾウでござる!」


「ハウタぁ~!」



 小さな翼の生えた竜が、人懐っこい笑顔を向ける。



「お前ら、何処(どこ)に行ってた?」



 緊張を解いたレウスが、二頭の竜に問い掛ける。



「パパ上が急に、いなくなったでござる!」


「もぉ~……ハウタ、パパおらんから、寂しかった!」



 白い猫みたいな竜が、ハウタと名乗っている。額のピンク色の模様みたいな毛並みが、めちゃくちゃ可愛いらしい。


 黒い犬みたいな竜が、ハウゾウと名乗っている。額の白い毛並みがこれ又、可愛いらしい。



「何、この子達。可愛い~!」



 思わず、近付いてしまった。



「ハウタ、可愛い?」


「うん。めちゃくちゃ、可愛いよ!」



 毛並みがフワフワしてそうで、触りたい。



「お主、誰でござるか?」



 真顔で問い掛けるハウゾウが、凛々(りり)しいのに可愛い。



「この子は、ハクビ。これから、一緒について来るから、仲良くしてやってくれ」



 レウスがぶっきら棒に、二頭に言い聞かせる。



「つまり、拙者(せっしゃ)たちのママ上でござるなッ!」


「ハウタのママ?」



 二頭が目を、爛々(らんらん)と輝かせている。



「何で、そうなる?」



 レウスが眉を(ひそ)めながら、問い掛ける。



「ママ上、良き夫婦(めおと)()るでござる!」


「え、夫婦(めおと)って……あ、あのっ……」



 ハクビは顔を赤らめながら、動転(どうてん)のあまり言葉に詰まっている。


 その様を、興味がないと言った様子で見ていた。



「知らん。勝手にしてくれ」





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