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Jam On The Rock〜頭のイカれたギルドマスターとその仲間が家族になる話〜  作者: 81MONSTER
-忌まわしき古竜の血-
1/9

第一節【血の衝動】



 古竜(こりゅう)の血が、(ざわ)ついていた。


 ()まわしき血の衝動を、抑えられないでいる。


 押し寄せる破壊欲が、目の前の男を滅ぼせと囁いている。



「どうした……小僧。お前の力は、そんな物なんか?」



 男は僧侶であった。

 だが、その(たたず)まいは何処(どこ)か、神聖な物とはほど遠い印象が感じられる。



 レウスは男の(かも)し出す雰囲気(オーラ)に、得体の知れない恐怖を感じている。他者を圧倒する様な鋭い眼光が、レウスを捉えている。



 先程から古竜の血を開放して、全力の剣撃を繰り出しているが、(ことごと)(かわ)されている。それも、至近距離であるにも関わらずにだ。どうにも、調子が狂わされる。




「この距離は、やりづらいか?」




 余裕の表情を(たずさ)える男は、只の一撃も放ってはいない。防御(ディフェンス)だけで圧を掛けて、レウスを後退させている。



 古竜の血が、強大な魔力を帯びて己の身体を変容(かえ)させていく。全身の表皮を、竜鱗(りゅうりん)が覆う。硬質化された肉体は、如何(いか)なる物理攻撃も、魔力をも()退()けるほどに強靭な物となる。



 男の拳に、尋常じゃない魔力が収束している。



 ――やる気だ。



 背筋を、悪寒が走る。

 それは、死のイメージだ。



「ちょっと痛いから、歯ぁ喰いしばれよ?」



 次の瞬間。



 身体の中心から全身に有りえないほどの衝撃が走る。



 竜化した肉体を、身体の内側から破壊されていく。骨は砕け、臓腑(ぞうふ)が悲鳴を上げている。地に伏しながら、吐血しながら身悶(みもだ)えしているレウスを、男は見下ろしている。



「必殺、衝撃疾走(インパクト・ドライブ)や」



 大層な名前を付けているが、単に魔力を込めた拳で殴っただけだ。

 それだけで、レウスの身体を致命的に破壊している。



 男の名は、バウル。


 悪名の高いギルド、【ジャム】のギルドマスターだ。




 大僧正バウルの名を聞いた者は、どんな猛者(もさ)も青い顔をして避けるほどの傑物(けつぶつ)である。



 全く、厄介な男に捕まった物である。薄れていく意識の中で、レウスは微睡(まどろ)んでいた。




   ●




 滅竜士(めつりゅうし)の家系に生まれたレウスは、幼少の頃に古竜の血を飲まされた。



 両親はすでに、物心がついた頃に死んだと聞かされている。

 厳格(げんかく)な祖父に、滅竜士として育てられてきた。古竜の力の使い方を、徹底的に叩き込まれている。祖父は(かつ)て、大きなギルドに所属していたと聞かされた事がある。



 その頃から、バウルの名は有名だった。デルファデルの悪魔の異名は、異様に強かった祖父ですら、倦厭(けんえん)させていた。




 ――バウルに出逢(であ)ったら、全力で逃げろ。もしも捕まったら、その時は諦めるのじゃ。




 事在(ことあ)(ごと)に、祖父はバウルの話を語っていた気がする。



 古竜の血は、大きなリスクと引き換えに強大な力を与えてくれる。祖父の全盛期には、多くの竜を一族が(ほふ)ってきたと聞かされていた。



 仕事の依頼は()きる事がなく、多大な財と地位を築いている。



 そんな祖父を、引退にまで追い込んだのがバウルだという。



 レウスが生まれた頃には、人里が離れた地で細々と家業が行われている。レウス自身も十二歳の頃から、一人前の滅竜士として働かされてきた。



 家業を(こな)していく内に、レウスは常人離れをした力を持てあますようになっていた。




 増大する力に比例して、古竜の血を制御することが出来なくなっていたのだ。



 その事を祖父に相談する前に、他界してしまった。現存する親族は、どこに居るかも解らない姉だけであった。レウスが十二歳の誕生日を迎えた日、姉は忽然(こつぜん)と姿を(くら)ませた。ゆえに頼れる存在が居なくなってしまった。




 そんな中で、粛々(しゅくしゅく)と家業を続けていた。


 ところがある日、バウルに出逢(であ)ってしまう。



 竜を滅ぼした直後、古竜の血が暴走したのだ。



 脳裏(のうり)を古竜の血が、(すべ)てを壊せと(ささや)いている。目に映るものを全て、破壊し()くしてしまいたい衝動に()られて、レウスは無作為(むさくい)に力を開放させていた。



 体の内側から押し寄せる力を、抑えることなく解き放った時の快感を今も忘れられないでいる。甘く脳を(しび)れさせるほどの力が、レウスの心を(しば)りつけているのだ。



 その力の矛先は、バウルに向けられていた。その時のバウルは、とても優しい眼をしていたのを良く(おぼ)えている。



 気付いた時にはレウスは地に伏して、異様に大きな数珠(じゅず)に縛られていた。



 只、バウルの唱える経文を聞くことしか出来ないでいた。温かな力が、古竜の力を包み込んでいるのが理解(わか)った。レウスの頬を、涙が伝っている。腹の底から、振り(しぼ)った言葉は声にならなかった。




 ――ちくしょう。




 確か、そんな言葉を()らしていたと思う。


 レウスは生まれて初めて、涙を流していた。それほどまでに、過酷(かこく)な人生を歩まされてきたのだ。



「負けたのが、そんなに悔しいのか?」



 冗談交じりに、バウルが問う。

 その声が、異様に優しく感じられた。



 (かぶり)を振ろうとしたが、地に伏しているので出来なかった。認めたくないが、確かにバウルという男に()かれてしまっていた。



「小僧、名前は?」



 バウルの誰何(すいか)に応えたかったが、口の中はズタズタだったし、上手く声が出せなかった。



 ――と。唐突に、バウルが笑い出す。



「何や、お前。どんなけ、シャイやねん。おもろい()っちゃなぁ。良し、気に入った。お前をウチのギルドに入れたる。勿論、断ったら殺すからな?」



 滅茶苦茶な申し出であったが、内心では嬉しかった。


 それが不運なのか、幸運なのかは解らないが、レウスは【ジャム】に加入する事となった。




   ●




 以来、連日の様にバウルとの組手が行われた。


 毎度、半殺しにされては、治療を受けている。


 意識を取り戻した頃には、バウルは煙草を吹かしていた。



「そろそろ、お前にも仕事を任しても良いかな?」



 嬉々とした目で、此方(こちら)を見つめている。



 そんなバウルも、今年で還暦(かんれき)だと聞かされている。正直、気色が悪い。素直にその事を伝えれば、殺されてしまう事だろう。



「向こうの方に、何たらって町がある。そこで邪竜が復活するから、倒してこい」



 仕事の内容が、余りにもフワッとし過ぎているが、抗議すれば殴られそうだった。



 バウルと出逢(であ)って二週間だったが、理不尽な目にしか()わないので、従うしかなかった。(いま)だにギルドのメンバーには、サブマスター以外には会った事がないのは、恐らくその所為(せい)だ。



 (ろく)でもない目に、自ら()いに来る物好きはいない。



「ほな、任せたでぇ~!」



 笑いながら手を振るバウルに、殺意を感じたがレウスは吞み込んだ。



 日はすでに、沈んでいる。


 夜気が肌を()でるが、レウスは直ぐにギルドを後にした。少しでも早く、バウルから離れたかったからだ。



 何とか、という町が何処(どこ)にあるかは解らないが、邪竜の気配を探りながら歩いていくしかなかった。




 古竜の血が、竜の気配を教えてくれる。だから、竜の居場所を探知することが出来る。勿論、その逆もありえる。竜に己の存在を勘付(かんづ)かれる事も、これまでに何度かあった。竜の中には、非常に憶病(おくびょう)な種も存在する。



 異例が無いぐらいに、竜は決まって強い力を有している。にも(かかわ)らず、臆病な種や慎重(しんちょう)な者が存在する。邪竜がどんなタイプかは解らないが、心して掛からなければならない。



 初の仕事が馴染(なじ)みのある内容で、レウスは安心していた。


 それがどれほど甘い考えだったかを、これから嫌と言うほどに思い知らされる事になる。





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