第7話 褒賞
「さて、フローラ嬢、コルネリア嬢」
「「はっ、はいっ!」」
「その方らは呼びもせぬのに朕の眼前に進み出て意見をしおった」
「「もっ、申し訳ございません!」」
「それがいかに重大なことかわかっているのか?」
陛下の厳しい視線にさらされ、お2人の顔色は、青を通り越して真っ白になっていらっしゃいます。このままではいけません。お2人を助けてさし上げなければ、そう思い、わたくしが声を上げようとした瞬間、陛下の表情がぱっと緩みました。そして、その後、陛下のお口から発せられたお話は、全く予想外のものでございました。
「その方らを罪に問おうとしているわけではない。まあ、そう怯えるな」
わたくしは開きかけた口を閉じました。一安心でございます。
安心すると同時に、1つの疑問がわたくしの中に浮かんで参りました。では、お2方は、なぜお言葉をかけられたのでございましょうか?
「女性の身でありながら、自らこのような場に進み出て、友人の弁護を行う。また、自分の行為に非があれば、素直に反省できる。なかなかどうして、出来ることではない。なあ。コンラート」
「おっしゃる通りでございます」
後に控える小姓から、箱のようなものを受け取られた陛下は、コンラート様を手招きなさり、その箱をお渡しになりました。
「コンラート! これを」
「御意!」
箱を受け取ったコンラート様は、フローラ様、コルネリア様のもとに跪き、その箱を開かれました。
「陛下からのご褒賞でございます」
それは、……宝石箱でした。箱のサイズこそ小ぶりではございますが、中身は大粒の素晴らしい宝石がぎっしり。フローラ様、コルネリア様のお顔が一気に上気していくのが、端から見ていてもわかります。
「このような場で、大したものは準備できないのだが、朕の気持ちである。納めてほしい」
「ありがとうございます」
「謹んでお受けいたします」
「ホルヴェーク子爵。シリングス子爵。これへ」
「「はっ!」」
「その方らの息女の行い、見事であった。情に厚く、勇敢で、正直でもある。このような子女教育がなされていることを各国使節の前で公表することが出来たことは、我が国の誇りである。よって、これを取らせる」
後に控える小姓から、剣を受け取られた陛下は、ホルヴェーク子爵様、シリングス子爵様にその剣を直接下賜なさいました。
「「ありがたき幸せにございます!!」」
「さて、ホルヴェーク子爵。シリングス子爵。その方らの息女フローラ嬢、コルネリア嬢であるが、嫁ぎ先は決まっているのか?」
「はっ!フローラには幼なじみの許嫁がおりまして、学院を卒業後に結婚する予定でございます」
「コルネリアは一人娘でございますので、婿を迎える予定でございまして、3年前に婚約が整ってございます」
「では、……うん、そうしよう。ホルヴェーク子爵、シリングス子爵。フローラ嬢、コルネリア嬢の結婚式には、朕を招待してもらいたい。息女がいかに素晴らしい人物であるか、朕の口から皆に紹介いたそう」
「な、なんと。ありがたいお言葉!」
「も、もったいのうございます!」
会場全体が、割れんばかりの拍手と歓声に包まれました。
普通、子爵以下の下級貴族の冠婚葬祭に、陛下が御臨席されることはございません。それのみならず、祝辞まで述べてくださるとは、なんと名誉なことでございましょう。
わたくしは、お2人と一緒に友人たちに、もみくちゃにされながら、手を取り合って喜び合いました。
わたくしは、浅はかにも、これで終わりだと思っていた。しかし、この祝福も、彼らの狡猾なたくらみの入口でしかなかったのだ。
皇帝から素晴らしい褒賞を受け喜びあうエミリアとその友人たち。しかし、まだイベントは終わってはいなかった。次回は『断罪(真)』。お楽しみに!