第4話 証言者
「本日この場において、皇帝フリードリヒ・ザルツラント・シュバルツは、エミリア・ローゼンブルグとの婚約の破棄を宣言する!」
ざわっ
ざわざわっ
ざわざわざわっ
ざわざわざわざわっ
ざわざわざわざわざわっ
ざわざわざわざわざわざわっ
ざわざわざわざわざわざわざわっ
ざわざわざわざわざわざわざわざわっ
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわっ
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわっ
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわっ
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわっ
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわっ
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわっ
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわっ
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわっ
「静粛に!!」
広がったざわめきは、ホール全体に響き渡るコンラート様の一喝で静まりました。
と同時に、あまりの衝撃に硬直していた、わたくしの脳も動き始めました。
今の陛下のお言葉は何かの間違いであってほしい。そう思い、すがるような目で陛下の見つめ、そして、悟りました。
わたくしは身震いをしておりました。間違いではなかったのです。
わたくしを見下ろす陛下の目。その冷淡なことといったら……。
もはや聞き違いを期待することは。愚か者のすること。
と、すれば、何か誤解があるに違いございません。弁明申し上げなければ……。
わたくしは必死の思いで口を開きました。
「恐れながら申し上げます!」
「発言を許す。申せ」
「この度のご発表ですが、いささか腑に落ちません。わたくしは、これまで陛下のお側に控えるべく、それなりに励んできたつもりでございます。また、わたくしもローゼンブルグ家の者も悪事に手を染めてはおりません。僭越ではございますが、理由をお聞かせくださいませ」
「何、理由がわからぬと申すか! ……では聞かせてやろう。証言者これへ!」
「はーい」
貴族らしからぬ、だらしなく、妙に間延びした女の声が聞こえ、群衆の中から、いつにも増して派手な衣装を身につけ、手にわざとらしく包帯を巻いたカトリーナ様が、御前へ進み出ました。
……あの女の仕業でございましたか。
最近おとなしくなっていたかと思っていたら、陛下に讒言をしていたとは……。
でも、安心いたしました。あの者の讒言ならば、わたくしの潔白を証言してくださる方が、この場に多数おります。すぐに疑いは解けることでございましょう。
それにしても、あの女は小細工もまともに出来ないのでしょうか。一昨日まで、左手に巻かれていた包帯が、今日は、右手についています。証言自体、すぐにぼろが出るのではないでしょうか。
怒りを通り越して、呆れしか感じません。
陛下も、あのような者の讒言をお信じになるとは。……情けのうございます。おかげで国内のみならず、諸外国にも恥をさらしてしまうことになりました。后になった後は、しっかりと引き締めて差し上げなくてはなりませんね。
「ブラウン嬢、そなたがローゼンブルグ侯爵令嬢にされたことを、この場で証言いたせ」
「はーい、あいつわぁ、カトリーナちゃんがぁ、かわいいからぁ、嫉妬? してたんですぅ。何度もぉ、イヤミを言ってきたりぃ、かいぶんしょ? を送ってきたりぃ。でも、カトリーナちゃんのぉ、陛下へのぉ、愛はぁ、本物だからぁ、つらかったけどぉ、我慢してたんですぅ」
頭が痛くなって参りました。周囲を見ますと、どうやら大多数の皆様が、同じようなお気持ちらしく、こめかみを押さえたり、天を仰いだりしていらっしゃいます。陛下の指示で話しているので、皆、何も申しませんが……。
「そうしたらぁ、あいつらのぉ、仲間にぃ、呼び出されてぇ、校舎裏でぇ、大勢に囲まれてぇ、脅かされたりぃ、教科書を汚されたりぃ、「なっ!」服を破かれたりぃ、最後わぁ、この手のケガがぁ証拠なんですけどぉ、カトリーナちゃんを、カトリーナちゃんを……、学院の階段から突き落として殺そうとしたんですぅぅぅぅぅ。うえーーーーん」
話の途中だというのに、思わず声が漏れてしまいました。この女は何を言い出すのでしょう。教科書や服の件は、全く身に覚えのないこと、事実無根のことでございます。他の方の罪をなすりつけられたか、自作自演なのかはわかりません。……が、これは、思ったより手間取ることになるかもしれません。
荒唐無稽なことを話し出した男爵令嬢カトリーナに対し、エミリアの友人たちが勇気を振り絞って反撃に出る。次回は『わたくしの証言者』。お楽しみに!