第19話 ※もう1人の転生者 ~慶事~
あれから4年が経った。
いろいろとあった4年間だけど、変わらないこともある。
例えば、エミリアの謹慎がまだ解けないことだ。
俺は対応を一任されてるから、月に2回~3回ほどの頻度で手紙のやりとりをしてる。
本当は毎日でもしたいところなんだけど、流石にそれでは『謹慎』にならないだろうから、自重してる。それくらいエミリアとのやりとりは楽しいんだ。しかも、俺は忙しくてなかなか魔法の研究までは手が回らないんだけど、エミリアは、することがなくなったから、研究三昧みたい。時々手紙でアドバイスを求めてくるんだけど、かなりすごいレベルに達してるのがわかるんだ。また、エミリアと一緒に魔法の研究したいなぁ。
それだけじゃないぞ。細かい気遣いとか、文章にあふれる知性とか、本当にすごいんだ。
フリードリヒも馬鹿だよ。こんな良い子を捨てるんだから。あいつの結婚したイリリアの王女も悪い子じゃないけど、エミリアと比べちゃうから、どうしても見劣りがする。
俺、エミリア見ちゃったら、他の女のことなんか考えらんないよ。あーあ、俺でもワンチャン無いかな?
手紙の文面なんか見てると嫌われてはなさそうな気がするんだけど……。ただ、前世でも俺、恋愛スキル薄かったからなぁ。
そんなこんなで、俺がうじうじ悩んでいたとき、ニュースが入ってきたんだ。
皇后ルイーゼの懐妊だ。
最近、皇后の母国イリリア王国への援軍を巡って、フリードリヒとルイーゼは不仲だって噂が流れてたから、ちょっと心配してたんだけど、さすがは皇族。自分の義務をわかっていらっしゃる。ちゃんとやることはやってたんだな。子どもは生まれる前だから、まだどうなるかわかんないけど、治癒魔法なんて便利なものもあるし、これで、将来も一安心だ。
ただな、こうなると俺も覚悟を決めなきゃだめかな。実は、俺は「お家騒動の元になるから、陛下が御子を授かるまでは」って言って、結婚から逃げてたんだよね。きっと話題になるだろうから気が進まないけど、とりあえずお祝いを言いに行きますかね。ちょっと気が重いなぁ。
「皇帝陛下。皇后陛下。この度はおめでとうございます」
皇帝の私室に入った俺は、恭しく頭を下げた。
「兄上、頭を上げてくれ」
言われるとおりに頭を上げて、前を見た。私室には、数名の侍女の他は、フリードリヒとルイーゼだけだ。
よく見ると、フリードリヒは、満面の笑顔だが、ルイーゼは、そこはかとなく表情が暗い。あれ? やっぱり、まだぎくしゃくしてるのか?
「これまで少し時がかかってしまったが、無事、皇后も懐妊と相成った。今まで兄上には気を遣わせてしまったな」
あ、この流れは『くる』わ。
「いえ、陛下の統治を助け、国を安んじる。それが臣の務めでございます」
「いやいや、今まで兄上は、本当に、陰日向なく朕を支えてくれた。そこでだな、兄上もそろそろどうかと思ってな」
そぉら、おいでなすった。さて、どうやって、断ったら角が立たないかな。
「ところで兄上、そろそろエミリアの謹慎を解こうと思うのだが」
へ? ま、まじ!? おいおい、脈絡がよくわかんねーけど、ビッグサプライズだぜ!!
早速エミリアに教えてやんねーと!
「それは重畳。『恩赦』というわけでございますな。ローゼンブルグ侯も喜びましょう」
「それでだな、エミリアを赦免するときには『きちんとした結婚相手を斡旋する』ことを約束しておったはずだが、兄上は覚えておるかな?」
「は、確かにあの日、陛下はそのように約束してくださいました」
「うむ、約束通り、エミリアに相手を紹介しなければならぬのだが、1人だけ、この上ないほど素晴らしい男がおってな、兄上にその件を相談しなければと思うておったのよ」
そうか、そんなすごい男がいるんだ。俺もワンチャン有るかと思ってたけど、そんな候補がいるんじゃ勝てないな。グッバイ。俺の恋。
「さようでございますか。して、どのような者でございましょうか?」
「魔法の才能があり、内政にも力を発揮し、公平だ。朕に平気で諫言もする。ちょっと体が弱くてちょっと甘いところはあるが、素晴らしい、……俺の兄だ」
へ?
「へ?」
数瞬の間をおいて、俺は間抜けな声を出してしまった。
お、俺? 俺がエミリアの! 素晴らしいって、え、俺のこと? え、え、え?
俺と、え、結婚。だ、誰が! え、エミリアが?
混乱する俺にフリードリヒが追い打ちをかける。
「もう一度言うぞ。兄上。兄上を、エミリアの結婚相手として推薦しようと考えている。と言った」
自分でわかるほど顔が熱い。俺は真っ赤になっているらしい。
部屋が笑いに包まれた。
皆がひとしきり笑い、部屋が落ち着くと、フリードリヒが語りだした。
「7日後に、ローゼンブルグ侯邸でイリリアへの出陣記念パーティがある。その席でエミリアの謹慎を解く旨は、侯に伝達することにしているが、エミリアには兄上から直接伝えてやるが良い。その方がエミリアも喜ぶであろう」
「な、なにをおっしゃるのですか」
「ははは、兄上はエミリアと楽しそうに手紙のやりとりをしているではないか。朕はお見通しだぞ」
「うーーーー」
俺の顔はまた赤くなってるらしい。
部屋ではまた笑いが起こった。
「結婚は、戦が終わってからになるが、兄上もしっかりと準備をしておくのだぞ」
俺は自室に戻ると、早速エミリアに手紙をしたためた。7日後の発表より早く届く可能性もあるけど、慶事だからそれもいいんじゃないかな。
それにしても、俺とエミリアが結婚か、エミリア受けてくれるといいな。待てよ。受けてくれなかったらどうしよう。早く結果が知りたい!
やっぱり『鳩』で送るか。いや、機密事項もあるから、途中で誰かに見られでもしたら大変なことになる。じゃあ、早馬で。いや、早馬を使うほどの緊急事態じゃない。
あああ、もどかしい!!
今でも後悔してることがある。
このとき、何で俺は伝書鳩を使うなり、早馬を使うなりして、すぐに手紙を出さなかったんだろう。
失敗の多い俺の人生だけど、今後も含めてこれ以上の失敗はないだろう。このときの選択は、間違いなく俺の人生最大の失敗だ。
意味深な終わり方をした今回ですが、次回はまたもや視点が変わります。次回『歴史資料エミリア・ローゼンブルグの日記』。エミリアの日記には、一体何が書かれていたのか。お楽しみに!




