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第17話 ※もう1人の転生者 ~暗雲~

 俺も20歳になった。高等学院もあと1年で卒業だ。


 実は、エミリアとの勝負は、初等部(中学校)修了まで、5年近くも続いてたんだ。


 初等部に入ってからは、なんと、エミリアが少しずつ勝つようにもなったんだぜ。

 あ、入学の段階で、俺が第一皇子だってことはバレたから、「下僕になる『賭け』」はしてないぞ。


 ちなみに、パワーに加えて、知識や技術も身につけたエミリアを負かすのは、知識チート持ちとはいえ相当難儀した。


 アドバンテージがあった最初の頃はともかく、最後は勝率5割ぐらいになってたと思う。でも、どうやったら勝てるかを研究するのは、ゲームのやり込みみたいで楽しかったなぁ。

 対等の立場で語り合える存在って言うのは、この世界に生まれて初めてだったし。


 たぶんこれは、エミリアも同じだったんじゃないかな? 俺たちは良きライバルとしていられたと思う。


 勝負の後でいつもしてた『反省会』も楽しみだった。時間を忘れて議論したせいで、気付いたら周囲が暗くて、焦ったこともあったっけ。ただ、お互い普段はそんな姿を見せることなんてないから、焦りながらも笑い合ったことも、今となってはいい思い出だ。


 初等部で区切りをつけたのは、このままだと、俺とエミリアの噂が立ってしまうと思ったからだ。


「皇妃教育で忙しくなるだろうから」とか理由をつけて勝負は止めた。相手は未来の皇帝の婚約者だ。正直に言うと、個人的には残念だったけど、俺の楽しみのために、みんなに不和の種を植え付けるわけにはいかない。




 ちなみに、フリードリヒ(主人公)は『エミリア』ルート一直線だった。


 フリードリヒ自体が、ハーレム狙いとかするようなイカレポンチではなく、良識をもって成長してくれたのも良かったけど、それより何より、エミリアが、ゲーム中で見せていた傲慢さとかのマイナス面が解消されて、非の付けどころがないようなすごい女性に成長しちゃったんだ。


 勉学も運動もトップクラス。その上、俺との勝負の影響が大きかったんだろう。魔法は100年どころか1000年に1度レベルに成長しちゃった。


 おかげで、ライバルキャラが、みんな自分から身を引いちゃって、フリードリヒが選べる選択肢自体がなくなっちゃった感じだ。


 まあ、2人とも節度を守った状態で仲良くやっているようだから、このままなら心配はいらないだろう。


 見せ付けられる俺らとしては、「早く結婚しちまえ!」と思うんだが、高等部修了までは結婚しないんだそうな。


 ギャルゲーの方では、中等部(高校)卒業と同時に結婚できたのが、高等部(短大)まで引っ張るって言うことは、乙女ゲーの影響があるのかもしれない。ただ、もう改変しすぎなんで、どうなるか、さっぱりわからないのが、今のところの悩みの種だ。




 乙女ゲーと言えば、そっちの主人公『カトリーナ・ブラウン』が、なんか怪しい感じがする。あれは、もしかしたら、『転生者』かもしれない。


 しかも、よりにもよって、逆ハーを狙って動いているような気がしてしょうがない。


 こっち()は皇子で、あっちは男爵の娘だ。怪しいヤツは権力を使って排除しちゃいたいとこなんだけど……。


 ただなぁ、魔王が召喚されちゃったとき彼女(カトリーナ)がいないと困るんだよな。


 面倒なことに、魔王を倒すためには、彼女の聖属性が必須って設定になってるんだ。


 他にも方法があればいいんだけど、今まで魔王なんて現れたことがないから、倒し方自体がよくわからない。トライアンドエラーで導き出すにはリスクがでかすぎる。しかも、俺が作った設定なら、考えるヒントがありそうなもんだけど、魔王関係は、後付けで入れられた設定だから、俺には、皆目かいもく見当がつかない。


 カトリーナを呼びつけて研究しようにも、聖属性を身に付けるためには『覚醒イベント』が必要だから、呼んだはいいけど覚醒しない可能性だってある。その上、俺に近づけば、自動的にフリードリヒ(攻略キャラ)にも近づくことになるから、攻略を助長しちゃうことになりかねない。せっかくここまで頑張ってきたのに、俺のせいでエミリアを闇落ちさせたなんてことになったら、悔やんでも悔やみきれない。




 もやもやするけど、とりあえず様子を見ながら、泳がせておくしかない。

『人事を尽くして天命を待つ』じゃないけど、できることを精一杯して備えていくしかなさそうだ。


 それにしても、なかなか思い通りにはいかないもんだな。ま、人生そんなもんだろう。















 また、やらかしてしまった。


 父親である皇帝を救えなかった。これは完全に俺のミスだ。


 中等部(高校)が舞台のギャルゲーでは、フリードリヒ(主人公)は、『皇太子』扱いだったのに、高等部(短大)に在学中だった、乙女ゲーの方では『皇帝』になってたのを忘れてた。


 皇太子が皇帝になるためには、どんな条件が必要か。一番単純なのは『今上皇帝の死』だ。


 病気がちだった母はともかく、(皇帝)継母(皇后)も元気だったし、近々戦争をする予定もなかった。ゲームでは、婚約破棄とかしない限り、反乱が起こることもなかったから、完全に油断してた。



 ある日、高等学院に急使が駆け込んできた。


 高等部の授業を受けていた俺とフリードリヒ、それに中等部のヴィルヘルムは、学園長室に呼び出され、そこで、衝撃の話を聞かされた。(皇帝)が危篤だというんだ。


 つい先日会ったときも、特段体調は悪くないようだったから、最初は嘘だと思ったよ。どっちかと言えば、俺らをまとめて呼び出して、暗殺するか拉致しようとしてるんじゃないかって方をまず疑ったね。

 ところが、詳しく聞いたら、『魔法病』だって言うんだ。俺は崩れ落ちそうになったよ。


 残りの2人も同じような反応をしていたけど、俺とはたぶんちょっと違う。


『魔法病』っていうのは、この世界独特の病気で、治癒魔法をかけられたことによって発症する。さらに、治癒魔法をかければかけるほど悪化する、たちの悪い奇病なんだ。発症して治癒した人はいない、いわゆる『不治の病』ってヤツだ。だけど、俺は『魔法病』とやらの正体が、なんとなくわかってた。


 俺が、最初に研究を始めたのは治癒魔法だった。なにせ、いつ死んだっておかしくなかったんだから、必死だったよ。そして、研究を進めるうちに、この世界の『治癒魔法』と呼ばれているものは、実はいくつかの系統に分かれているんじゃないかって考えるようになったんだ。その後、独自に魔法を開発して、俺の心臓の病気は克服しちゃったから、あんまり突っ込んでは研究しなかったけど、『治癒魔法』と一括ひとくくりにされているものは、俺の調べただけでも、3系統は見つかった。


『体の抵抗力を高めるもの』

『悪い状態を元に戻そうとするもの』

『細胞自体を元気にするもの』


 具体的には、上記の3種類だ。


 で、一番上の『体の抵抗力を高めるもの』は、細菌やウイルス由来の病気には効くけど、けがは悪化が防げるぐらいで効果が薄い。宮廷に仕えている治癒師に、これの使い手はいなかったけど、死んだ母親が、風邪をひいたときとかに使ってくれてたのが、これだった。俺にとっては思い出の魔法だ。


 次に二番目の『悪い状態を元に戻そうとするもの』だけど、これは何にでも効く。あまり知られていないけど、実は部位欠損だって治すことができるすごい魔法だ。ただし、効果を十分に発揮するには、潤沢に魔力があるか、体の構造を熟知している必要がある。

 だけど、そんな人は滅多にいない。だから、この魔法を使う治癒師は、ほとんどが魔力を馬鹿食いするのに、肝心の怪我は治しきれない『腕の悪いヤツ』って扱いだった。

 修行を頑張って、『名医』的なポジションを得る人間が時々現れるから、在野にはいるんだけど、頭角を現す前に『無能』扱いされちゃうせいか、宮廷には1人しかいない。ちなみにその一人は、俺の『お抱え』だ。同僚からいびられて辞めそうになってところを捕まえたんだけど、今では良い感じに成長してるぞ。


 最後に一番下の『細胞自体を元気にするもの』だけど、少ない魔力で何にでも効く。怪我も治れば、風邪も直る。そのうえ疲労回復の効果まであるから、いろいろと重宝されてる。そして、この魔法は、なぜか人間(亜人種を含む)にしか効かない。だから、細菌とか、残留物とかを全く気にせずに、全身無差別にかけられる。

 前にやじりが体内に残ったままの怪我人が、魔法をかけられたのを見たことがあるけど、傷がふさがるだけでなくて、勝手に鏃が外に押し出されてきたのには、心底驚いた。

 こんなこともあって、皇城の治癒師は、ほぼ全員が、この魔法の使い手だった。


 だから、今回父にかけられた治癒魔法も、たぶん『細胞自体を元気にする』魔法だろう。


 この魔法は、すごくお手軽なんだけど、1つだけ問題がある。それは、人間の細胞なら無差別で効いてしまうってことなんだ。


 俺は、『細胞自体を元気にする』魔法をかけると悪化する『病気』っていうのは、『ガン』だと思ってる。


 癌細胞だって、人間の一部だ。たぶん、普通の細胞だけじゃなく、癌細胞にも『元気にする』力が働いてる。癌細胞って増殖力が強いから、『元気に』したら普通の細胞以上に増殖しちゃうんじゃないだろうか。増えた癌細胞によって体調が悪化する。どうにかしようと、さらに『治癒』魔法をかければ、癌細胞がもっと元気になって、さらに増える。この悪循環が『魔法病』の正体なんじゃないかと。





 俺は3系統どの魔法も使うことができる。魔力も国内トップクラスのはずだ。

 色々わかっってる俺が行って治療すれば、今ならまだ間に合うかもしれない。




 こんなことを考えていた俺の前に現れたのは、全身が2倍近くにも膨れあがった見るも無惨な父の姿だった。無駄だとは思ったが、一縷いちるの望みをかけて、必死に魔法をかけた。


 しかし、俺の魔力でも、この状態の父を回復するのは無理だった。


 俺が、血を吐いて倒れるまで魔法を使ったことで得られたのは、2時間程度の延命と、父の人間らしい見た目だけだった。




 今更後悔しても遅いが、こんなことになるなら、安易な治癒魔法の使用に警鐘を鳴らしておくべきだった。


 こうして、俺は父を失い。弟は皇帝になった。












 皇兄フェルディナントは転生者だった。順調に進んでいると思っていたゲームの内容改善だが、なぜかエミリアは婚約破棄されてしまう。あの時彼は何を考え、動いたのか。次回『もう1人の転生者 ~怒り~』。お楽しみに!


※第12話、13話辺りのネタバレが盛大に含まれています。そちらを先に読んでおかれることをお薦めします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 色々考えられていることがわかります◎ ただ一人、世界滅亡を阻止する男の苦悩ですね(*^^*)
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