第14話 ※もう1人の転生者 ~転生~
しばらく別視点が続きます。おつきあいください。
俺の名前は嘉谷健之。前の職業はシナリオライターだった。
代表作は『I Canキミに恋してる』という、中世風異世界を舞台にしたギャルゲーだ。
このゲームは中小のメーカーの作品としては、そこそこのヒットを飛ばしたんだぜ。この時は臨時ボーナスももらった。俺の人生の頂点だったねw
それはさておき、ヒットしたんだから大人しく『2』でも制作しておけば良かったんだよ。ところが、我が社の首脳陣は何をとち狂ったか、同じ世界観の乙女ゲーを制作しろって言い出した。「そんなの売れるはずねー!」って抵抗したんだけど、オヤジどもに押し切られた。
お前らがハーレム好きなのはよくわかったよ。だからってな、女の子が逆ハーが好きだなんて、とち狂ったこと思うなよ!
それでどうしたかって? 書いたよ。書いてやったよ。やれって言うからさ!
そしたら、「これじゃ足りないから、『悪役令嬢』を出せ」とか「『ざまあ』を入れろ」とか「いじめをさせろ」とか、さらに駄目出ししてくんの。流石に拒否ったら、メインシナリオ外された!
結果は予想通り、大惨敗だよ!
そしたら「最初のシナリオが悪かったせいだ!」って俺を責めるの。
「やってられっか!」ってやけ酒飲んでた所までは覚えてんだけどね。
急性アル中かなんだかわかんないけど、気付いたら転生してた。
笑ったね。コレどう見ても『I Canキミに恋してる』の世界だわ。だって、さっき皇后様がいたんだけど、声優のぶなぴーさんと同じ声でしゃべるんだぜ!
問題なのは、コレがギャルゲーなのか、乙女ゲーなのかよくわかんないってこと。
ギャルゲーの方なら、バッドエンドは皇帝暗殺だけど、乙女ゲーの方は魔王召喚からの世界滅亡だ。皇帝暗殺はともかく、魔王召喚なんてしゃれにならないだろ!
幸い俺は貴族っぽいから自由度は高そうだし、ゲームには登場しなかった『フェルディナント』なんて名前のモブだ。最悪、魔王召喚は阻止できるように、いろいろと動かせてもらうとしますかね。
じゃ、眠くなってきたから俺は寝るわ! 俺、赤ちゃんなんでねw
3歳になった。
なんかいろいろわかってきた。ただのモブ貴族だと思ってたんだけど、どうやらちょっと違ったらしい。
『フェルディナント』は、何と皇帝の庶子だったよ。母は元は皇后の侍女で、なかなか子ができない皇后に勧められて、愛妾としてお手つきになったんだって。母の実家は大した家格じゃないから、嫡子が生まれた今となっては、俺が継嗣となる可能性は、ほぼゼロ。
こんないきさつもあって、皇后が母を嫌っていないのが救いかな。けど、油断は禁物だ。
なぜかって言うと、ギャルゲーも乙女ゲーも『アンネリース皇后』も『フリードリヒ皇子』も登場してたけど、『ヘルガ妃』も『フェルディナント皇子』も出てこなかったからだ。なぜ出てこなかったのかはわかんないけど、一番それっぽいのは、権力抗争に巻き込まれての暗殺or処刑じゃないかな。政争になんか巻き込まれたら大変だ。皇后を立て、一つ下のフリードリヒ皇子を立て、目立たないように、目立たないように暮らしていくしかないな。
5歳になった。
このところ母の様子がおかしい。母は、最近病気がちで、よく息苦しさや胸の痛みを訴えてたから、魔法による治療や投薬を受けてはいたんだけど、全然良くなる気配がなかった。皇帝(父だ!)だって、全く回復する気配のない母の容態を変に思ったみたいで、治癒魔法だけじゃなくて、解毒魔法までかけさせたこともあったんだ。でも、な~んも症状に変化はなかった。
そんなある日、俺が城の階段を上ってると、胸が急に締め付けられたみたいに痛くなった。あんまり痛いから、『もしかしてコレは心臓の病気なんじゃないか?』って思ったんだ。で、はたと気が付いた。『まさか遺伝性の病気か!? 回復魔法とかあるから考えてなかったけど、まさかゲームに出てこなかったのは、2人とも病死してたってオチじゃないだろうな!?』って。
これはちょっと悠長に構えてはいられないみたいだ。変な争いごとに巻き込まれるのが嫌で、勉強や魔法について、ばれないように、こっそり手を抜いてたけど、『本当の能力を隠してたので、政争には巻き込まれませんでした。でも、成人もしないうちに病死しちゃいましたw』とかやってられるか!
もう遠慮はやめた。ガンガン魔法の研究をしてやる。逆に凄く目立つ方向に舵を取るんだ。優秀すぎて勿体ないから誰もが手放せないような、すげー人間になる。健之! いや、フェルディナント! 俺ならできる。できるはずだ! 必死で頑張ろう。うん、そうしよう。
もうフェルディナントも7歳だ。
あれから、悔やんでも悔やみきれないことがあった。心臓の病気だった母が死んでしまったんだ。
5歳の時から魔法の研究を始め、治癒魔法を中心にこれまで必死で研究してきた。で、努力の成果があって、原因を突き止めるまでは行ったんだ。でもそこまでだった。原因がわかっても治せるかどうかは別だった。
この世界には治癒魔法という便利な物があるけど、みんな適当に使っているみたいで、全く理論化されてなかった。これはいろいろな人の魔法を見ていて気付いたことなんだ。たとえば、みんな『治癒魔法』ってひとくくりにしているけど、傷を治しやすい魔法と、伝染病を治しやすい魔法は、系統が違うみたいだ。
もっと研究してみないと、はっきりしたことはわからないけど、これ、場合によっては効果がないどころか、逆に悪影響が出てることもあるんじゃないか?
今回の母と、おそらく俺の病気は、怪我でもなければ伝染病でもない。いままでの当てずっぽうで使っていた治癒魔法じゃ、効果がなかったのもあたりまえだ。
ただ、手がかりをつかむところまではきた。だからこそ、母のことは後悔しかない。
俺は、ゲームの制作側の人間だったから、魔力や体力の向上や回復のルールもわかってる。医療体制が進んだ日本から来たし、理系の大学も出てるから、すごく専門的なことは別だけど、人体のことについてだって、それなりにわかってる。
もっと早く動きさえしていれば、きっと母は助けられた。こんな後悔はこりごりだ。今は自分の治療が最優先だけど、やらないで後悔するよりはやって後悔したい。母の死以来、そう思って日々チャレンジしてる。
11歳になった。
懸案の心臓の治療だけど、何とかなったと思う。
まず、俺は、自分の心臓がどうなっているのかを調べるところから始めた。もちろん手術なんかできないから、筋肉や血液の動きを調べる魔法を開発した。
その後、他の人にもその魔法をかけられるように研究して、いろいろな人の心臓や血液の動きを調べた。すると、どうやら俺の心臓の筋肉は、人より弱いようで、上手く血が送れていないってことがわかった。
それからは、身体強化魔法の応用で、心臓の筋肉の働きをサポートする魔法を作ると同時に、筋肉を増やす魔法も研究した。実は失敗して死にそうになったこともあったけど、今生きてるから、いいじゃないか。
最近は、サポート魔法を切って生活してるけど、心臓がおかしくなることはなくなった。どうやら正常な人並みに心臓の筋肉が付いてくれたみたいだ。これで病死エンドは回避できたかな?
ちなみに、俺は、妾腹の上、病弱だと思われているので、周囲の扱いが軽いのが助かっている。
なんだか知らないけど、この国は武人タイプが尊敬されるっていう傾向がある。心臓が弱いと思われてる俺は、後継者として不適格だと認識されているみたいで、すり寄ってくる輩もほとんどいない。
そんなこともあって、皇位継承のライバルと認識されないせいか、継母の皇后様にも、かわいがってもらってる。当然、分をわきまえて動くようにしているし、家督継承権が上位のフリードリヒやヴィルヘルムといった弟たちも、きちんと立ててるぞ。
そもそも、この国自体が、宗教改革時代の神聖ローマ帝国みたいな設定なので、『皇位』って言っても、さほど旨味が無いっていうのも助かるね。
暗殺エンドや処刑エンドへのフラグも立ってなさそうだし、このままうまく行けば、高位貴族として悠々自適の生涯を送れるかな?
そんなことを考えていた矢先だった。俺が宮廷魔導師の訓練場の脇を通りかかると、小さい女の子の高笑いが聞こえてきたんだ。
「おーっほっほっほっほ!! 氷魔法が得意とおっしゃるから、どんなものかと思えば、とんだ期待外れですわ!」
こ、この声は!?
俺は、すぐに隣の訓練場を覗いた。
と、そこにいたのは、宮廷魔導師長と、うなだれる魔導師風の青年。そして、ケバい衣装に身を包んで高笑いを上げる、まだ小学生ぐらいの銀髪縦ロールの幼女だった。
やっぱり! エミリア・ローゼンブルグだ!!
そうか、そっちも考えなきゃいけないんだった!
皇兄フェルディナントは転生者だった。自分が生き残るためゲームの内容改善に日々勤しむ彼の目の前に表れたエミリアは、どう見ても乙女ゲームバージョンのエミリア。転生者フェルディナントは、どのように対処するのか。次回『もう1人の転生者 ~出会い~』。お楽しみに!
※第2話の裏バージョンになります。必ず第2話をご覧になってからお読みください。