第10話 名案
『酷い夢でした』
目が覚めて、わたくしが最初に思ったことは、これでした。
「だ、旦那様。旦那様ぁ! お嬢様が目を覚まされました!!」
しかし、メイドのヘルマの叫び声は、わたくしに全てを悟らせてくれました。
ああ、夢ではなかったのだ、と。
すぐに駆けつけてきてくださった、お父様とお兄様は、わたくしのことを優しく慰めてくださいました。
あのような場で罪に問われたわたくしでございます。ローゼンブルグ家の面汚しであると詰られたり、お前のような者を家に置いておくわけには行かぬと勘当されたりしても致し方ないことでございます。
それなのに、お父様もお兄様も、そのようなことは一切おっしゃいません。なんと優しい方々なのでしょう。
お父様もお兄様も、仕事が出来る方ではございません。贔屓目に見ましても、『平凡』といった方が良い方々でございます。
それに対して、わたくしは、学院の成績は常にトップクラス。魔法の才能に至っては100年に1人の天才と讃えられておりました。
正直に申し上げますが、これまでは、表だった活躍のないお2人を蔑む気持ちが、わたくしの中にございました。
とんでもない考え違いでございます。能力がないことを蔑むわたくしと、全てを失った人間にも、いつもと変わらず優しく接してくださるお父様とお兄様。
人として優れていたのは、間違いなく、お父様とお兄様でございます。
わたくしは、ちょっとした才があったのを良いことに、傲慢になっていたのです。今回の件で思い知らされました。
わたくしは、こんな優しい家族のために、何が出来るのか、何をすべきかを考えました。
そして出した結論は『修道院に入る』ことでした。
修道院に入り、国の、そして家族の安寧を祈って暮らそう。そして、治癒魔法を用いて困っている人たちを救おう。社会に貢献することで、自らの罪を償おう。そう考えたのでございます。
家族から僧侶が出れば、その家族は天国に召されるという言い伝えもございます。誰にとってもためになる『名案』ではないでしょうか。
しかし、その『名案』を実行するには少々問題がございました。なぜなら、陛下がわたくしに命じられたのは『謹慎』だからです。
似たようなものと言う無かれ。『謹慎』と『出家』は似て非なるもの。当然ご命令と異なる『出家』するためには、新たな許可が必要となります。
ところが、『謹慎』している者は、みだりに外を出歩けませんから、直接お願いすることは不可能です。お手紙でお伝えしようにも、罪人からの手紙が陛下に届くのか、と問われると、首をかしげざるを得ません。
と、ここで、わたくしはまた『名案』を考えつきました。途中に人手を介すから手紙が届かないことを危惧するわけで、直接届けられれば全く問題ないではありませんか。
わたくしは魔術師です。手紙を直接届ける方法などいくらでもあります。
今回は、早めにお返事もいただきたいし、陛下の反応も知りたいですわね。それを考えますと……、使い魔にいたしましょう。使い魔でしたら、視覚や聴覚を共有できますし、魔法解除の結界で解呪されることもございません。警備の薄い夜間でも動けて、それでいて相手に警戒心を与えない子、となると……、そうだ! フクロウのクーちゃんにリスのシーちゃんを運んでもらいましょう。
この『名案』によって、わたくしは真実を知ることが出来た。
ただし、それが、わたくしにとって、家族にとって、この国にとって『良いこと』であったかというと、決してそうではないのだが……
思いついた『名案』を実行するために、使い魔を宮城に侵入させたエミリア。そこでは皇帝たちによる宴会が始まろうとしていた。次回は『宴』。お楽しみに!