くま退治決着、そして初めてのおつかい
全方位に隙があり、一見無防備な攻撃に見えるが、その巨体と強固な体だからこそ成立するシンプルにして強力な攻撃だ。
直撃すれば大けがは免れない。つまり、奴の間合いの外から攻撃する必要があるのだ。
俺は嵐のように荒れ狂う魔力を制御し、左手に握りしめた木製の剣に集束させる。すると俺の体にある光のオーラ同様、剣にもその魔力の輝きが込められた。
俺は地面を蹴り、雄たけびを上げながら走り出しているルイングリズリーへとその切っ先を突き出す。
「うおぉぉぉぉ!」
込められた魔力の全てを乗せて放たれた一撃は、斬音を轟かせ、剣本来の間合いではなく、纏われた輝きによりその刃が延長され、まるで槍のごとく咆哮する口を一直線に貫いた。
一瞬の静寂がこの場に満ちる。
ルイングリズリーは断末魔を上げ、力なくその場に崩れ落ちた。
伸びた剣の輝きは役目を終え、木剣と共に灰になったように消え去った。戦闘で無理をさせすぎたのもあるのだろうが、込めた魔力が許容量を超えてしまったのが一番の原因なのではないだろうか。
ふうっと息を吐き後ろの三人を見やる。
「大丈夫ですか?」
聞くと三人がそれぞれ無言でうなずき、俺はようやく戦いが終わったのだと感じた。
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くま退治が終わり三人がそれぞれ質問をしてきた。
どこから来たのかとか、どうしてそんなに強いのかとか、さっきの技は何なのかとか。技に関しては魔力を使ったとしか俺には説明が出来なかったが、どこから来たのか説明したら俺の強さにも納得がいったようだった。
それと、その際聞いたことだが、三人は冒険者というのをやっているらしく、茶髪の剣士の名はウルヴェルで、他ユージンとミナの三人で旅をしていてもう半年くらいになるそうだ。
旅の最中偶然立ち寄ったそこの村で依頼をされて、森で魔物退治をしていたらあの巨大な熊の魔獣に襲われたらしい。
「それにしても、いったいどうしてこんなところに?」
ウルヴェルが問う。俺は「ああ、そういえば」と思い出したように、
「そこの村でおつかいを頼まれていたんですよ」
「あ、なら私たちも村に戻って報告する予定でしたし一緒に行きませんか?」
ミナの提案に一瞬考えこむ。
まあ一緒に行ったところで別段何か問題がある訳でもないか。
「いいですよ」
疲弊しきった彼らがまたあんなのに出くわしたら今度こそ助からないだろうし、せっかく助けたというのに最終的に死んでしまっては元も子もないからな。
そうして俺たちは村までの道を共にした。
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それから大した時間もかからずにふもとの村に到着した。
道中、多数の魔獣と呼ばれる生き物たちが襲い掛かってきたが、特に危なげなく撃破し村までの道を進んでいった。その際聞いたことだが、どうやらこの世界には『魔物』と『魔獣』の二種類がいるらしい。魔物は大地から溢れる魔力から生み出されたもので、魔獣は動物が成長過程で魔力を過剰に浴びることによって生まれたものだそうだ。
そんなこんなで俺は今、村の肉屋に来ている。一緒に来た三人はというと、魔獣討伐の報告をしてくると言って村に入ってすぐに別れた。
「すいません、これください」
「はいよ!」
ローザに頼まれていた干し肉を注文すると、髭面の店主は元気よく声を返し、肉を袋に入れて差し出してきた。俺もそれに合わせて持たされていた財布から銀貨を一枚出すと「毎度ありっ!」と再び元気よく声を出した。
それからすぐ近くにあった、果物や野菜を取り扱っている店に来た。
店頭にある品のラインナップは様々で、どれも新鮮でおいしそうだ。
とりあえず、俺は頼まれていたジャガ芋に目をつけ、
「えっと、すいません、ジャガ芋ください」
「は~い。三つで銀貨三枚です」
優しい声色で返事するのは店主の女性だ。
俺は財布の中を見る。すると、ぴったり銀貨三枚がそこに納められていた。俺はそれを女性に差し出し、干し肉と同じように紙袋に詰められたジャガ芋と交換する。
これにて、初めてのおつかいは無事に完了した。
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買い物も終わり後は帰るだけだったが、その前にこの村を見て回ることにした。
村の形は円形で、魔獣対策のためかそれを囲うように石で作られた塀が設置されている。建物の方はというと、同じように石材で作られているのがほとんどで、見たところ二十数軒の家があった。
散策している最中、村人たちとすれ違ったり、そのたびにあいさつしたりなどしていたが、おおよそ百人に満たない程度の数だったと思う。
村を歩き始めてから十分くらいが経ち、先の熊との戦闘場所より開けた場所に出た。その中心には時刻を知らせる白い塔――刻限塔がそびえ立っていた。つまりここは村の中心部にあたる広場だ。
「おーい、アルトリウスー!」
空を穿つ白い塔を見上げていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。振り返ると、先の戦闘で助けたウルヴェルが手を振りながら走ってきて、それに続く形でユージン、ミナの二人がこちらに向かってきていた。
「みなさん、どうかしたんですか?」
「アルトリウス君にもこれを渡しておこうと思ってね」
そう言って茶髪の若剣士は小袋を差し出してくる。俺は荷物を左手にひとまとめにしてそれを受け取る。
「えっと、これは?」
「今回の魔獣討伐の報酬の半分です。僕たちを助けてくれたアルトリウス君がこれを受け取らないわけにはいかないと、全員が賛成してます」
「い、いや受け取れないですよ!」
その討伐依頼とやらはこの三人が受けたものだ。俺はピンチになっていたところを偶然助けたに過ぎない。それに、ルイングリズリーは討伐対象ではなく、完全なイレギュラーだったはずなのだ。しかし、
「アルトリウス君が来てくれなかったら私たちは今頃あの熊のおなかの中でした。でも、君のおかげでこうして生きているんです。だからそのお礼として受け取ってくれませんか?」
翡翠髪の少女が眼鏡越しに俺を見つめながら言う。その黄色い瞳を潤ませながら頼まれると、さしもの俺でも断るのは難しい。
「はぁ……わかりました。お礼というなら受け取ります。でも半分の半分、四分の一です。じゃないと受け取りません」
命を助けたにしろ、依頼を受けて討伐したのは彼らだ。だからこれが正当な報酬なのだ。
「――! ありがとうございます!」
俺がせめてもの妥協案として提示すると、ミナという名の少女は笑顔でそう言った。