修行開始
俺とガレスが館に戻り、迎えた夜はローザとカーミラのお手製シチューを食べて、その日を終えた。
ちなみに、カーミラは料理をするのが初めてだったらしく、野菜の皮を剝いて、切るのをのを手伝ったそうだ。どうりで大きさがバラバラだったのか……と思ったのは胸に秘めておこう。
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翌日の朝。
ついに魔力訓練を本格的に始めていこうということで今はカーミラと二人で館の庭に来ている。
「さてと、では始めましょうか」
「ああ。さっそくやろう。まずは何をすればいい?」
新しいことが出来ること、ようやく魔法の訓練が始まることにワクワクしながら聞く。
「基礎中の基礎、魔力を感じることから始めましょう。体の内側に『気』のほかに何か『力』があるのが分かりますか?」
俺は目を閉じて意識を集中させる。『気』と同じ要領で体内にある力を探る。
体の中心――腹の中心のあたりに、『気』とは全く違う種類のものを感じ取れた。どこか暖かく、しかし強大な『力』を。
「……これが魔力なのかはわからないけど、何かあるのはわかった」
「魔力を知覚することが出来たなら十分です。では、次は兄さんだけの魔法、『魔力』を習得しましょう」
神様は右の手を空に掲げる。その瞬間、世界が白く染まった。いや、空間自体が変わったというべきか。
「これは……?」
「これは兄さんのだけの力、『魔力』を選別するための空間です。さあイメージしてください。あなたが得たいその力を。この世界で欲する、兄さんだけの魔法を」
「――ああ」
魔法、と言っても神様と出会ったあの時に聞いたことぐらいしか知識がない。だけど、俺の求める力はもう昔から決まっている。
それは――『救う力』だ。
家族が殺されたとき、友が目の前で殺されたとき、俺に救うための力さえあれば、奪う以外の力さえあれば失うことはなかったのかもしれない。
悲しむこともなかったのかもしれない。悲しませることもなかったのかもしれない。
傷つくことも、傷つかせることもなかったのかもしれない。
だから俺の求める、俺の魔法は人を救える魔法だ。
「――カーミラ。俺は、人を救うための、守り抜くための力が欲しい」
この時だけは、前世の――鬼丸として言葉を発する。すると、目の前に立つ、この世界での俺の妹は吐息交じりにふっと微笑んでくれた。
「それが、兄さんの欲する力なんですね。――わかりました」
カーミラがそう言った直後、彼女の左手に点滅する光が生まれ、俺の体に溶けるように入り込んでいった。
その光を吸収し、己が力になったと認識した瞬間、白い世界は霧散し、周囲の景色は元の館の庭に戻った。
「これで、兄さんは、兄さんだけの魔法――『魔力』を会得しました」
「そうなのか? 全然実感が湧かないんだが……」
自分の開いたり閉じたりしている手を見ながら言う。
感覚的にはこれといった変化がないように思える。しかし、それは俺の魔法に関する知識がないだけでこの世界の住人や魔法を使える人間からしたら変化があるのかもしれない。
「魔法を使うにはイメージが重要です。兄さんの力は守るための、救うための魔法ですので、そういうのを想像しながら魔力を手のひらに集めてみてください」
「わかった」
先程感じた強大な力――魔力を体の中心から、前に広げた手に流すようなイメージで操る。
すると、腹、胸、腕の順に熱が通過し右手に集束していくのを感じる。
本来、魔力の操作は長い期間の訓練のもとできるようになると聞いてはいたのだが、前世で『気』という近い存在の力を扱っていたから、通常よりも時間がかからず制御することに成功した。
そして、俺の求めた力を頭の中で考える。
――『守る』に対する俺のイメージは盾だ。
どんな災厄からも身を守ることの出来る、守護の力。
――『救う』に対する俺のイメージは治癒だ。
傷ついたものを癒し、命を救う治癒の力。
それらを頭の中に思い浮かべて、手のひらに集まっている力を一気に開放する。
「……」
「……」
しかし何も起こらない。
「何も起きない……? カーミラ、これってどういう……?」
「うーん。おそらくですが、兄さんの魔法は人を守ったり救うときにしか発動しないのではないのでしょうか? ほら、そのための魔法ですし」
「えぇ……。じゃあ修行のしようがないんじゃないか? 使えない魔法を鍛えるくらいなら剣術を磨きたいし」
「そうですね……。じゃあ別の魔法、身体強化を使えるようになりましょう」
身体強化。たしかガレスが使っていた、自身の身体能力を上昇させる技、だったか。
俺の『気』による強化と合わせれば理論上倍の戦闘力を得られるということだから、これはぜひ覚えたい。
「といっても、魔力の扱いさえできれば誰でもできるような簡単な魔法ですからすぐできるようになると思いますけどね」
「そうなのか?」
「はい。方法は『気』と同じで全身に巡らせるだけです」
「わかった」
再び目を閉じ、魔力操作に意識を集中させる。今度は手だけじゃなく全身に膨大な魔力を流す。転生する時に神様が言っていたが、今の俺の魔力量は神に匹敵するほどのものなのだそう。だからか操作する範囲がこうも広くなると、かなり扱いが難しい。
体の中心から右手に伸びていた熱が、中心から左腕、左足、右足に満遍なく流れていくのを感じた。おそらくこれでできただろうと思い、閉じていた眼を開ける。
すると、俺の体には、白いオーラのようなものが纏われていた。
「父さんが使っていた時はこんな感じじゃなかったよな」
「それは単純な魔力量や質の差、というのもありますが、完璧に操作が出来ていないから余分に魔力が外に漏れているのだと思います」
「ほー、なるほどな」
言いながら身体強化を解除する。同時に、体に覆っていた光のオーラも消えていった。
「ふうっ。とりあえず、魔力操作の修行は毎日続けよう。さすがに難しかったし慣れないといけないからな」
今後どんな奴と戦うことになるかはわからないが、強敵と対峙した時咄嗟に魔力を使えないとなると不利になるのは必然だ。あくまで俺の憶測ではあるが、それくらいこの世界においての魔力は重要なのだと思う。
「わかりました」
結局のところ、俺の魔法の全容はまだ謎のままではある。が、今後の修行や実践で使えるようになるだろうと、期待を胸に抱く。
どうもです。
鬼丸ことアルが使う魔法とはいったいどんなものなのか……。
今後出ることになると思いますが当分先ですかね。
それと、アルがすぐに魔力を扱えるようになったのは前世でも似たような力を扱っていたからです。
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