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罪の鬼神と過ちの女神  作者: 坂本 天
第1章プロローグ--転生
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父と子



「今、何をしたんだ?」


 手合わせは引き分けに終わり、一息をついていたところにガレスが今の出来事を問いただしてくる。 

 俺は、尋ねるガレスに何でもないように、


「手に『気』を凝縮させて防いだんだよ。急に背後を取られてたから咄嗟だったけど間に合ってよかったよ」


 と答える。すると、ガレスは変わらず疑問の表情を浮かべる。


「……? その『気』ってなんだ?」


「え? えっと……」


 『気』のことを知らないとは思っていなかったため、どう答えようかと言葉に詰まる。


「それについては私が説明しましょう」


 どう説明しようか困っていたところに、そう言ってきたのはカーミラだ。


「『気』というのは基本的に全ての生き物の体の中にあるもので、制御することによってあらゆる身体能力を強化することができます。簡単に言うと魔法が使えない魔力みたいなものです」


「へえ~。ってことは、もしかしてアルの前世の世界には魔力はなかったの?」


 カーミラと一緒にこの場に来たローザが言う。


「うん、そうだよ」


「なるほどな。つまり、俺たちが使える魔力とは別に、俺たちの使えない『気』も使えるわけか」


「はい。おそらくそれが大きなアドバンテージになると思います」


 カーミラとガレスのやり取りを聞いていた俺は、その言葉に疑問を覚える。


「どういうこと?」


 聞くと、カーミラの代わりにガレスが口を開いた。


「魔力というのは魔法を使うだけじゃなく自身の身体能力も強化できる。つまり『気』も扱えるお前は常人の倍の身体強化ができるってことだ」


「……!」


 常人の倍。言うなれば今までの俺の倍の速さ、強さで剣を振るえるということだ。

 単純に考えてみれば接近戦闘力が倍になるわけだが、そんなに上手くいくものなのだろうか。それに一つの問題が頭をよぎる。


「でも俺、魔力の使い方がわからないんだけど」


「それに関しては私が教えます。それに魔法が使えないとこの先戦いづらくなるでしょうからね」


「となると剣は俺が鍛えよう。と言ってもそこまで教えられることもないかもしれないけどな」


 カーミラとガレスがそれぞれ言う。


「むー。じゃあ私はどうすればいいの?」


 白い頬をぷくっと膨らませて拗ねたような表情でローザが言う。その表情に、この場にいたローザ以外の全員に笑顔が溢れた。


「母さんは俺たちが安心して帰れるようにあったかい料理とか作ってほしい、かな」


「そんなことでいいの?」


「そんなことがいいんだよ」


 これは俺の心からの言葉だ。

 前世では家族が殺されてから俺がこの世界に転生するまでの数年間、家に帰っても誰もいないという日々が続いていた。だから、この世界で家族というものを大切にしたいと望んでいるのだ。


「そう? なら任せて! おいしい料理いっぱい作ってあげるから!」


「うん。ありがとう」


「ふふ、じゃあさっそくお夕飯の準備をしなくちゃ。カーミラ、お手伝いしてもらいたいんだけどいいかしら?」


「もちろんですよお母さん」


 そんな仲睦まじい家族の会話をしていると、「あ」と何かを思い出したかのようにガレスが言葉を発した。


「じゃあ先に二人だけで戻っててくれるか? 少しアルと話したいことがあるんだ」


「……?」


 話したい事、と言ったが俺には全く見当もつかない。


「ええ、わかったわ。遅くならないうちに戻ってきてね」


 そうして二人は館へと戻っていき、ガレスは見送るように手を振っていた。

 

 完全に姿が見えなくなったのを確認し、俺は口を開く。


「それで話って?」


「……ああ。前世で、アルトリウスは何をやっていたんだ?」


 それは昼頃の言葉と同じだったが、その時とは違い俺の本音を探るような口調だ。

 剣には、その人の経験や努力、人生の全てが詰まっている。おそらく、俺との戦闘で薄々感づいてはいたのだろう。俺の剣は血に染まっているということに。

 それでもなお俺を気を遣い、こうして自分から言うのを待ってくれるガレスには、やはり誠実に真実を話したい。


「……昼に言った通り剣士をやっていたよ。――ただ、大勢の命を奪った挙句、大切な人たちを守れなかった剣士……だけどね」


「……そうか」


 二人の間に沈黙が流れる。何秒だったかはわからないが、確かな空白の静かな時間だった。

 それからしばらくして、ガレスから口を開いた。


「悪かったな、無理やり言わせるようなことをして」


「え?」


「剣を交えていて、何となくだが感じたんだ。お前がこれまでどんな経験をして、どれだけ積んできたのか。ただ、お前の口から聞いておきたかったんだ。それをお前がどう思っていたのかっていうのを」


「……」


「ほんとのところ、細かいことは何一つわかっちゃいない。でもな、お前が優しくて強いってことはわかった。だからな、アル」


 そこまで言って、ガレスは少し言葉を詰まらせる。


「こういう時どう言うべきかは分からないが……お前は今アルトリウス・ディモンドとして、俺の子としてこの世界に生きているんだ。だから前世という過去にとらわれず、未来を見据えて今に生きろ」


「……!」


 真剣な表情で俺に言葉を送った。

 

 それは、神様から言われた時と同じように、過去の罪のことで。

 でも、神様みたいにすべてを見ていたわけでもなく、俺と剣を交わしていた時に感じた断片的なことで。


 しかし、何となく分かってしまったからこそ、父親として言いたいこともあったのだろう。自分の子が少しでも罪の意識に苛まれないように。

 

「うん……! ありがとう、父さん」


「ああ、気にするな。俺はお前の父さんなんだからな」


 俺が素直に礼を言うと、どこか照れくさそうに返事をした。そして俺たちは互いに笑いあった。


「それにしても、父さん全然本気じゃなかったでしょ。俺も剣を交えててわかったよ」


「当たり前だ。でもそんなこと言ったらお前もだろ?」


「まあ、久しぶりだったってのもあるけど、今まで使ってきたのは直剣じゃなくて刀だしね」


 戦いの日々を思い出す。あの頃はずっと同じ武器、俺の愛刀で戦い続けてきた。最後まで壊れず死線を共にくぐり抜けてきた俺の相棒だ。


「そうなのか。なら今度王都の方から仕入れておくか?」


「いや、それに関してはこっちで何とかなるかもしれないから大丈夫」


 転生してからのこの一年間、ただ観察して生活していたわけじゃない。カーミラとの念話で魔法について聞いていた時、もしかしたら使えるかもしれないと思ったものがあったのだ。

 まあ、そもそも魔力すら扱えないのにどうするんだって話だが。


「そうか? ならいいんだ。――さて、そろそろ戻るか」


「うん」


 そして俺たちは、カーミラとローザ――家族の待っている我が家へと歩を進める。


 今日、本当の意味で、俺とガレスは、父親と子供になれたんだと思う。

 だからこそ、俺は強くならなければならない。いづれ来る神との戦いで、大切なものを失わないために。








どうもです。

次回は魔法の修行に入りたいと思います

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