一年ぶりの剣
俺とカーミラは互いに顔を見合い、視線を交わした後すぐにガレスとローザの方へ向き直る。
「うん……俺がアルトリウスで」
「私がカーミラです。実はお二人に話さなければならないことがあります」
「話さなければならないこと……?」
突然のこの状況に困惑しながらも、ガレスは口を開いてくれた。今度は俺が父に答えるように言葉を発する。
「信じてくれるかはわからないけど……俺とカーミラは転生者なんだ。全く別の世界から、この世界で復活する神を倒すためにこの世界にやってきたんだ」
「なん、だと……」
「嘘、でしょ……」
俺の言葉を聞いた二人は、驚きのあまり唖然としていた。
しかし、こうなるのも無理はない。何せ、自分の子供たちが突然成長して、しかも自分は転生者だと言うのだ。こんなこと誰であろうと驚くに決まっている。
「驚くのも無理はありません。でも、これは本当の事なんです。ガレスさん、ローザさん、どうか信じてもらえませんか?」
「……いや、それに関しては大丈夫だ」
「――え? 信じてくれるの?」
予想外すぎる発言に反応するのがわずかに遅れてしまった。
「もちろんよ。自分の子供の言うことを信じない親がどこにいるの」
「あ、あの、それなら何にそんなに考え込んだような反応をしていたんですか……?」
カーミラがそう問うと、二人は顔を見合わせた。
「それは、なあ?」
「それは、ねえ?」
「それは……?」
俺が恐る恐る聞くと二人は同時に、
「「子供が最初に言う言葉がパパかママか楽しみにしていたからに決まっているじゃないか!」」
「な、なるほど」
「あはは。これが親ばかというものなんですね」
最初の壁だと思っていたことは案外サクッと終わりを迎えた。
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時刻は昼頃。
俺たちの正体を両親に告白してからあっという間に時間は過ぎていき、家族全員で一階の広間で食事をとっている。
すると、ガレスが唐突に口を開いた。
「なあアル、神を倒すって言っていたけど、前世では何をしていたんだ?」
「前世では剣士をやってたよ」
アル、というのは俺の名前のアルトリウスを短くしたものだ。前世では略称というのは外国くらいでしか使われないものだったので馴染みはあまりなかったものの、この世界でそれにも慣れてしまった。
そして、ガレスの言葉に端的に答える。するとカーミラが、
「そうなんですよ。文字通り一騎当千で負けなしだったんです」
「へえ! アルってそんなに強かったのね!」
「ま、まあ」
実際、各地で名のある剣士と一騎打ちを何度もしたことがあるが、どれも危なげなく勝利してきている。戦でも負けたことはなかったから一騎当千というのはあながち嘘ではない。
しかし、今はどうだろう。転生してから一年以上剣を振っていないのだ。一年という時間は思っているよりも長い。それだけの期間剣を握っていないとなると、感覚はだいぶ鈍っていそうだ。
「そうだったのか。じゃあ後で手合わせでもするか?」
「え、いいの!?」
「ああ。一年も赤子として生活してたんだからそのリハビリも兼ねてな」
そう言ってにっと笑うガレス。どうやら俺が考えていたことと同じことを考えていたようだ。
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食事を終えた俺たちはガレスに連れられて庭に出た。
辺りを見渡すと、周囲は山に囲まれていて、森や川もあり自然豊かな土地なのだとわかる。
館から正面の道を下っていった先には村があり、そこから左側に目を向けると平原が広がっていた。そこから道なりに進んでいくと真っ二つに分かれた山がある。まるで誰かが斬ったんじゃないかと思わせるほど、不自然に割れていた。
「アル、これを」
そう言ってガレスがこっちに投げてきたのは一本の木剣だ。俺はそれを危なげなくキャッチし柄を握る。
「さっきリハビリのためと言ったが、それ以外にもお前の実力を測るという意味合いもある。全力でかかってこい」
そう言ってにやりと少年のように笑うガレス。どうやらこの人も俺と同じようにワクワクしてるようだ。いや、俺は強い人と戦えるからだが、ガレスからしたら自分の息子とこんなにも早く剣を交えることが出来るというのが大きいのだろう。
「二人とも頑張ってくださーい」
「ケガだけはしないようにね」
カーミラとローザの言葉を背に、俺は剣を中段に構える。
「わかった。――じゃあ、行くよ!」
言うと同時に走り出し距離を詰める。全身に『気』を巡らせて身体能力を上げて、正面から切り込む。
「……!」
ここまで速く動けると予想していなかったのか、一瞬驚いたように目を見開いていたがすぐに切り替えて俺の攻撃を迎撃した。
刃は交わり、その場に木剣特有のカンッとした音が響き渡る。ぶつかった衝撃でお互いに再び距離が生まれるが、再度走る。
「ハァァッ!」
今度は下段からジャンプしながらの左斜めの切り上がり。俺もそれなりに速く動いてるはずだが、ガレスはそれに難なく対応し捌く。俺は返しの右中段水平切り、同じく左水平切りを連続で出し追撃する。
それも防がれたのを確認すると、三度距離を取るために後方へ軽く飛ぶ。
「どうした、そんなもんか? ……と言いたいところだが、予想より鋭くて正直なところ結構ビビってる」
言いながらガレスは木剣を肩に担ぎいたずらっぽく笑う。
「俺もここまでやれる相手は初めてだから嬉しいよ」
「そうか。まだまだ上げるがついてこれるな?」
「ああ、もちろん!」
俺は即答し剣を持ち直す。お互いににらみ合い静寂がこの場を支配する。
数秒間の沈黙の後、ほとんど同時に踏み込み距離を詰める。
「はっ!」
「ふっ!」
互いの剣が刃の衝突で弾かれる。しかし、さっきまでのように吹き飛ばされることはなく、すぐに剣戟が繰り広げられる。
目線や呼吸での読み合い。鋭い攻撃への対応、反撃。そのすべてが今まで経験することのできなかったものだった。そのことに俺は興奮を覚え、徐々に剣速が速まっていく。
ガレスの剣技は言うなれば『無駄のない剣』。特に防御面に秀でており、どこを攻めても隙が生まれず、逆にこちらが崩されて行ってるような気さえしてくる。
俺はその防御を崩すべくバックステップを踏み、飛び上がって上段から剣を振り下ろす。ガレスはそれを防ごうと木剣を水平に構えて迎え撃つ。
それを視認した瞬間、振り下ろしている剣の軌道を変えて攻撃はせずその場に着地し、がら空きになっている胴を目掛けて低い姿勢のまま地面を蹴って、突き攻撃をする。
「……!」
瞬間、バチっという音が耳に届いたと思ったら、あるはずのガレスの体はそこには無く、木剣は空を貫くだけだった。
「惜しい」
すると、突然背後から声が聞こえ、目線を送ると、剣を振りかざしているガレスの姿があった。
「くっ」
剣は前にあり、背後は完全に隙だらけ。そして迫りくる刃。
俺は咄嗟に右手に『気』を凝縮させ、回転しながらガレスの斬撃を目掛けて手刀で水平に薙ぎ払いはじき返す。
「な!」
弾かれた木剣はガレスの手から離れ回転しながら空中を舞っている。そしてどさっと音を立てて整えられた芝生に落ちていった。
「ふうっ、危なかった」
額の汗を拭いながらガレスの方を見やる。すると、ガレスは少し驚いたような表情をしていた。目線の奥ではローザとカーミラの二人がパチパチと拍手をしていた。
久々に書くのでだいぶ時間かかりました。今後は週一は絶対に書いていこうと思います。
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