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罪の鬼神と過ちの女神  作者: 坂本 天
第2章 白銀の願い
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半魔の力


 飛ばされた勢いも徐々に失われて行き、地表が近づいてきたため身体強化の魔法で肉体強度を上げてから着地する。着地と同時に衝撃で砂埃が大きく巻き上がる。


「よし……っと。上から見えた感じだと、ここからもうすぐですね」


「近くに敵の気配はありませんが油断せず行きましょう」


「はい」


 一応サーチで俺も確認しておいたが、近くに敵の反応はなかった。とはいえ魔法で姿や気配を消せるわけだからいつ奇襲されてもおかしくはない。周りが暗いからなおさらだ。ルーズヴェルトさんが言っていたように油断せず行こう。


 

 森の中を警戒しながら進むこと五分。到着の時点で隠密行動など意味をなさないと思ってはいたものの、少なくとも周囲への警戒を常にしながらだったため安全策ではあったと思う。


 そして到着した古代遺跡。

 建造されてから長い年月が経っているからか、建材は苔むしていてまさに古の建造物といった印象だ。夜の闇も相まって、一層不気味さが増している。


 衛兵隊隊長ゲイルの話ではここは大昔の人間の、しかもこの土地の有力者の墓だそうなので、そんなものが今や悪人の本拠地とされているとはなんとも残念な話だ。


 死者の墓場を踏み荒らしたくないという気持ちもあるが、このまま野放しには絶対できないので早急に乗り込もう。


「では私が前衛として先へ行きます。アルトリウス様は私の後ろにつき背後に警戒をお願いいたします」


「わかりま、……っ!?」


 前衛後衛を決めていざ乗り込もうというそのとき。

 おぞましい気配が、この場に現れたのを肌で感じた。

 気配の主は、笑いながら拍手をして、俺たちの前に姿を現した。


「やあやあ、お二人さんお元気そうで何よりだねぇ」


 頭上からする聞き覚えのある声。しかし、気配が……存在感がまるで違った。

 咄嗟に蒼炎を出して、いつでも放てるようにしてからゆっくりと見上げる。蒼い炎の明かりに照らされ見えてきたその姿を視界に納めると、今までと違うその答えがすぐにわかった。


「なん、だ……それ」


「貴様……ッ」


 俺とルーズヴェルトさんは同時に息をのみ、言葉を失った。

 なぜなら……


「どうした? そんなにこの姿が気に入ったか? この……半魔の姿がよぉ」


 魔獣使いの肉体が全体的に筋肉量が増し、顔半分と左腕がゴブリンのように変色し肥大化。背には鳥のような翼と、足は鳥の持つかぎづめになっていた。歪で人ならざるその姿が不気味さを醸し出しているが、さらにその上を行くのが奴から発せられる魔力の質だ。


 通常の奴の魔力とは全く別の、それこそ奴の変貌した部分の特徴を持つ魔物たちと合致する力が、魔獣使いからは感じられる。

 半分人間で半分が魔物。まさしく、半魔という言葉が適格だ。


「お前……その力は……」


「うちのボスから賜った俺の新しい力さ。いいもんだぜ? あふれ出るような魔の力。さいっこうにいい気分だ……! そんじゃさっそくだが、この力試させてもらうぜぇ……」


 直後、奴から発せられる猛烈な殺気。ルーズヴェルトさんもそれを感じ取ったのか腰の剣を抜き、声を上げる。


「アルトリウス様!」 


「わかってます! ――『蒼炎』!」


 奴の攻撃が来るより先に、すでに構えていた上級魔法を撃ちこむ。直撃と同時に爆風が木々を揺らし、夜の森に戦いが始まったことを告げる。


 俺が放った上級魔法『蒼炎』。並大抵の防御力では受けることはできないほどの威力を有す、俺の使える魔法で一番強い魔法だ。感じ取った奴の強さからさすがに倒しきれないとは思うが、多少なりダメージはあるだろう。

 

「効かねえな!」


 しかし、巻き上がる煙を切り裂いて半魔の怪物は無傷の姿を見せた。声を上げ、勢いづいた高速飛行と、膨れ上がった筋肉から放たれる強力な拳の一撃が俺を襲う。

 咄嗟のことに躱すのは不可能だと判断した俺は腕を前で交差し防御の姿勢を取る。しかしこの判断が誤りだったとわかったのはほぼ同時だった。


「う、ぐッ……!」


 拳を受けた俺の両腕はミシミシと骨の音が体の内側で鳴る。本能的に直感でまずいと察し、一撃を受けながら後方に飛んで衝撃を受け流す。

 しかし当然のことだが勢いを殺しきれるはずもなく、木々を五、六本へし折る威力で吹っ飛ばされた。


「アルトリウス様!」


 ルーズヴェルトさんの声が遠くに聞こえる。

 今のは非常にまずい。咄嗟にダメージは減らせたが、直撃すれば間違いなく命が潰される。何とかして奴への対応策を考えなければ……。


「そう焦んなよ。次はお前の番なんだからなぁ!」


 そうこう考えているうちに、半魔の魔手が老騎士へと向かう。

 しかし、奴が移動を始めるより一瞬早くルーズヴェルトさんは剣を奴の胸元へ突き付け呪文を呟く。


「『ホワイト牢獄プリズン』」


「な……ッ!?」


 直後、魔獣使いの足元から奴を包むように光の柱がせりあがり、奴の自由を奪った。

 

「くそが! 出しやがれ!」


 悪態を吐き出しながら脱出を図る半魔の男。

 魔物の力を取り入れた奴のパワーでも、ルーズヴェルトさんの出した結界は壊れないらしく、それを確認した老騎士は未だ膝をついている俺の元へ駆けつける。


「大丈夫ですか、アルトリウス様」


「ええ、なんとか……奴は?」


「魔法で身動きを奪っていますが、時期にそれも破られるでしょう」


 長時間奴の動きを封じれるのならそれは願ったりかなったりだったが、やはり現実はそううまくいかないらしい。

 で、あるならば……ここで確実に仕留めるのが最善か。


「……なら、一つ策があります」


「聞きましょう」

 

――――

 

 俺はルーズヴェルトさんに策を伝え、魔獣使いの行動を木の上で隠れながら見ていた。


「おらぁ!」 


 荒々しい一声と共に、白光の檻は破壊され周囲に白い破片が飛散する。

 ルーズヴェルトさんの魔法が引き金に奴の怒りのボルテージは最高潮に高まり、左腕を振り回しながら周囲に生える森の木々を粉砕していく。


「……あの糞じじいが……殺してやるから出てこい!」


 頭に血が上って逆上している人間というのは、視野が狭まり隙が生じる。たとえそれが歴戦の強者であってもだ。

 まして、今回の相手はただ力をつけただけの弱者に過ぎない。強者の場合と比べても近づくのは容易い。


「――お望みのままに」


 閃光のごとき速度で老騎士は魔獣使いの懐へ潜り込み、下段から一振りの斬撃を見舞う。斬られた箇所から血しぶきが舞い、夜の森を血に染め上げる。


「効かねえな!」


 しかし、奴の強靭な肉体にはそれは浅い傷だったのか、痛がる素振りすら見せず左腕でルーズヴェルトさんをつぶそうと拳を振り上げる。隕石のごとく落とされる拳撃をルーズヴェルトさんはバックステップでひらりと躱す。


「力を得た、と言っていたがその程度か?」


 ルーズヴェルトさんは、怒り狂う魔獣使いをさらに挑発して、攻撃を誘う。


「黙れェ!」


 見事なまでに狙い通りに鼻息を荒くし、憤怒する。

 怒号を発する奴の左腕から、怒りと殺意のこもった正拳突きがルーズヴェルトさんに向かって放たれる。

 それに対し、ルーズヴェルトさんは剣を水平に構え拳を受ける。


「ふんっ!」


「何!?」


 拳と剣がぶつかった音が鳴り響き、攻撃したはずの魔獣使いが大きく弾かれる。

 ルーズヴェルトさんが使った技はナガシという、受けた攻撃の威力をそのまま相手に返す聖剣術のカウンター技だ。

 

「……よし」


 隙だらけになったこの一瞬。逃すわけにはいかない。

 俺は木から飛び降り、腰にある刀の柄に手をかける。

 狙いは一撃必殺の威力を秘める強力な左腕。奴の攻撃力さえ削いでしまえば、もはや速いだけのただの雑魚だ。


「て、めえ!」


 俺の存在に気づいた奴はのけ反る身体を無理やり捻り、緑の鉄拳を振り回す。

 姿勢を落とし、地面を滑りながら奴の攻撃を掻い潜る。体勢を崩している状態で放たれる乱雑な攻撃は俺に当たる訳もなく、容易に懐に潜り込めた。


「――もらった」


 顔面すれすれの真上にある巨腕に向かって、腰の刀を一気に振り抜く。

 銀閃が奴の緑の腕を切断し鮮血が空を舞う。


「がぁぁああああ!?」


 切断面を抑えながら身悶えする魔獣使い。勝負あったとみていいだろう。


「ふう……。ナイスパリィでした。ルーズヴェルトさん」


 刀を振って付いた血を落としながら、傍らの老騎士をねぎらう。


「アルトリウス様もお見事です。……して。終わりだ、魔獣使い」


 未だ傷口を抑え、巨体を地面に伏せている魔獣使いに老騎士は静かな怒りをもって言い放つ。


「……な、にが、終わり……だって……」


「貴様の武器はもう消えた。なにより、魔物の力を取り入れた原因か、貴様の持っていた余裕と冷静さが失われていた。それが貴様の敗因だ」


 たしかに、言われてみたらそうだ。

 以前の奴はもっと冷静な場面が多かったように思える。人を挑発し、罠にはめ、陥れる。それが奴の手口だったはずだ。そしてそれは冷静ゆえにできる芸当だ。


 しかし、この戦いにおいての魔獣使いの言動は常に怒りをあらわにし、冷静さなど微塵も感じられることはなかった。それが幸いして勝ちにつなぐことが出来たのも確かだ。


「くそ! く、そ……がぁ!」


「悪いけど先へ行かせてもらうよ。あんまり時間がないんでね」


 そう言い残し、蹲っている奴の傍を通り過ぎる。

 もうこいつには戦える力も、意思も残っていないだろう。とすれば、あと残っているのは『影』だけだ。奴さえどうにかすれば、今回の件は片が付く。誰も失わずに、終われるんだ。


「……」


 そう思っていた。

 油断していた。

 それゆえに、奴の頬が吊り上がっているのに気づかなかった。


「……! アルトリウス様!」

 

「どうしま……」


 言い終わる前に、俺の体は重い衝撃に背後から襲われ、遺跡の壁に叩きつけられた。


「がッ……は、ぁッ」


 何が、どうなって……奴は、倒したはずじゃ……。


「さぁて、第二ラウンドと行こうか」


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