新たな世界
目が覚めると、俺は白縹色の長い髪をした綺麗な女性に抱きかかえられていた。すぐそばには黒色の短髪の男がいた。状況から察するにこの二人が俺のこの世界での両親だろう。
――生まれた……! ローザ、生まれたぞ! 男の子だ!
――よ、かった……この子が、私たちの子……
嬉しさのあまり興奮している父親とは対照的に、母親は目に涙を浮かべて、言葉がとぎれとぎれになっている。
――ああ、俺たちの子だよ……! 名前、名前はどうしようか?
――落ち着いてあなた。それに、もう名前は決めてあるの
――そ、そうなのか?
――ええ、この子の名前は……アルトリウスよ
――アルトリウス……アルトリウスか……! いい名前だ
――そうでしょ? ……元気に大きく育ってね、アルトリウス
そんなやりとりが二人の会話から聞き取れた。言語は前世のものとまったく違うものだったが、なぜか理解することが出来た。多分、神様が何かしてくれたのだろう。
それにしても、両親がこんなにも幸せそうな顔をしているのを見たのは久しぶりだ。なにせ、前世での俺の両親は戦に巻き込まれ早いうちに死んでしまったのだから。
前世ではほとんど親孝行というものが出来なかったから、この世界ではぜひともしたいものだ。
「あ、あうあー!」
母親の言葉に返事をするように、今できる精いっぱいの声を出した。
――うふふ、元気いっぱいね
――ああ、そうだな……それじゃ、今度はこの子の名前も決めないとな
…………え? 俺以外にも生まれてるの? その事実に驚きを隠せなかった。
父親は言いながら、隣にあった籠から赤子を抱きかかえてくる。その見た目は、青みがかった黒色の髪で母譲りの整った顔立ちだ。
内心驚愕している俺をよそに、二人は会話を続ける。
――そうね、どんな名前がいいかしら? あ、そうだわ! この子はあなたが名前を付けてあげて! アルトリウスは私が名付けたんだし、任せるわ
――う、な、なるほど……まあ女の子だもんな……そうだな……
そうしてしばらく悩んだ末に、何かひらめいたような顔をして口を開く。
――カーミラ……なんてどうだ?
――カーミラ……! この子にぴったりないい名前ね……。それじゃあカーミラちゃん、アランに負けないくらい大きく元気に育ってね
カーミラはそれに呼応するように、元気に手を振っていた。すると。
『鬼丸さん? 聞こえてますか?』
『……!?』
頭の中に突然声が聞こえてきて表情には出てないが驚いた。
『私です。神様……じゃなくてカーミラですよ~』
『神様!? え、でもなんで……妹って言ってたじゃないですか』
『嘘はついてませんよ? 妹は妹でも双子の妹です!』
『なんだそりゃ……』
てっきり二年くらい後に転生してくるものなんだと思っていたから、なんだか騙された気分だ。
『あはは……まあそれはさておき、これから私はあなたの兄妹、つまり妹になるわけですから敬語で話すのはだめですよ。それと、ちゃんと呼び捨ても忘れずに』
『うっ……わ、わかりました』
『あ! 敬語抜けてませんよ!』
ビシッと人差し指を指しているのがありありと想像できるセリフだ。念話じゃなかったら絶対にやっていることだろう。
『いや、そんなこと言ったら神様こそ敬語のままじゃないですか! 兄妹なんだからそっちも敬語取ってくださいよ』
『私はいいんです。妹ですから』
『なんだよそれ……』
そう言うと、カーミラはうふふと笑う。
『そうそう、その調子です』
そんなこんなで俺と神様の新しい人生の幕が明けた。
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この世界に生まれ変わってから一年の月日が流れた。
一年もたつとここでの生活にも慣れてきて、色々と分かったことがある。
まず、この家はディモンドという家庭で、どうやらここら一帯の領主らしい。
だからか、屋敷はとてつもなく広い。三階建てで洋風のつくりだ。しかし、生活圏は基本的に一階なのでほとんどの部屋を使えていないようだった。
次に、両親についてだ。
父親の名はガレス。年齢はおそらく二十代後半。カーミラが言うには、この世界最強の騎士団に所属するほどの実力の持ち主で、この家に転生させた理由はそこにあるようだった。
母親の名はローザ。年齢はガレスより少し若そうで、感情に合わせて表情もころころ変わる。幼いような仕草はあるものの、やるときはしっかりとやるタイプで、いつも夫のガレスを支えている。
と、分かったことと言ってもこの家についてのことでしかないが。
そんなことを考えていると、頭の中に声が響き渡った。
『兄さん、準備完了しました』
『ああ、わかった』
この一年の間、「兄らしい言葉遣いとカーミラ呼びをしてくださいっ!」とずっと言われ続けていたので嫌でも神様に対しての口調が変わった。
そしてカーミラの言う準備とは魔法のことだ。
成長魔法を使い体を成長させて早い段階から力をつける、その考えを転生してから数日したころぐらいに伝えられていたが、どうやら神の魔力は人間の体に定着しづらくこうして一年も経過してしまったのだ。
『では、いきますよ――成長』
カーミラが手を掲げそう言ったとたん、俺たちの体は白い光に包まれた。赤子用の籠にいた俺たちは空中へと浮かび上がっていき、光はその輝きの強さを増した。
そして、時が何年も進んだかのように肢体は徐々に伸びていき、その成長が収まったと同時に光も消えていった。
「おお……本当に成長した」
「時間はかかりましたがどうやら成功したみたいですね。ふっふっふ、褒めてくれてもかまいませんよ?」
ちらちらとこちらに目線を送りながらそう言うカーミラ。その姿は初めて会った時とさほど変わらない見た目であった。しかし。
「いや、凄いっちゃ凄いんだが……どうみてもまだ子供だよな?」
カーミラを見ながら俺は言う。
その見た目は確かに神様として俺と初対面した時とそっくりだ。しかし、明らかに幼い見た目をしている。身長はおよそ百四十センチ前後。年齢的に言ってみれば十三、四歳くらいだろうか。
かくいう俺の目線は彼女より十センチほど高いくらいで、男女の成長度合いから考えてみれば俺も年齢的に言えば十四歳くらいの体だろう。
「あはは……まあ、そんなこともありますよ」
「お前な……」
そんなやり取りをしていると、部屋の外からどたどたと複数の足音が聞こえた。足音は徐々にこちらに近づいてきて、やがて俺たちのいる部屋の前でその音は止まった。
そしてガチャリと音を立てて部屋の扉が開けられ、この世界における俺たちの両親が入ってきた。
「何があった!? ……ってまさか、お前らは……」
「まさか、アルトリウスとカーミラ……?」
突然大きくなってもわかってくれる両親に心の中で安堵しながら、この世界最初の壁にぶつかったのを感じた。
どうもです。白縹色というのは青みを含んだ白色の事です。イメージした色の名前を調べていたらこれが一番近いかなって思ったのでこれにしました。
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