衛兵代表の二人
時を同じくして、衛兵隊長のゲイルはディモンド邸に赴きラフォレの町の住民を避難させる協力を得るために、ガレス・ディモンドの妻、ローザ・ディモンドに事情を話していた。アルトリウスがある程度話していたのか協力はすんなりと受け入れられ、大勢の住民を迎え入れる準備をしてくれることとなった。
「しかし、まさかここまでとは……」
ゲイルは庭からディモンド邸を眺めながら感嘆の声をこぼす。
アルトリウスと彼の妹のカーミラが、「かなり広い」と豪語し一時避難場所として勧めてくれたがそれもうなずける。
ラフォレの町はこのクラリナ地方の中でも、そこそこの大きさに位置される町だ。人口はおよそ五百人。
ディモンド邸はそのたくさんの住民を全員入れたとしても、多少の余裕が生まれるほどの広さだ。領主であり英雄であるガレス・ディモンドに相応しい豪邸というべきだろう。
「隊長」
「ん?」
背後から自分を呼ぶ声が聞こえゲイルは振り返る。声の主は、ディモンド邸までついてきたエドだ。
「住民の非難を本格的に始めるのは明日ってことでいいんですよね?」
「ああ、今から始めたところで夜までには百人程度しか避難させられないだろうからな」
ここからラフォレの町までは馬を使っておよそ一時間。馬車となるともっと遅くなるだろうからという理由での選択だ。幸い、まだ時間的猶予は残っているので、焦る必要がないというのがせめてもの救いだ。
とはいえ、やらなければならないことは山積みなため、だらけることが許されているわけではない。そういう意識が人一倍強い隊長のゲイルは帰路につくために馬に乗る。
「では戻ろう」
「了解です」
――――
ラフォレの町に帰るまでの道中。
風を切りながら馬を走らせていると、同じように隣を馬で駆けているエドが、ゲイルに声をかけた。
「そういえば、あの白髪の小さい子って娘さんなんですかね?」
「白髪の?」
「ほら、ローザさんと話しているとき、階段のとこから顔だけ出してた」
エドの言葉を聞き、手綱を引きながら記憶をたどる。
協力を得るために話していたのは、屋敷の入り口前。そこから見える階段は入り口目の前にある中央階段だ。そこから見えていた少女は……たしかにいた。上階に続く踊り場から、手すりに寄りかかるようにしてこちらの様子をうかがっていた、白髪で銀色の瞳の少女だ。
「……ああ、あの小さな子か。あの一瞬でよく見ていたな」
あそこに居たのは確かだが、すぐに逃げるように上の階へ行っていたように思える。
「魔力の関係上周りはよく見るようにしてますからね」
エドの魔力は『入替』という、視界にある一定の範囲内のもの同士を入れ替えるものだ。彼が今言った通り、その魔力特性ゆえに普段から周りをよく見ているので洞察力が自然と向上しているのだとか。
「それで、その子がどうかしたのか?」
「いえ、勘違いだったらいいんですけど……あの子が上に行ったときにはその感覚はなかったんですけど、こっちを見ているほんの少しの間、何か異質なものを感じたんです」
茶髪の若兵士は、不安を表情に出しながらそう答えた。
何か異質なもの、とエドは言うがゲイルにはそのようなものは感じられなかった。あの白髪の少女に抱いた印象と言えば、幼さゆえの可愛らしさくらいだ。
「異質なものとは?」
「今まで感じたことのない……なにか、本能的な恐怖というか」
「ふむ……」
エドほどの勇敢で実力も伴っている者があのようなか弱い少女に恐怖するというのは、あまりにも考えづらいことだが、優れた洞察力故に何か気づいてはいけないものに気づいてしまったのだろうか。
うつむきがちなエドにかける言葉を探していると、覆われた霧を振り払うように顔を左右に振り、言った。
「でもほんと一瞬だったんで、気のせいかもしれないです。それに、あんな小さい子に恐怖とかさすがにあり得ないですよね」
「あ、ああ、そうだな」
若干気圧されてしまった感が否めないが、言ってきた本人がそう言うのならきっと大丈夫なのだろう。
「はい」
エドのその言葉を最後にこのやり取りを終え、衛兵代表の二人は無事何事もなくラフォレの町へ帰還した。




