猶予
ルーズヴェルトが魔獣ガルーダをなんとか討伐してから程なくし、遺跡から戻ったアルトリウスが救出隊に合流した。
なぜルーズヴェルトがここにいるのか、拐われた人たちはどうしたのかなど諸々の事をまとめるため、アルトリウスの提案で一旦ラフォレの町のギルドへと戻った。
「遺跡で何があったんだ、アルトリウス殿」
それから、古代遺跡であった事を話した。
魔獣使いとその仲間の存在。
拐われた人たちの現状。
助けるためにした、俺の選択。
全てを順繰りに説明している間、会議室にいる全員は沈黙を貫いていた。話を終えると、隊長のゲイルが口を開く。
「なるほど、まさかそんなことになっていようとは……。それで、そのゲームとやらの契約内容は?」
「奴らは古代遺跡を、こっちはラフォレの町を拠点として--戦争をします」
今の一言で、部屋全体に緊張が走った。
「ア、アルトリウス、戦争ってどういうことだ……?」
「今日を含め三日後、奴らは古代遺跡を、こっちはラフォレの町を拠点にし、それぞれの戦力をぶつける戦争です」
「たった三日……!?」
「そんなに短いと、王都からの応援も望めない……」
「ガルーダみたいな魔獣がまだいるってのかよ……」
俺が告げると、ウルヴェルたちや兵士の人たちはあまりにも絶望的すぎると空気が重くなっていた。そんな中、一人の老騎士はその空気に飲まれることはなかった。
「アルトリウス様。何か、勝算があるのですね?」
「はい、もちろんです」
と、俺をこの世界に招いた一人の少女を思い浮かべながら、ルーズヴェルトからの問いかけに堂々と応じた。
ーーーー
会議も早々に終わり、少しでも時間を無駄にしないために早速馬でディモンド邸に戻った。戻った俺は、神様で妹のカーミラに事の詳細を話した。
「わかりました。ラフォレの町の防衛は私に任せてください」
その一言に安堵した。
もちろん断るとは思ってはいなかったが、事が事だったため、いくら神様とはいえ無茶なお願いだったのではと思っていたのだ。
「ああ、頼んだ。……あと一つ、相談したい事があるんだけど、いいか?」
声色を察してか、カーミラは背筋を正し、真剣な表情になる。
「今回の敵、俺の過去を知っていた。前世の俺の罪を、知ってたんだ」
「……!」
「その上、第六天魔王と同じ力を有していた。なあ、これってもしかして……」
俺の過去を知り、圧倒的な力を持つ敵。そんな超常的な存在。それは、知っている限り一つの答えと結び付かれる。
そしてそれは目の前の少女も同様だった。
「……十中八九、邪神の手の者ですね」
「……やっぱりそうか」
あの異質なまでの魔力に加え、カーミラと同じように俺の過去を知っている存在。
俺がこの世界に来た理由と、倒すべき敵がすぐそこまで来てしまったのだ。
「ですが、少し妙です」
「妙って何が?」
顎に指を起き、そう言うカーミラに俺は尋ねる。
「もし仮に邪神の仲間だとしたら、私が気付かないわけがありません。……あの魔力を、感じ取れないわけがないんです」
いつにもまして、カーミラの声は重たい感情が含まれていた気がする。
まるで、俺が過去の過ちを悔いていた時のように、カーミラが自身の過ちからもう二度と同じ轍は踏まないと言うように。
「そうか……」
俺はそう言うことしか出来なかった。
彼女がそう言うのなら、きっとそうなのだろう。俺の知らない彼女の罪は、彼女の中で、忘れてはならない杭として胸のなかに常に突き刺さっている。
神様から赦しを得た俺の罪と同じように。赦しを得たからといって、忘れていいわけではない俺の過去と同じように。
すると突然、この空気を破壊するように、カーミラが手を叩いた。
「とりあえず、早くラフォレの町へ行きましょう。あと三日しか、猶予はありませんからね」
「ああ。もちろんだ」
そうだ。いまは目の前の問題に集中しなければならない。過去の罪のことを考えるのなら、現状の戦争を死者無しで乗り越えなければならない。そのためには、限られた時間を無駄にはできないのだ。




