強襲
作戦開始の合図がなされラフォレから出発した俺たちは、滞りなく古代遺跡へと道を進んでいった。
ゆらゆらと馬車に揺られていると、不意に眼鏡を輝かせたミナが話しかけてきた。
「そういえばこんな話を知っていますか? 今から向かう古代遺跡は、大昔にこのあたりの有力者であった人の墓で、最深部に行くとそこにはたくさんの金銀財宝が眠っていて、さらには有力者の持つ何かしらの力があるそうですよ」
「へえ、それはすごいですね。でもそれならもう盗られていてもおかしくないのでは?」
宝やら力といったロマンあふれるものが眠っているのなら、冒険者が行って盗っていてもおかしくないと思うが、これまでにその遺跡に足を運んだ人がほとんどいないというのが現実だ。
疑問に思っていると、ミナの隣に座っているウルヴェルが口を開いた。
「それがなんと、遺跡の中には無数のトラップがあるんだ。どれも命の危険があるとんでもない物ばかりで、しかもトラップに気を付けながら奥に進んだとしても凶暴なモンスターが棲みついてるからそれにも気を配らないといけないんだ」
「なるほど……。たしかに、それは誰も行きたがらないわけですね」
凶暴とはいえ魔物は慎重に対処すればなんとかなるかもしれないが、そんな危険なトラップは当然のごとく気を付けていてもかかってしまうだろう。さしずめ墓にある財宝を賊から守るためといったところか。
「にしても力か……」
大昔の有力者が残した力というのは少し気になる。今回の作戦の目的はあくまでも救出ではあるが、あわよくばその力とやらを手に入れることが出来たら、この世界に来た目的である邪神討伐に大きく近づけるかもしれない。
とはいえ、今は人命が優先される事態だ。さすがにそれを無視して宝に目が眩むほどの外道ではない。力というのを手に入れるとしても町の人を全員救出した後での話だ。
「やっぱり、アルトリウス君も気になりますか?」
「まあ……はい。でも力といってもどんなものかいまいち想像つかなくて」
一概に力といっても、その形は様々だ。
前世からの考えでいえば、やはり武力となる武器や防具。この世界での考えでいえば魔力や魔法といったところか。
いや、そもそも俺は魔法とか魔力に関する知識はほとんどないし、ましてや大昔の人物の力だ。なおのこと予想のしようがない。
「奥に眠っている有力者が残した力というのは術式だ」
冒険者三人組と俺とで話していると、この馬車の手綱を握っているゲイルが背中越しに言ってきた。
「ゲイルさん、知っているんですか?」
「ああ。魔物の襲撃より少し前に調査に出向いたことがあって、その時に手に入れた情報だ。残念ながら術式の詳細まではわからなかったのだが、おそらく広範囲に及ぶ攻撃系統の術式だろう」
「なぜそんなことが?」
「当時の権力というのは血筋のみではなく、絶対的な力が必要だった。力なきものは怯えただ服従するのみ、そんな世の中だった。そんな世の中でこのあたり一帯を統治していた人物ならばおそらく相当な強者だったのだろうと推測できる」
この世界にもそんな弱肉強食な時代もあったのか。
力がすべてを支配し、弱者は抵抗すら許されない、前世と同じ戦いのあった世界。やはりどんな世界でも武力というものが存在するなら戦いは避けられないのだろう。
そんなふうに思っていると、また眼鏡を光らせたミナが言葉を走らせた。
「たしかに、ラフォレの町の伝説にもこういったものがありました。遥か昔、ラフォレの町がまだ小さな集落だったころ、魔族との戦争で魔物の大侵攻がありました。抵抗した集落の戦士たちは一人二人と次々に殺されて行き、壊滅寸前まで追いやられました。そんな窮地に、ある人がどこからか現れ、強力な術で魔物の軍勢を一掃、そのまま魔族も撃退して英雄と崇められるようになったそうです」
「ということは、その英雄が」
「はい。のちの統治者、今から向かう遺跡の主ですね」
魔物の大侵攻、というからには相当な数の魔物が攻めてきたのだろう。それに加えて魔族が参加していた。しかしそのどちらにも俺はあまり想像がつかない。
ただ現在戦争を防ぐためにこの国の最高戦力の一人を配置しておく辺り、魔族というのはかなり手ごわい相手なのだろう。特に今回の作戦で出てきた魔界七将という、魔族の中でも最上位の強さを持つとされる魔族が事件に関わっている可能性が少なからずあるわけだから、より気を引き締めなければならない。
「アルトリウス、この作戦が無事成功したら俺たちと一緒に取りに行こうぜ!」
「それは死亡フラグというやつでは……」
「はは、いいですよ。俺もちょうど考えてたところで……」
と言いかけて口をつぐむ。
すると、気になったのかミナが顔をのぞかせる。
「アルトリウス君……?」
「あれ? 馬車止まってる?」
「…………! ゲイルさん!」
瞬間、猛烈な殺気を感じ先導しているゲイルの名を叫ぶ。
「わかっている! 馬車の中にいるものも総員、戦闘準備! 魔物だ!」
馬車を通り囲むように現れた無数の魔物の気配。すでに気づいていたゲイルは迎撃のために瞬時に周りの兵士たちに指示を送る。
それと同時に事態に気づいたウルヴェルたちが俺に続くように焦った様子で馬車を出る。
「な、なんだよこの数!」
馬車を出てすぐ目に入った光景にウルヴェルが驚愕する。しかし、それもそのはず。
ラフォレの町から続くこの道はかなり広く、馬車が三つ並んでもそこまで狭いとは感じないほどの周囲を森に囲まれた大きな道だ。
そしてその広さを取り囲むようにいる大量の魔物の軍勢。十や二十では済まないほどの数だ。
こちらもそれなりに人数がいるとはいえ、さすがにこの数の相手をするのはほとんど不可能に等しい。ましてや、これから攫われた人たちを魔物の巣窟から助け出そうというのに、この状況は最悪すぎる。
「やあやあ皆の衆ごきげんよう」
そんな窮地の中だ。悪意の声が魔物による喧騒をかき分けて俺たちの耳に届いたのは。
かなーりストーリーいじりました。これまでに出た話は編集する予定はないです。
受験やらなんやらで書く時間がない……。




