大門の防衛
ラフォレの町へむかったアルトリウスと道を別にしてルーズヴェルトは人間の領地の最南端にある、魔族領と人間の領地を隔てる『大門』へと向かった。
道中、不思議なことに魔獣一匹にも遭遇しなかったが、それがよかったのか大した時間もかからずすぐに『大門』に到着した。大門は魔族領――魔界と人間界とを分けるロック山脈にある巨大な壁だ。この壁がある限り魔族はこちら側に入り込むことは出来ず、戦争を防止している一つの要因でもある。
大門の監視を任されている『円卓』であるガレス・ディモンドが今は王都キャメロットまで出向いているため、その代わりにルーズヴェルトがその任を背負っているのだが、今回の事件を考えると、その任を全うできていないようだった。
言われたこと一つできないようで、本当に不甲斐ないとしか言いようがない。
「ふむ……。大門には異常なし、と」
大門近辺に魔族の痕跡を調べてみたものの、破壊された形跡はなく、魔族どころか魔物のいた形跡すら全くなかった。
それは問題なく、むしろいいことと言えるのだが、だとしたら件の魔物襲撃の首謀者は一体何者なのだろうか。
まさか、この国に裏切者……ひいては魔族と何かしらのつながりがある内通者がいるのではないか。だとしたら、この国の最高戦力である『円卓』がいないタイミングでことを起こしたのもうなずける。
ここにそれらしき者がいないとなると、やはり事件が起きたラフォレの町にいるのだろう。このあたりの安全が確定したら、アルトリウスの応援に行くべきか。
「おいおい。せっかく『円卓』がいない時を狙ったってのに、何でこんなとこに人間がいるんだぁ?」
「……!」
突如、背後の何もない場所から声がし、咄嗟に腰の剣の柄を取る。体を向けると、黒ローブを身にまとった、声からして男がこちらに向き佇んでいた。
「何者だ」
「はっ! 答えるわけねえだろが。そういうてめえは、たしか王国聖騎士団元団長のルーズヴェルトだったか?」
「……一応聞くが、貴様がラフォレへ襲撃を?」
「だったらどうする? 今ここで俺を捕らえるか?」
「――当然だ」
言うと同時に剣を抜き距離を詰めるために地面を蹴った。佇まいや本人の気迫から、黒ローブはそこまでの手練れではないとわかる。これならばすぐに制圧できるだろう。捕らえた後は聞かなければならないことが複数ある。
目的は何なのか。魔族とのつながりはあるのか。一体何者なのか。
銀色に光る刃を奴へ叩きこもうとした瞬間――。
「く……っ」
「おっと、危ない危ない」
横から割り込むように炎が飛来し、回避のためにバックステップを踏んだ。
新手か――! と目を向けると、ここらでは見ない、異形の魔獣が低くうなりを上げていた。いや、今まで気づかなかったが、ルーズヴェルトを囲みこむようにそこら中に大量の魔獣が配置されていた。
「悪いが、あんたの相手をするのは俺じゃない。こいつらだ」
「魔獣使い……!」
魔獣使いとは、その名の通り魔獣を操れる能力を持つもののこと。国にも数人しかいないといわれるほど珍しい存在で、聞いた限りだと魔獣使い本人にはそこまでの強さはないらしい。
しかし、なるほどどうりで奴からは強者特有の雰囲気が感じられなかったわけだ。
「それじゃ、俺はそろそろ準備のために、遺跡にいかなくちゃならねえからな。あばよ、元団長さま」
「待てっ! ――く!」
言い残してこの場を去ろうとする魔獣使いを追おうとするも、大型の魔獣たちが立ちふさがり行方を阻まれてしまった。
無理にでも捌きつつ追うことは出来なくはない。しかし、そうした場合この大量の魔獣はそのままルーズヴェルトを追跡するのか、はたまた近くの村やディモンド邸へ進軍するのか。
もし後者ならばこの魔獣たちを野放しにしておくわけにはいかない。奴を逃してしまうのは惜しいが、ここで魔獣をすべて討伐するしかない。
「……お気を付けください、みなさま」
魔獣使いや、未だ未知なる存在の魔の手が襲い掛かろうとしていることに歯噛みしながら、何とか対処してくれることを祈り、より一層剣を握る力を強めた。




