お手並み拝見
雷そのものになったガレスは一瞬にして遥か彼方まで飛び去って行った。あまりの規格外さに言葉を失いつつも、こういうことを平然とやってのけるのが最強たる所以なのだと勝手に納得させ、黒い執事服の男に話を振る。
「父さんから聞いたんですけど、ルーズヴェルトさんって『聖剣術』の達人なんですよね? もしよかったら、あとで剣術の指導をしてくれませんか?」
「ええ、ガレス様からの命にそれも含まれていますので。ですが、午後からの指導でもよろしいでしょうか? なにぶん、屋敷での仕事がありますので」
ルーズヴェルトさんは一人の剣士である以前に、この家で雇われている執事だ。その仕事と言ったら、掃除や洗濯といった家事全般。今までは母さんのローザが一人で、たまにカーミラも手伝ってこなしてきたが、掃除に関しては使っている部屋以外は最低限しかしてこなかったらしい。
ルーズヴェルトが戻ったことによって掃除も満遍なく行き届き、母さんの負担も軽減されることだろう。
「はい、もちろんです」
「ルーズヴェルトさんが戻ってきてくれたから、今まで以上に家事が楽になるわ。ありがとうね」
「恐縮です」
嬉しそうに微笑む母さんにそう言葉を返すルーズヴェルト。
そのやり取りをよそに、カーミラが言葉を発する。
「では、午前中はいつも通り魔法の修行ですね兄さん」
「ああ、そうだな」
まあ、そうなるだろうと予測していたから特に何でもないように返事をする。
今までの魔法の修行は、主に魔力のコントロールやそれに伴う魔法の発動だった。今日やるのもさしたる変化はないだろう。
それより、午後から教わる『聖剣術』だ。三大流派の中で最も守備力が高い剣術とされ、自身への魔力付与を得意としている剣術だ。
俺は昔から力でのごり押しで勝てる相手ばかりだったから、防御の方は必要最低限しかしてこなかった。だから、その弱点を補うためにも、『聖剣術』を達人から教えてもらえるというのは本当にありがたいことだ。
そんなことを考えていると次第にワクワクしてきた。まだ俺は強くなれるんだと。
そしてその感情を何とか胸の内にしまい込み、俺たちは屋敷へと戻った。
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朝早くから起きていたからかずっと眠たそうにしていたシロは部屋のベッドで熟睡し、他の面々は各々のやることを始めるために朝食をとった。
食べ終えた俺とカーミラは、魔法の訓練のために山へと向かう。
今までは庭か平原、あとは森で修行していたが段階を上げるために山に出現する魔物を魔法で討伐するとのこと。そこに出てくる魔物は基本的に鉱物でできた体で、大きいものだと、肉体の強度により耐久力もさることながら、攻撃力にも優れているためいい練習台になるそうだ。
思考を巡らせながら山を登っていると、先を歩いていたカーミラがふと足を止めた。思考しながら歩いていたため、カーミラにぶつかる寸前で続いて足を止める。
「どうした?」
「あそこです」
右手の指を突き出しそう言うカーミラ。その先には平らな草地が広がっていて、見たところ魔物っぽいものは視認できない。強いて言うなら巨大な岩がぽつんとあるくらいだ。
「……? 何もないように見えるけど……」
「いえいえ、ちゃんと魔物はいますよ。ほら、あそこに」
「えっと……岩しか見えないけど」
「なんだ。見えてるじゃないですか。それじゃあ、さっそくあそこの魔物と戦ってください。使っていいのは魔法だけですよ? ――はっ!」
「え、いや。ちょっ」
妹の一方的な言葉に俺の思考が追いつく前に、氷魔法で作られた氷塊を岩の上に出現させてそれを落とした。ぶつけられた氷塊は瞬時に砕け散り――ゴゴゴ……と大地の震えと共に岩が動き出した。
「え?」
思わず変な声を出す俺の動揺をよそに巨大な岩はずっしりと持ち上がり、徐々に形が変わっていく。一番大きな岩を中心に周りの岩が集まっていき腕になり、地中に隠れていた岩石が足の代わりになる。起き上がった岩の体長は約三メートル。
見たところ顔はないから正面という概念はないのだろうけど、どうしてか目が合ったような気がした。
「見た通り岩でできた魔物――ストーンゴーレムです。頑張ってくださいね」
「なっ……。……やってやるよぉぉぉ!」
まるで他人事のように言う神様の言葉にのけぞりつつも、すぐに頭を振り気合任せでストーンゴーレムという魔物に突っ込んでいく。
カーミラからの指令通りストーンゴーレムを魔法だけで倒すために腰の剣は抜かずに走りこむ。
ストーンゴーレムの腕に当たるだけでもダメージが大きそうなので、そのリーチの外側で魔力を込める。『火』の魔法――火弾。
カーミラとの修行で身に着けた魔法なのだが、曰く初級クラスの簡単な魔法で、威力もそこまでないとのこと。しかしこの魔法は簡単な分、発動までの時間が早く、発射速度もそこそこ早い。牽制や様子見にはちょうどいい魔法だ。
「いけッ!」
手中に発生した六つほどの火弾をストーンゴーレムに向かって発射する。
高速でゴーレムに向かって飛来する炎に対し、当の本人は回避動作どころか防御の姿勢すらしない。結果的に当然のように全弾ヒットするが、バシュッという音を立てて無残に消えていくだけで大したダメージにはなっていなさそうだ。
俺の攻撃に反応しゴーレムは持ち前の岩腕を振り回す。その力任せの大降りに対し俺は後方に飛び回避という行動を選択。
着地と同時にゴーレムを中心に放射状に走り出し、同時に無数の火弾を展開。置き玉として空中に配置し時間差で発射する。様々な方向から魔法が激突するが、表面に傷や煙が立ち込めるだけで、先と同じようにあまりダメージはない様子。
俺のいる方向が変わったためゆっくりとこちらに向き直る。そして腕を大きく後ろにそらす動作を見せる。腕を振り下ろす攻撃で届く範囲ではないからどうするんだと思っていると――腕の岩を投げ飛ばしてきた。
「っ!?」
まさかの攻撃方法に一瞬反応が遅れるが、すぐに頭を回転させ横に飛びすんでのところで回避する。
回避した岩腕はそのまま地面にぶつかり、衝突した拍子に砕け散る。
それにしても、危ないところだった。まさか飛び道具を使うだなんて思いもしなかった。
しかし、予備動作や攻撃範囲は今わかっている範囲では大体頭に入れた。これならもう危険になることはないはずだ。
「じゃあ、次はこいつだ」
両方の手のひらを上に向けて腰の辺りで構える。
初級クラスの魔法を連発しても大したダメージにならないのなら、もっと強い威力の魔法を使うしかない。初級から中級と段階を上げるのもいいが、手っ取り早く倒すために上級クラスの魔法を使ってしまおう。と言っても、単に込める魔力を増やすだけなのだが。
構えた手のひらに魔力を流し、さっきよりも大きな炎を発生させる。手のひらに生まれた火球はオレンジ色から徐々に変化を遂げ、青白く燃え盛っている。
火属性上級魔法――蒼炎。
火弾は大体小石程度の大きさだったが、蒼炎は直径約一メートルの炎魔法だ。今回は威力をさらに高めるためと言うのと、魔力操作の修行も兼ねて、五十センチ程度に圧縮している。
そして、初級クラスの魔法と違うのはもちろん大きさだけではない。
それを今から証明しよう。
「いっっ……けぇ!」
両の手から放たれる二つの蒼炎は狙った対象――ストーンゴーレムに飛んでいき、衝突と同時に強烈な熱波と爆発を起こした。その拍子に煙が巻き上がりストーンゴーレムの姿が視認できない、があの威力の魔法ならさしものストーンゴーレムの耐久力でも耐えられないだろう。
そして、徐々に煙は薄れて――。
「おいおい、嘘だろ……」
思わずふっと笑みが漏れる。
煙の中から現れたのは――蒼炎の威力によってその場に倒れこんだ岩の魔物の姿だった。
俺の放った爆炎によりその場に倒れたものの、ヒビ一つ入ってはいなかった。相当な威力を持つはずの蒼炎ですら、魔物を倒しきるまでには至らなかったのだ。
破壊力としては『火』のほうが『風』よりも強い。そして、その強いはずの『火』でも魔物に致命傷どころかほとんどダメージを与えることは叶わなかった。つまり、風属性の魔法を使おうとダメージがないのは明白だ。
そもそも、風属性は岩とは相性が悪いらしい。風の魔法というのは吹き飛ばしたり、風の刃で切り刻むというものが多かった。そしてストーンゴーレムは硬いうえに非常に重い魔物。どう考えても相性が悪すぎる。
そこまで考えると、ゴーレムはゆっくりと上体を起こし反撃と言わんばかりに腕の岩を再び投げ飛ばしてきた。
「――っ」
俺はそれを飛ぶことによって危なげなく回避し、頭を回転させる。
正直に言って、この魔物の脅威度というのはそこまで高くはない。攻撃もすべて単調で、距離を取れば基本的にはあっちからの攻撃は当たらない。
しかし、攻撃面ではそこまで凄くなくても奴の耐久力は侮れない。俺の蒼炎による攻撃ですら少しの傷と、その場に倒すということしかできなかったのだから。もし剣での攻撃がありだったとしても、そもそも斬ることが出来たかすら危うい。
そうなると――。
「――どこかに弱点がある……?」
小さい声でそう言葉をこぼす。
カーミラが討伐対象としてこの魔物を設定したのなら、必ず倒せる可能性があるということだ。あの神様は絶対にできないようなことはやらせない人なのだ。
つまりあの硬い岩の体のほかに攻撃を当てれば倒せるということ。弱点がどこかに必ずあるはずだ。
そこまで考え、俺はこの戦闘の出来事を思い返す。弱点というのは本能的にさらさないように、隠すようにしているものだからだ。
まず、俺は火の最下級魔法で奴の胴体に攻撃を仕掛けた。それでも大したダメージはなく、物量でダメージを通すために複数の火弾を展開してぶつけた。それは一方向ではなく、放射状の攻撃だったがまたしてもダメージはなかった。
「ふむ……」
……弱点、ないかもしれない。
「いやいや待て待て、そんなことはないはずだ。必ずどこかに……」
その考えを否定するように、すぐに頭を横に振る。
もっと考えるんだ。やつの弱点のヒントになりえる情報を。
「――あ」
と、ここで一つの可能性に気が付いた。
あいつはずっと隠していたじゃないか。なぜこんな簡単なことに気が付かなかったのだろうか。間違っているかもしれないが、奴の行動を思い返してみれば、それはほぼ確定的だ。
なら、俺のすべきことは。
「ふっ!」
身体強化した脚力で一気に距離を詰める。俺の疾走に反応し、すぐ目の前のストーンゴーレムはその巨腕を振り下ろし、押しつぶそうとしてくる。そこで俺は急ブレーキをし、バックステップを踏む。それによって奴の腕は地面に衝突し草の生えた地にめり込む。
地面に突き刺さった岩腕を足場にして一気に駆け上がり、ストーンゴーレムの背後に強引に回り込む。
すると――。
「これか」
背中に不細工に生えている黒い岩が、ゴーレムの背を乗り越えた先に現れた。
おそらくこれが奴の弱点だ。
このストーンゴーレムは戦闘開始から常に俺に正面を向けていた。言い換えれば、絶対に背を向けなかったのだ。
そう。これが奴の本能的に弱点を隠していた行動だ。今まで気づかなかったのが不思議なくらい露骨な動きだった。
よし、と切り替え、右手に再び魔力を込めて蒼炎を作り出す。そして、序盤の攻防と同じように蒼炎をその場に設置する。
爆炎の余波に巻き込まれないよう、大きく飛んで距離を取る。上に構えた、魔力を留めている右手を思いっきり開き、
「これでも、くらえっ!」
その手を振り下ろす。呼応するように蒼炎も黒岩にむかって落ちていき、ストーンゴーレムを中心に青白い爆発を起こした。爆発と共に凄まじい爆風と白い煙が巻き上がり、小さな岩の破片が辺りに飛び散る。
煙の中から反撃の投石が来ないでもないから、風魔法で煙をかき消す。そして白煙の中から正体を現したのは――完全に砕けたストーンゴーレムの姿だ。
これにて討伐完了だ。
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「お疲れ様です」
「うん。お疲れ。さすがにちょっと手ごわかったよ」
単純な防御力だけを見てみたら、現状の手札をすべて切っても俺には崩しづらい相手だった。『あの力』なら多分一撃で倒すことが出来ただろうが、今の俺にはそれは難しいことだ。
「あの、それは……?」
そう尋ねる妹の目線は俺の手元に向けられていた。そして、その手に納められているのはストーンゴーレムの弱点だった岩とほとんど変わらない色をした漆黒の鉱石だ。
「多分、ストーンゴーレムから出た何かの鉱石だと思うんだけど、新しい武器を作るときに使えるかもって思ったんだ」
「私はあまり詳しくないのですが、鉱石から作れるものなんですね」
「俺も詳しいわけではないけど鍛冶師なら作れると思う。まあ、今のところ鍛冶師にあてがないからこれは大事に保管しておくことになるんだけど」
前世での知り合いの鍛冶師はかなり腕がよく、俺の愛刀を打ってくれたのもその人だ。その素材となる鉱石を手に入れるのも苦労したが、それはまた別のお話。
とにかく、今言った通りこの黒鉄の鉱石はとりあえず持ち帰って、時が来るまで大事に持っておこう。
時刻は進み十時ごろ。家に帰った俺たちは玄関先で口元を抑え絶句している母さんに遭遇した。
帰ってきた俺たちに気づいた白縹色の長髪の女性はあわあわとした様子で俺たちに駆け寄ってきた。
「アルにカーミラおかえりなさい」
「ああ、うん。ただいま。その、何かあったの?」
「そうなの。ちょっと聞いてほしいんだけどね、ルーズヴェルトさんが……」
母さんは頷き、言葉を続けようとすると、階段上から一人の声がした。
「おかえりなさいませ」
「あ、ルーズヴェルトさん! もー。ルーズヴェルトさんの仕事が早すぎて私のやることがなくなっちゃったじゃない」
拗ねたように母さんが言う。
なるほど。あわあわしていたのはそういうことだったのか。それにしても、母さんの仕事がなくなるほどの手際の良さとは、恐れ入るぞ。
母さんの言葉を聞いたルーズヴェルトさんは、「ほっほっほ」と自信満々に笑い、
「それが私共の役目ですからな」
「すごいですねルーズヴェルトさん」
「恐縮です。お風呂のご用意はできていますのでお入りください。出ましたら昼食にして、剣の修行はそのあとということでよろしいですかな?」
「はい。ありがとうございます」
「私はあまり汚れていないですし、兄さんが先に入ってきていいですよ」
そう言うカーミラの服装は白がベースではあるものの、そのとおり汚れてはいなかった。
山をそれなりに上ったはずなのに、いったいどうやったんだ……。
と、そんな考えを頭の隅に追いやり、とりあえず返事を返す。
「わかった。あ、そういえばシロはどうしたの?」
「シロちゃん? シロちゃんなら書庫に行くって言ってからはみてないから、多分書庫だと思うわよ?」
「心配ですし、私も行ってきますね」
「ええ、お願いね」
風呂から出た俺はルーズヴェルトさんと母さんの用意してくれた昼食を手早く済ませて――ちなみに、母さんはもちろんのことルーズヴェルトさんの料理もかなりの絶品で、各地を渡り歩いていただけあるなと感心させられた。
その後ルーズヴェルトさんに剣の教えを得るために屋敷の領域内の端にある修練場にやってきた。
修練場は白いレンガのような床と、それと同じように壁が作られている。中にあるものは木製のかかしのような的と大きさの違う訓練用の木剣が入っている長い籠。他にはベンチや休憩用の部屋があるといったところだ。
「アルトリウス様。今から、私の知る限りの『聖剣術』の技をお教えしたいと思います。先に申しておきますが、私の修行は非常に苦しいものとなります。生半可な覚悟では決して耐えきることは出来ません。アルトリウス様にその覚悟はありますか?」
「……はい、強くなるためなら何だってする覚悟です」
「……わかりました。ではまず初めに『聖剣術』の心得を一つ。――守は攻を知ったものにこそ極められる。です」
「守は攻を知ったものにこそ極められる……?」
「はい。――シッ!」
「――――!」
俺が言葉を繰り返し、それに応じるように頷いた瞬間、ルーズヴェルトさんは突然床を蹴り疾風のごとき速さで距離を詰めて斬撃を放つ。
驚きながらも両手に持った木剣を構える。同時に、息をするように身体強化も発動し、黒い服装の執事の一撃を迎撃することに成功。お互いの木の刃が重なり合う。
「……いきなりですね」
「ええ。習うより慣れろ、というのが最も効率がいいと思いましたのでね」
習うより慣れろ。この言葉を聞いてあることに気づく。……ルーズヴェルトさんは父さんの師匠なんだ、と。
父さんの流派は『魔剣術』。
『魔剣術』の特徴は場面によって柔軟に対応しながら魔法を混ぜて戦うこと。しかし、俺と初めて剣を交えた時には魔法の類は身体強化以外一切使わず、防御主体の戦法だった。そして、防御主体なのは『聖剣術』の特徴だ。
さっきの言葉も含めて考えると、つまりルーズヴェルトさんは過去に父さんに剣を教えていたということ。だとしても、このきっちりしてるルーズヴェルトさんから「習うより慣れろ」なんて感覚的な言葉を聞くだなんて思いもしなかった。
「なるほ……どッ!」
言葉尻を上げ、交差する剣を大きくはじく。仕切り直しだ。
「急な攻撃に対応し、防ぐ。お見事です」
「そちらこそ『聖剣術』というわりにはかなり鋭い一撃ですね。さすが元王国聖騎士団団長」
「言ったでしょう? 守は攻を知ったものにこそ極められる」
「……なるほど」
頭の中でその意味を咀嚼する。ルーズヴェルトさんが言っていることを簡単に要約すると、防御を得るにはまず攻撃を知る、つまり攻撃されると嫌なところだったり、同時に弱点への攻撃を守り切るにはどうすべきなのかを知るということだ。
「では行きますよ」
再度、白石の床を蹴り、左右に飛びフェイントを交えながら俺の目の前で横薙ぎの一撃を繰り出す。
俺はそれをかき消すように、斜め下からの切り上げで迎え撃つ。
スピードの乗ったルーズヴェルトさんの一撃の方がやはり威力は高く、ズズと音を立てながら後進する。間髪入れず追い打ちの二連撃が飛んできて、それを後ろに飛ぶことによって回避。
距離を取った俺は反撃と言わんばかりに、剣に魔力を込めて『魔斬』――ガレスから教わった魔力の斬撃――を放つ。
「行け……っ!」
魔獣を倒したとき同様六発ほどの斬撃だ。しかし銀髪の執事はそれをものともせず、剣を横にして受けることによって魔斬を無効化する。
「――お返しです」
すると、俺の真似をするように魔斬を一発放つ。おそらく、同じように防いでみろということだろう。俺は即座に防御姿勢を取る。
しかし――。
「くっ……」
木剣で受けることは出来たものの、思ったように防ぐことが出来ず、少し仰け反る。
修行の中、父さんの魔斬は受けたことがあり何度かやるうちに慣れて防ぐことが出来た。しかし、この人の魔斬は父さんのとは全く種類が違う。父さんのは一撃が重く高威力なものだった。一方、ルーズヴェルトさんの場合は一発なのに多段の攻撃になっていて、しかも複数方向からのものだ。
受ける方向が定まっていないというだけでこちらの防御は瓦解し崩れ去る。
そうなるとダメージを受けるまではいかなくても、大きな隙をさらすことになりかねない。そんな状況にならないように、ゼロ距離の魔斬で無理やり相殺する。
「ほう……あの斬撃を初見でいなすとは、さすがガレス様の息子ですね」
「ありがとうございます。あの多段の斬撃ってどうやったんですか?」
「それは見て盗んでください。そのための修行ですぞ」
「はは。確かにその通りですね」
言い終わるや否やお互いににらみ合い、緊張と静寂がこの修練場を包み込む。
この太刀合いにおいて俺に求められること、それは防御だ。
『聖剣術』は防御や受け流しといった守備能力に関する力が重要視される防御特化の剣術だ。ルーズヴェルトさんの鋭い攻撃を防ぎきることによって鍛えられると考えてこの修行方法なのだろう。
正直なところ、変に型にハマった訓練より、こういう感覚的な訓練の方が性に合っている。この方が自身の力になっているという実感が湧くし、何よりその中で新たな発見があるというメリットもある。
ここまで考えたうえで、俺は受けに回るために正眼に剣を構えて集中する。
まっすぐ剣を構えるというのは、正面からの攻撃には基本的には対応することが出来る。
しっかりと相手の眼を見て、次の行動を予測するためにより一層、柄を握る手に力を込める。
「――――」
「――――はッ」
静寂を切り裂くように地を蹴ったのはルーズヴェルトさんだ。切っ先を俺に向けながら走る構えは、さながらレイピア使いのようだった。そして、勢いそのまま剣先を俺の胸元目掛けて突き出す。
「ふっ」
俺は回避の動作を交えながら、構えていた木剣で迫りくる刃を弾く。それを開戦の合図とでもいうように、凄まじい攻防が始まった。
こちらが斬撃を放てば的確に防がれ、逆にルーズヴェルトさんの攻撃は俺の防御を少しずつ削ってくるような連続攻撃だった。
何が厄介かというと、一度防げたと思ったら次の攻撃はさっきと同じ多段の斬撃を混ぜてきたりして、防ぎきるのが難しいのだ。
「く……っ」
防戦一方でその防御すら破壊されつつあるこの状況を何とか崩すために、剣で捌きながら少しずつ魔力を練り上げて、魔法のための準備をする。
しかし、さすが元団長だ。俺もそれなりに本気でやってはいるが、こちらが後手に回されてしまっている。一つのことに対応できたと思ったらまた別の技で攻めてくる。年の功というやつか、やはり経験値に差がありすぎるようだ。
だが、その程度のことに臆するわけにはいかない。俺だって『鬼神』として十数年間培ってきた経験と、この世界で得た力がある。
「せあぁぁっ!」
激しい攻防のさなか鍔迫り合いとなった状態から、ルーズヴェルトさんの木剣を大きく弾き、俺は右手を使って風属性の魔法を発動させる。
込められた魔力によって世界に召喚された風の力は薄緑色の渦を生み出し、パリィされたことによってわずかに隙の生まれたルーズヴェルトさんの体をそのまま吹き飛ばす。
「ぬ……ッ」
「はぁぁぁぁぁ!」
のけ反り、決定的な隙をさらしたルーズヴェルトへ追撃の斜め切りを打ち込む。軌跡を描き放たれた斬撃は吸い込まれるように執事の胴の部分へと加速していく。このタイミングでは防げまい。
しかし――。
「なっ」
絶対に当たるだろうと思った斬撃に対し、ルーズヴェルトさんはとっさに手首をひねり、迫りくる刀身を自らの木剣で完璧に受け切った。見事なまでの技量に内心称賛を述べるが、事は一瞬にして起きた。
何か衝撃が加えられ、何故か俺はその場に倒れていた。




