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罪の鬼神と過ちの女神  作者: 坂本 天
第2章 白銀の願い
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二週間の始まり

 村長にお礼をした俺とカーミラは、その後村を出て屋敷へと戻った。到着し、玄関を抜け二階へと続く大階段の前で口を開く。


「じゃあ、父さんと話してくるからカーミラはシロのところに行ってていいぞ」


「わかりました。お願いします」


 そう返事をしたカーミラは二階へと階段を上っていきシロがいるであろう自室へと向かった。見送った俺はそのまま右の書斎へと歩を進める。書斎は玄関の辺りからそう遠くない位置にあるためすぐにたどり着いた。

 ドアの前に立った俺はカリウスさんの家同様二回ほどノックをする。


「アルか、いいぞ」


 ノックへの応答があったためドアを開けて中に入る。

 中に入って最初に目に入ったのは、椅子に座りたくさんの書類の山を処理しているガレスの姿だ。


「大変そうだね」


 労いの言葉をかける。するとガレスは「まあな」と笑い、


「ノースファルツ領の各地から魔物や魔獣の被害が多発していると報告があってな。その報告書やら騎士団派遣の書類なんかが溜まりにたまってこのありさまさ。っと、そんなことはいい。ここに来たってことは何か話があるんだろう?」


 ノースファルツ領とは父さんが治めている、キャメロット王国の北部に位置する領地の名だ。俺たちが暮らしているのはその最北端でもあるクラリナ地方というところだ。

 ガレスの問いに応じ口を開く。


「うん。シロのことで……」


 それから村で集めた情報、主に村長から聞いた話をそのままガレスに伝えた。シロがクロッゾ村の子ではないこと。村長が付近の村や町にも呼び掛けてくれること。それらを話し終えると、ガレスは瞳を細めて口を開いた。


「なるほど……」


「……?」


「いやな、実は俺もローザに頼まれて周辺の町や村に呼びかけてはみたんだが、結果は同じだったんだ」


「……! それじゃ、シロはいったいどこから……」


 ガレスの言うことが本当なら、シロはこのあたりの人間ではないということか? しかし、だとしたらシロはどこから来たんだという疑問が出てくる。

 魔獣が大量にいるあの森でずっと暮らしていたわけではないだろうし、このあたりに認知されていない集落があったような記憶もない。


「それなんだが……もしかしたら、あの子は山を越えた先――魔族領から来たのかもしれない」


「魔族領?」


 神妙な顔でそう言うガレスに尋ねる。


「そういえばまだ言ったことはなかったか。館の裏に大きな山があるだろ? そこを超えた先には魔族といって人族とは違う種族が住む領土があるんだ。魔族とは大昔の戦争以来停戦協定が結ばれているんだが、いつその協定が破られ人間領に攻め込まれてもすぐに対処できるように俺がここに領主として構えているんだ」


「それで、なんでシロがそこから来たと?」


「いや、あくまでかもしれないってだけでそれと言った根拠はないんだ。それに仮に魔族なら頭に角がなければおかしいしな」


「ああ、だから母さんが髪を切ったんだ」


 散髪の際に頭の角の有無を確認するために散髪をさせたということか。母さんは素直に髪を切りたかったという思いもあったのだろうが、もしも魔族だとしたら危険があったわけだが、その場合はどうしていたのだろうか。俺が知らないだけで実は母さんも戦えるのかもしれない。 


「そういうことだ。……で、村でのことの報告以外にも、何か話があるんだろう?」


 そう。俺は報告のためだけに来たわけではない。まさかそれを言い当てられるだなんて思いもしなかったが。


「うん。実は、シロをこの家の子として迎え入れてあげたいっていうのを話に来たんだ。さっきの父さんの話でシロに危険がないってことが分かったわけだしさ」


「ああ、いいぞ」


「現状、どこの村や町の子でもな……って、いいの!?」


 まさかの即答に、話の途中で言葉を切りながら衝撃の言葉を出す。


「ああ。もともとお前に言われる前からそのつもりでいたしな」


「なんだ……よかった」


 ふう、と安堵の声を漏らす。

 騎士であるガレスなら少しの危険性すら排除するかもしれないと思っていたが、どうやらそれは杞憂だったようだ。

 まあ、さすがにか弱い少女を見捨てるなんてマネはしないか。


「そうだ、話は変わるが、王直々の呼び出しがあって、明日から二週間ほど王都に行ってくる」


「わかった。けど、そうなるとその間の修行は自主練か……」


「いいや、その二週間の間は俺の代わりに、執事が稽古をつけてくれることになっている」


「執事?」


 この家で生活してきて一年以上経っているが、今までそのような人物を見たことがない。となると、その間の期間に限って雇ったということなのだろうか。しかし、稽古をつけるということはそれなりに剣を扱えるということなのだろう。

 俺の問いにガレスはうなずく。


「ああ。少し前まで休暇を取らせていたんだが、本人からの申し出とちょうどいいタイミングだったから戻ってもらうことにしたんだ。ちなみに、そいつは『聖剣術』の達人だ。『円卓』に名を連ねるほどではないにしろ、かつて王国聖騎士団団長を務めていたほどの実力者だ」


「へえ、そりゃいいや」


 父さんは『魔剣術』の使い手で、今までは前世の剣技と『魔剣術』をベースに鍛えてきた。しかしこの世界で戦い抜くのなら他の剣も見ておくことに越したことはないし、何より達人ならば学ぶことは多いだろう。

 事実、俺の弱点である防御方面を補うためにも守備力が高い『聖剣術』を教えてもらえるというのはありがたい。

 

「話も終わったことだし、早くカーミラたちに所に行ってこい。多分待っているだろうから」


「うん、そうするよ」


 そう言って俺は書斎を後にする。書斎の扉を閉め廊下に出た俺は来た道を戻り、曲がりくねった階段を上る。

 二階に着き、自室のドアを開け中に入る。


「あ、兄さん。話は終わったんですか?」


 こちらに気づいたカーミラが声をかけてきた。傍らには白髪の少女――シロが座っている。二人の距離はわずかに空いている。同じ部屋に女子二人、おそらく何か話していたのだろうか。その考えを頭の隅に置き、言葉を返す。

 

「ああ。シロをこの家で引き取ってもいいってさ」


「……! ありがとうございます兄さん! よかったですね、シロ!」


「……うん」


 父さんと話したことを伝えると、カーミラは嬉しそうに声を上げ、シロの方に向く。それにシロはいつも通りの静かな反応で応じる。

 二人のやりとりを見ていると、どこか姉妹のようにも見えてくる。そんな感想を抱いた。


「二人とも―! 帰ってきているのなら、シロを連れて降りていらっしゃい。そろそろお昼にしましょう」


「わかったー!」


 ローザの呼びかけに大きな声で返事をする。今日は朝からイベント目白押しだったから忘れていたが、もうそんな時間だったか。

 それにしても、考えることが多いな。

 シロのこと。館を空けるガレス。代わりにくる執事。他にも修行のこともある。

 正直に言って許容量ギリギリだが、まあ何とかするしかないな。


----


 翌日。早朝六時を回ったころ。

 キャメロットまで行く父さんを見送るためにみんなで屋敷の正門前に集まっていた。

 朝が早いからか幼いシロは眠たそうに目元をこすり、そんなシロに対してカーミラが優しく寄り添っている。


「そろそろだな」


 そうつぶやいたのは、父さんのガレスだ。

 そろそろというのは、もともとこの家で雇っている執事のことだ。執事さんは馬に乗って遥々西の王国から来るそうだ。

 

 とそんなことを考えていると、馬に乗った一つの影がこちらに進んできているのが見えた。

 風を切り疾走する黒馬に乗る一人の男。銀色の長髪をたなびかせながら走り、門前に到着した執事の方を見やる。

 年齢は五十代前半といったところで年齢相応髪が白くなりつつある。目元はきりっとした感じで、銀色の髭が整えられている。服装は白いシャツの上に黒い執事服のジャケットを着こんだ、まさに執事と言った感じだ。

 門前に到着した執事さんはマントのように長い後ろの燕尾をはためかせて馬から降りる。そしてそのままこちらに向き、手を胸の前に置き礼儀正しくお辞儀する。


「お久しぶりですガレス様。奥様もお元気そうで」


「ああ。久しぶりだな」


「ふふ。あなたも元気そうね。休暇は楽しめたのかしら?」


「ええ、それは。……して、そちらのお子様方が例の……」


 言い、黒い瞳でこちらを見る。眠たそうなシロを世話しているカーミラの代わりに俺があいさつを引き受ける。


「初めまして。アルトリウスといいます。そこの黒髪の子が妹のカーミラで白髪の子がシロです」


「アルトリウス様に、カーミラ様に、シロ様ですね。わかりました。私の名はルーズヴェルトです。これからよろしくお願いします」

 

「は、はい。お願いします」


 様付けに少し違和感を抱きながらも、ルーズヴェルトさんに倣いお辞儀を返す。それを見て、カーミラとシロもあわててお辞儀をする。


「それじゃ、後のことは任せたぞルーズヴェルト」


 聖騎士はそう言い、執事に事を託す。

 それに応じるようにルーズヴェルトがさっきと同じお辞儀をして一言。


「お任せを」


 その返事にふっとガレスが息をつき、


「行ってくるよ、ローザ」


「ええ。気を付けてねあなた」


 両親二人が優しく言い合う。

 忘れがちだが、二人ともまだまだ若い。

 いわゆる新婚というやつなのだから、たまにはいちゃついてもいいと思うのだが、どうにもそんな素振りすら見せない。しかし、互いを想い合っているというのは確かで、今こうして言葉をかけあっているときでさえ、その片鱗を感じさせる。

 二人が抱いているのは愛だけではなく、おそらく揺らぐことのない信頼だ。そして、それは簡単に得られるような安い物じゃなく、それこそ長い時間を二人でともに過ごしてきて初めて得られるものだ。

 この二人の馴れ初めだとか、今までの冒険談だとか聞いたことはないけど、ここで初めて興味を持った。

 ただ、今聞くべきことではないとわかっているのでその好奇心を心の底に押し込み、ローザのように送迎の言葉を贈る。


「村や母さんの安全は俺が責任を持ってしっかりやっておくから、父さんは安心して行ってきて」


「お父様、気を付けて行ってくださいね」


「……いってらっしゃい」


 俺が言うとカーミラがそれに続くように言い、シロは相変わらずの声音で送り届ける。

 すると、ルーズヴェルトさんがふっと笑みをこぼし、


「優しい子供たちに恵まれましたな。坊ちゃん」


「ああ、全くだよルー爺。……何度も言うようだけど『盾』は任せたぞ」


「ええ、もちろんです」


「……?」


 なんだかよく分からないことをルーズヴェルトさんに託すガレス。何度も言うように、ということはつまりさっきから言っていたことは全部同じことなのだと推測できる。が、俺には見当がつかない。

 そんなに大事にしてそうな『盾』などあったかと思考を巡らせるが、やはり思いつくことがない。

それにしても、今の会話のお互いの呼び名、坊っちゃんとルー爺とはいったいどういうことなのだろうか。同じように考えを巡らせるが、やはり正解にはたどり着かない。まあ、それはあとで聞けばいいはなしなので頭の隅に置いておく。


「それじゃ、行ってくる」


 そして、ガレスは最後にやさしく微笑み、雷の魔力を全身に纏ってはるか上空を飛んでいった。





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