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罪の鬼神と過ちの女神  作者: 坂本 天
第1章プロローグ--転生
1/33

プロローグ


「ここが全ての元凶、戦を始めた張本人のいる城……」


 目の前にあるのは、巨大な城壁に守られた難攻不落の天守閣。空一面に広がる黒雲はこれから始めることが失敗に終わることを暗示しているようであった。しかし、ここまで来たからには負けるわけにはいかない。


 ここに来るまでたくさんの命を奪ってきた。たくさんの涙を見てきた。それももう終わる。奴さえ倒せば、この意味のない争いに終止符を打てるのだ。

 さあ、行こう。決着をつける時だ。

 その大きな覚悟を胸に、数えきれない命を背負って、終わりを始めるための一歩を踏みしめた。





 俺は物心ついた時から刀を握っていた。小さな体ながらその類稀なる身体能力と剣の冴えから地元では大人にすら勝ち越すほどの腕前だった。


 そんな子供がいるとやはり噂として広まっていくもので、ついにはこの国の将に目を付けられ、気づいた時には戦に参加することになっていた。


 最初は戸惑いもあったし、人の命を取ることに対する躊躇いもあった。でも、戦で武功を上げると父も喜んでくれたし、二つ下の弟にも自慢のお兄ちゃんだと言ってもらえていたから何とか頑張れていた。そんなことを続けているといつしか命を奪う躊躇いも消え失せて戦いに臨むようになっていた。


 それから数年間俺は幾度となく戦い続け、いつしか『鬼神』と呼ばれ他国から恐れられるようになった。

 

 戦の度に戦場へ赴き、百の軍勢を、時には千の軍勢すら一人で屠っていった。そんな化け物じみた強さからつけられた異名が『鬼神』。戦で活躍し続ければ、もちろん褒賞はたんまりと出る。俺はそれを家族に送り、裕福な暮らしをさせてあげるのが生きがいとなっていた。もともと父は体も弱く、稼ぎ的に余裕がなかったのもあってなおさら俺が頑張らないとと、俺が守って支えていかないとと躍起になっていたのもあるかもしれない。


 しかし俺が十五を超えたあたりのある日、運命を変える悲劇が突然として起きた。



 ――家族が殺された。


 

 最初は見間違いかと思った。しかしどれだけ目をこすろうと、どれだけ視界がゆがんでようと、そこにあるのはたしかに家族の惨殺死体だったのだ。

 何が起きたのか全く理解できなかった。理解したくなかった。こんなものは夢だ嘘っぱちだと、そう思いたかった。でもこれは現実だった。変えようのない、本当のことだった。


 大切な人たちを奪われた悲しみが胸の内から溢れていき、次第に止まらない涙の滝として延々と流れていった。視界が涙で覆われ何も見えなかった。体中から力が抜けて立つこともままならなくなっていた。

 その辛さで一週間は外に出ることはおろか動くことすらできなくなっていた。

 

 この収まりようのない悲しみは、次第に怒りへと変わっていった。こんな残酷で非情なことをした犯人を生かしてはおけないと思った。それからというもの、俺は犯人を徹底的に探し出し一か月ほどかけてようやくその男を追い詰めた。

 殺す前に一言、なぜこんなことをしたのか理由を尋ねた。最初は金目当てなのかと思ったが実際はそんなことではなかった。


 ――鬼神おれへの復讐だったのだ。

 

 犯人は過去に戦で俺が殺したやつの弟だった。その男は


「大切なものを奪われたことがどれだけ辛いのかわかったか!?」


 と瞳に涙をため込みそう言い放つ男に、俺は目が覚めたようにはっとした。


 今まで俺が良かれと思ってやってきた戦は、言うなればこのような悲劇を無限に生み出してきたことと同義だ。俺がやってきた英雄的なことはただの大量殺人鬼と何ら変わりないことだったのだ。


 こんな悲劇繰り返してはならないと思った。もう二度と、彼や俺のような悲しみを経験した人を生み出してはならないと思った。

 人はいつか死ぬ。でも、それは天寿を全うしたから死ぬわけであって誰かによって奪われていいものではない。そのことが俺はようやくわかった。


 俺はもう、誰かが死ぬのなんて見たくない。だから戦いなんて終わらせよう。無駄に血ばかりが流れていく争いなんか俺が終わらせて見せる。今まで奪ってきた無数の命に対して俺が出来るせめてもの償いだ。




 それから俺はすぐに行動に移った。今まで世話になっていた将軍にもその話をし、協力してくれることになった。その将軍は顔も広く、腕利きの情報屋に知り合いがいて、そこから得た情報を頼りに数々の戦のもとになった原因を余さず排除していった。


 数年後、戦を裏で操り、この国全土を支配しようと企む張本人がいるという情報を得た。その名も第六天魔王。奴さえ倒せば何もかも片が付く、そう思って今その本拠地に単身攻め込んでいるのだ。


「せあぁぁぁッ!」


 迫りくる無数の敵に俺は神速とも思える速度の刃を見舞う。その一太刀で兵士は吹き飛ばされ、戦闘不能状態に陥っていた。しかしもちろん致命傷は与えていない。殺しは無しという俺の覚悟は戦闘に何ら影響を及ぼすとは思っていたが、殺さずとも戦えないように気絶させるのは案外簡単なことであった。


「……ふぅ。にしても、やはり広いな。この城は……」


 全十階層からなるこの城は、階の数だけでなくその一つ一つが途轍もない広さとなっている。それほどの規模の大きさだ。もちろん邪魔者の数は多いし、階を上がるのも一苦労だ。


「仕方ない……」


 上の天井を見上げ、刀を握る手に力を籠める。


「――ぶち破るか」


 体の内にある『気』を全身に巡らせて低い姿勢で切っ先を下に構える。ここから最上階までつづく大穴を開けるには、常人の力ではまず無理だ。しかし俺は違う。

 今操った『気』というのは人間が無意識に眠らせている真の力とでもいうべきもの。俺は生まれつきその操作に長けていたらしく、それで大人を圧倒する力を幼いながらに持っていたのだ。

 そしてここ数年で俺はとある人に弟子入りし『気』の操作と剣術を教わった。

 全ては、戦そのものを終わらせるために。

 

「一刀流・龍翔――!」

 

 ため込んだ力を解き放つように下から一気に切り上げる。同時に烈火のごとき赤き龍が刀から放たれ、途轍もない勢いで天井を破壊していった。

 教わった技の一つ龍翔は『気』をため込みそれを一度に放つことによって強力な斬撃を生み出す切り上げの技だ。さながら龍が天を翔るようなことからその名が付けられた。


「よし、と。これで行きやすくなったな」


 頭上に空いた大きな穴を見上げてそうつぶやく。それにしても、直径二メートルほどの大きさの穴が最上階まで空いたのは分かったのだが、予想では天井屋根を突き破っていくと思っていた。

 まあ、とりあえずそれは置いとくとして、これでようやく奴のもとへたどり着ける。

 俺は刀を鞘に納め、破壊した穴にあるわずかな足場を飛び移りながら最上階を目指して上っていった。途中、無数の敵兵士が見えたが、それらすべて無視し、最上階にたどり着いた。


「ここが、最上階……」


 俺が今まで居た下層とは雰囲気が違う。どこがとはわからないが何か違和感を感じるのだ。しかし、それとは別に第六天魔王がいるはずなのにその気配をまるで感じない。


「ついにここまで来たか――『鬼神』鬼丸よ」

「!?」


 背後から聞こえた声に反応し振り向く。今まで気配がなかったのに突如出現したその男を眼前にとらえ臨戦態勢をとる。

 まるで王にでもなったかのように玉座に頬づえをつきながら座る第六天魔王は黒マントに黒い鎧を装備したまま余裕の表情をしてこちらを漆黒の瞳で見据えていた。色の抜けた白色の髪と髭から年齢はおよそ四十代か五十代前後だと予測がつく。


「……あんたが戦を始めた第六天魔王で間違いないんだな?」

「そうだ、と言ったら?」

「殺す――!」


 木製の床を蹴り二十メートルほどの距離を一気に詰める。同時に刀を鞘から振り抜き第六天魔王の首目掛けて殺意のこもった斬撃を放つ。


「まあ、待て」

「……っ!」


 奴の一言が聞こえたと思ったら、何かに防がれたかのように刃が弾かれる。何が起きたかわからないが、これはまずいと判断し縮めた距離を再び開ける。すると俺の居た床が大きな亀裂によって引き裂かれていた。


「ほう……いい判断だ。あそこで退かなければ今頃貴様もろとも切り裂けたものを」

「……今、何をした」

「なに、ただ『力』を使ったまでよ。貴様の『あの力』と同種の異能をな」

「……!」


 なぜ奴が俺の『力』のことを……いや、そんなことより今この男は俺と同じ『力』だと言ったのか? もしそうなら、俺も出し惜しんでいる場合ではないのかもしれないが……。


「いったいどこでその力を手に入れた!」

「ある方から授かったのだよ。この世界を支配するという命とともにな」

「ある方? 支配? そんなことのために貴様は戦いを生み出して、たくさんの命を無駄にしてきたというのか……!」


 ある方というのが何者なのかは分からないが、そいつが望んだからという理由であんなにも悲劇を生んできた。そんなことは許されるわけがない。許されていいはずがない。


「俺は、戦を始めたお前を殺せばもうあんな顔をする人を見なくて済むと思った。でも、お前の上にまだ誰かがいるのなら、俺はそいつもまとめて叩き潰す。争いのない平和な世の中を創り出すために――!」


 切っ先を向けてそう覚悟を告げる。

 そうだ。敵がどれだけいようと関係ない。どれだけ強かろうと関係ない。

 あの日から俺は変わると決めたんだ。人を殺す道具から、人を救える人間に。


「ならば来い、英雄。貴様の不完全な力では絶対に勝てんがな」

「――――はあぁぁぁっ!」


 俺は声を上げながら第六天魔王のもとへ走り出す。さっきの情報だけで見ると、奴の能力は不可視の力。見えざる盾や刃で戦闘する能力だと思われる。最大火力や効果範囲までは分からないが、俺と同じだと言っていることから、まだまだ力を隠している可能性が高い。

 その真の力を発揮される前に、俺の全力をもって仕留める――!


「一刀流・奥義……八岐大蛇ヤマタノオロチ――ッ!!」


 俺が現状で放てる最強の技――八岐大蛇ヤマタノオロチ。この場に来るために天井を破った技、龍翔と同じように『気』によって具現化された八体の龍頭が俺の斬撃に乗せて第六天魔王目掛けて牙を向ける。


 しかし、ふっと笑みを浮かべた第六天魔王は歩きながら三つを回避し、二つを剣で弾き、残りの三つは上げた左手で軽く止めて見せた。


「この程度なのか? 『鬼神』よ。貴様の力はこんなものではないだろう。さあ見せてみよ『鬼神』と呼ばれたその所以を」

「っ! 黙れ!」


 無理やりに手を振りほどき、今度は連続で攻撃を繰り出す。そのすべてはどれも必殺の一撃ではあるが、第六天魔王は余裕の表情で軽くかわして、あの見えざる力で俺の体を大きく飛ばした。


「ぐ……っ、くそっ」


 まさかこれほどまでに力の差があるとは思ってもみなかった。今まで多少なり苦戦することはあったものの、俺が劣勢に立たされることは一度もなかった。


 ……これは、本当に出し惜しみしてられないかもしれない。奴が言った俺が『鬼神』と呼ばれた所以。封印してきたその力を、忌々しい呪われた鬼の力を今こそ使わなければいけないのかもしれない。

 だが、罪の記憶が蘇りそれを許してはくれない。それだけは駄目だと心の奥底で拒絶していた。


「……ふむ、使う気はないか。ならばもう用はない――闇に飲まれよ」


 右手を前にしてそう言った瞬間、俺の周囲に黒い瘴気が発生し俺の体を飲み込んだ。


「――!?」

 

 動けない――ッ!

 瘴気が体にまとわりつき、重力が加算されたかのように重みが増し、身動きを取ることが出来なくなった。これも奴の力の一つだというのか。


「あの方から授かった、魔法という力だ。素晴らしいものだと思わないか?」


「うぐ……っ!」


 奴が掲げた手をさらに低くすると、俺にかかる圧力が数段増し、思わずうめき声をあげる。

 このままではさすがにまずい。何か、何か考えなくては。

 現状分かっている奴の力は、『不可視の攻守』と『魔法』という力。前者は見えないという驚異的な問題があるわけだが、空気の揺れや勘で何とか対処は出来る。後者は今現在身動きを取れない最大の要因となっているが、当たればすぐに効果が現れるとみていいだろう。

 そして両方に共通していることは、発動条件である言葉。どちらも言葉を発することによって発動しているということだけ。


 ……くっそ。これは、もう無理かもしれないな。


 現状の手札でこの闇を破壊する手段は無い。いや、厳密に言えば一つだけある。しかし、それは使えない。使ってはならないのだ。


「ぐ、ぁぁぁあああああ!」


 声を上げ、この闇から脱出するために全力で身もだえする。しかし、腕も上がらず足も動かない。

 そんな俺を見て片頬を吊り上げた第六天魔王が右手を振りかぶる。


「ふ……無駄なことを。今楽にしてやろう」


 おそらく不可視の刃だろう。あの床を抉った一撃、正面から防御もせずにまともに受けてしまえば、おそらく死はまぬがれない。そして俺は現状奴の魔法という力で動くことが出来ない。

 

 ……詰み、か。


 ここまで来るのは長く険しい道のりだった。俺の贖罪の旅、世界から争いをなくすために戦い続けてきたが、それも叶わず最も憎むべき相手の手によって俺は殺される。



 ――それでいいのか?


 

 半ばあきらめた俺に、頭の中に響くように声が聞こえた。最も嫌った『もう一人の俺』の声を。


 ――ここで死んでも、本当にいいのか? 『俺』の力でこんなものすぐに抜けられることくらい、お前にだってわかっているはずだろう?

 分かっている。分かっているけど、それはだけはだめだ。もう二度と『俺』の力は借りないと決めたんだ。

 ――そんなくだらないことにいつまで固執しているつもりだ。今奴を仕留めなければお前の望んだ世界は永久に訪れない。それでもいいというのか。

 それは……そうかもしれないが、奴は思ったよりも強かった。俺の力じゃ奴には通用しない。仕方のないことなんだ。

 ――殺された家族にそれで顔向けできるのか。平和な世界のために戦い、その結果がこれで『俺たちの家族』は納得してくれるのか。

 そ、それは……。

 ――一度しか言わない、『俺』の力を使え。それで奴を倒せ。


 『もう一人の俺』の力、それは俺が鬼神と呼ばれる所以になった、いわば憎むべき力だ。あの時から絶対に使ってはならないと自分を戒めてきた。しかし、奴を倒すためにはその力を使わなければならない。

 なんとも皮肉な話だ。

 全てを破壊する鬼の力が、世界を守るために必要になってしまうだなんて。


 …………分かった。もう一度だけ、力を貸してくれ『もう一人の俺』。

 ――待ってたぞ、その一言を。さあ、使え。『俺たち』の真の力を。




「死ね――!」

 

 腕を前に振り、俺に目掛けて不可視の刃を放つ。空間がゆがみ、その刃が俺の命を狩り取ろうというところで――。


 黒紫の瘴気を振り払い、左手に握った銀色の刀で不可視の刃を切り落とす。直後、俺の左右の床が弾ける。

 

「ほう……。ようやくその力を使う気になったか」


 第六天魔王の細めた目線の先には、赤黒いオーラを身にまとった俺の姿がある。これが俺の真の力――『鬼神』だ。


「……争いのない世界を作るために、今ここでお前を殺す――!」


 走り出し、距離を詰める。それと同時に第六天魔王は腕を横薙ぎに振り不可視の刃を複数放つ。俺はそのすべてを愛刀で弾き、それによって左右の床が小さく吹き飛ぶが、お構いなしに奴の下へ駆け、水平切りを放つ。 

 キィィンという音が鳴り響く。第六天魔王は闇のオーラを纏った刀でそれを受け止め、


「――黒死波動砲ダークネスバースト


 反撃と言わんばかりに左の手のひらをこちらに向ける。瞬時にそれは黒く輝き、漆黒の光線を放った。


「ちっ……!」


 まだこんな技を隠していたのか!

 上半身を後ろに倒しそれをギリギリのところで回避する。


「あれを避けるか」


 大きく後ろに飛びのき、再び距離を取る。半目で光線の当たった壁を見ると、俺が作った穴と大差ないくらいの大きさの穴があけられていた。

 あれに当たったらこの状態でも危ないと直感で察した俺は、勝負を決めるために技を出す態勢に入る。


「……一刀流・疾風神雷!」


 発動と同時に俺の体が光を帯びる。姿勢が低い状態で床を踏みしめ、雷のごとき速度で第六天魔王を一閃する。

 

「がっ!」

 

 血反吐を吐きその場にかがむ第六天魔王。反撃の余地を与えぬよう、今度は俺の纏うオーラを刀へと溜め、剣技をさらなる高みへと昇らせる。


「一刀流・紅龍連斬――!」

 

 刀身に集約した力を一気に開放し、振るった刀と共に紅の龍が第六天魔王を襲う。さっきの八岐大蛇よりもさらに強力な斬撃波で周囲の壁もろとも切り裂き、咆哮する。

 迫りくる龍の斬撃に膝をつく第六天魔王は防御すらできずに直撃した。衝撃音と共に煙が巻き起こる。


 鬼の力が上乗せされた俺の剣撃だ。さしものやつでもただでは済まないはずだ。しかし、確実に殺せたとも思えない。警戒だけは保っておこう。

 そう考え、刀を握る手に力を籠める。

 そして徐々に白煙が薄くなり――。

 床に背を付けたボロボロの第六天魔王の姿があった。


「……は、はは」


 倒れていながら、第六天魔王は急に笑い声を漏らした。


「何がおかしい!」


「は、貴様の力がこれほどまでに高いとは思わなかったのだよ。なればこそ、こちらも真の力を出さざるをえまいな」


「なん、だと……?」


 糾弾すると、奴は膝に手をつきすっと立ち上がり、崩れかけた足元から闇が立ち込めた。


「ああそうだ。あの方から頂いた力を最大限発揮させてもらおう――はあぁ!」


 危険を察し咄嗟に刀を前に防御の体制をとる。その勘は正しかったらしく、第六天魔王の咆哮とともに奴の足元から闇の波が発生し、急激な勢いで押し寄せてきた。


「まずい……! ――一刀流・月え……ぐあぁぁぁぁ!」


 防御系の剣技を使おうとするも間に合わず第六天魔王から発生した闇の濁流に飲み込まれた。


 く……そ……っ!


 体中がじわじわと崩壊していくのを感じる。このまま闇の中で動けずにいれば、確実に死ぬ。

 もう一人の俺の力。鬼の力は第六天魔王の使う闇と同種の物。その力を纏っているこの状態ですら奴の力によって体を蝕まれてるのだ。


 この状況をどうやって脱するか。

 この状態の俺でも身動きが出来ないほどの奴の闇。簡単にはいかないだろう。せめて月円さえ使えていればまだ何とかなったかもしれないが……。


 ――なら、この闇の力、お前のもんにすればいいじゃねえか


「!?」


 頭の中で反響したもう一人の自分の声が、俺が思いもよらなかった考えを俺に提案する。

 たしかにそんなことが出来るのならば、この状況を切り抜けられるかもしれない。だがそれはあまりにも無理な話だ。


 ――この力に逆らおうとするんじゃない。一体化するようなイメージだ

 一体化?

 ――ああそうだ。この闇は、俺の力と変わらない。俺の力を扱えているお前なら必ずうまくいくはずだ


「……わかったよ。やってやる」


 そうして、俺の体を蝕む闇の力に意識を集中させる。

 この闇は『鬼神』と同じすべてを破壊するための力だ。何もかもを飲み込み、思いのままに崩壊へと導く、暗黒の力。

 この力と一体化するのならば、同じく破壊の塊になればいい。ただ、無差別に破壊しつくす暴虐の化け物ではだめだ。俺は俺として奴と奴の上に立つものを破壊する、鬼にならなければならない。


「う……おぉぉぉぉぉぉ……!」


 周囲にある闇をすべて飲み込み、目の前に立つ憎き相手を倒すための糧にする。

 あいつを殺すという意思に呼応するように、俺の体に集まっていく闇の力。体に異物が入っていくような感覚が無性に気持ちが悪い。だが、たしかに俺の力となっているのが感覚でわかる。


「ハァァァァァッ!」


「まさか……闇を我が物とするとは」


 目の前に立つ黒衣の王が息を漏らす。

 体中から力がみなぎるこの感覚。鬼神の力に奴の闇の力を無理やり上乗せした力。今の俺にはあまりにも分不相応な力の強さで、いつ俺の体が壊れてもおかしくない。だが――。


「この、一撃で……終わらせる――ッ!」


 両手に強く握った愛刀鬼切丸を後ろに構え俺の持つ力の全てを込める。俺の戦いの初めから共に戦ってきた相棒に、渦を巻きながら集まっていく鬼神の力と闇の力。その似通っている二つの力を、さらに俺の放てる最強の剣技に上乗せさせる。


「凄まじい力の高まりだ。命を懸けたその一撃に我も全力で応えよう」


 奴を中心に闇の波動が嵐のように荒ぶる。俺と同じようにその力を奴の持つ漆黒の刀に乗せて最後の技を放つ構えを取る。

 ここで力尽きようとも構わない。奴を倒す、そうすればこの世界に一時とはいえ平和が訪れるんだ。


「うぉぉぉおぉぉ!!」


 鬼神化による圧倒的な武力と闇による破壊の力をすべて第六天魔王を倒すためだけに使う。いや、それだけじゃだめだ。俺の命も全部燃やし尽くしてそれでようやく奴を殺せる。


 もっとだ、もっと燃やせ。俺の全てを焼き尽くせ!


「喰らえ――! 炎魔・八岐大蛇――!」


 八体の龍に命の炎が纏われる。それによって一撃ごとの破壊力は増加する。そしてそのうちの一体を俺に宿らせる。

 残った七体の龍を引き連れて闇を発する第六天魔王へと駆ける。


「すべて飲み込んでくれる――!」


 そう言うと、奴の頭上に闇が収束し、俺の八岐大蛇に対抗したかのように闇色に塗られた巨大な龍が生成された。禍々しい瘴気を放つそれは奴の言った通りすべてを飲み込めそうな恐ろしさを秘めていた。


 しかし命を燃やして放った七体の龍も負けてはいない。奴の闇がすべてを飲み込むのだとしても、こっちは全てを焼き尽くせばいいのだ。


 紅蓮の龍は走る俺の前で一つになり、強大な火龍になって俺の刺突に乗せて奴の黒龍へぶつかった。

 闇が炎を飲み込み、炎が闇を燃やす。力の差はなくなり、完全に拮抗しているかに思えた。しかし――。

 

 鬼切丸の刃は肝心なところで止まって動かない。

 あと少し、ほんのわずかな力の差で奴の命には届かなかった。


 く……っ! とどけ……!

 

 空中で止まって動かない体を、刃をなんとかして動かそうともがき抗う。しかし、闇によって阻まれギリギリのところで届かない。


「命を燃やしてもなお我には届かぬ、か」

「いや、まだだ!」


 吠えるとともに鬼切丸に乗せた八岐大蛇の一つを解放する。


「なに!?」


 ゼロ距離で放たれる『炎魔・八岐大蛇・一龍』にさしもの第六天魔王と言えども防御できず正面からまともに喰らった。鬼切丸の銀色の刃を遮っていた闇もろとも第六天魔王を焼き尽くす。


「うおぉぉぉぉぉぉぉお!」

「く、ああああああああ!」

 

 奴もただでは死なぬと最後の抵抗を見せる。雄たけびとともに炎を切り裂き中から現れたのは奴の持つ黒い刀だ。

 攻撃しか考えていなかった俺は当然のごとく防ぐことも避けることもできず、奴の刀が胸に突き刺さった。

 こみあげてきた血を口から吐き出す。

 しかし、反撃されることなんて端から覚悟の上だ。ひるむこともなく、ただひたすらに奴の命を刈り取ることだけに集中した。


「うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 もう何度目かというくらいの雄たけびを上げ、左手に握った愛刀を、奴の胸元へ突き刺した。

 直後、闇の嵐は一瞬にして消え去り、同時に俺の剣技によって具現化されていた八岐大蛇も消滅していった。その場に残ったのは、互いの刀を心臓にさしている俺と第六天魔王だけだ。


「ぐ……ふ、まさか……我が負けるなど……」


 血反吐を吐きながら刀を抜くと、第六天魔王はその場に崩れ落ちた。戦った時は本当に手ごわかったのに、死ぬときは実にあっけなかった。


 ようやくだ。ようやく、この世界を混沌に陥れようとしていた邪悪を今ここで倒すことができた。俺も奴と同じように刀を引き抜く。


「こ、れで……平和が……」


 取り戻せる――というところで視界がぐらついた。胸元に手を当てると突き刺さった刀の傷口から、大量の血が流れ出ている。

 命がけの攻撃の反動もあり死は免れない。それは覚悟の上だったが、奴を裏で操っていたとされる『あの方』というのがどうしても気がかりだ。そいつがまだこの世界に魔の手を伸ばそうとしているのならそれは止めなければならないが、もう今の俺にはそれをする力がない。


 俺がもっと強くあれば。

 俺がもっと早くに気づけていれば。


 取り返しようのないくやしさが胸の底からこみあげてくる。

 しかし、もうどうしようもない。俺はじきに死ぬ。このあとの時代のことは、未来の人たちに託そう。


 そうして俺はゆっくりと瞼を閉じ、最後の戦いの場に力尽きた。


 十九年という短すぎる人生に今ここに幕を閉じた。




――――





「ここまで来るのに三千年もかかりました。でも……」


 真っ白で何もない無の空間の中。少女は一人、誰にも理解しえない喜びに満ち溢れていた。それこそ、瞳から涙が落ちてしまうほどに。


「やっと、やっと見つけましたよ――兄さん」


 震えるような声で少女は言葉をこぼした。






どうもです。今回初めて小説を書きます。


色々間違ってたり読みづらかったりしたらぜひ言ってください! キツイお言葉でも嬉しいです!


わりと主人公の圧倒的な力を見せられるように頑張るのでお楽しみに!

ブクマとかよろしくお願いします!

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