嘘
高速バスで暇だったので
人間は嘘をつく。
いい嘘に悪い嘘。嘘も方便なんて言ったりするが、そんなのは詭弁だ。
彼と知り合ったのは風が冷たい、ちょうど今日のような日だった。
数合わせで呼ばれた合コンの帰り道、誰とも連絡先を交換せず、そそくさと家路に着いた。一流大学でも一流企業でもない私に振り向く人など一人もいない。友達の誘いを断れないのもそろそろやめにしたいものだ。
「どうせ引き立て役だよ。」
道の石を蹴っ飛ばす。子供みたいな不貞腐れ方だなと自分でも思い「ふっ」と笑ったがすぐに我に帰りとぼとぼと歩いた。
道を歩いていると見慣れないお店に明かりがともっている。
「あんなところにお店あったっけな。」
ちょうど寒くなってきたし、お酒を飲み直したいので入ってみることにした。
中に入ると椅子が10個ほど置いてある小さい居酒屋のようだ。
季節に合わない半袖をきたおじさんがいらっしゃい!っと大声で挨拶をする。首から上だけで会釈し、できるだけ奥に座りメニューを見る。お客は私しかいないようだ。
「とりあえず生で」
そういった時お店にもう1人お客さんが入ってきた。身長は180cmぐらいはあるだろうか、細身で私と同じぐらいの男性だ。
「いらっしゃい、また来たのか」
「来ちゃいました。今日は客いるんすね」
「いいお世話だよ。とりあえず生だよな」
「お願いします」
どうやら常連らしい
「こんばんは、見ない顔だね」
「…」
話しかけて来ているが無視する。
「お姉さんに言ってるんだけど」
「あ、そうなんですか。」
「そんな綺麗なかっこしてんのになんで1人なの」
「どうでもいいでしょ、そっちこそ、その歳で居酒屋の常連なんて」
「そんな歳って、そこまでお姉さんと変わらないでしょ。」
「ナンパなら帰ってください」
「ごめんよ。ビール奢るから。大将それこっちにつけておいて」
馴れ馴れしいし距離が近い。女慣れしてる男だ。
「横行っていい?」
「勝手にするといいとおもいますよ」
「じゃ、お言葉に甘えて」
何が入ってるのか分からない大きな荷物を持って横に座る。
そこから2時間ぐらい喋った。
どうしてもとうるさいのでインスタだけ教えその日は家に帰った。
次の日から毎日DMが来た。今日何してんのーとか電話しようぜーとか、居酒屋で待ってる〜とか
不思議なことに連絡をするのはとても楽しく、ズルズルと連絡を取っていた。
連絡を取り合って2ヶ月がたった。仕事帰りに会えないかと居酒屋に呼び出された。「話がある」との事だ。
居酒屋にいるともう既に酔っている彼がいた。
「やっと来た…待ってたよ!」近いのにブンブンと手を振っている。
手を降ろさせ横に座る。
「話ってなに?」
「そう急かすなって、とりあえず飲めよ。俺につけて置いていいから。」
「う、うん。じゃあ生で」
この日話とやらを聞くことは無かった。なぜなら途中で彼が寝てしまったからだ。
大将は、あちゃ~と頭を抑えていた。どうやらすごいペースで飲んでいたらしい。
次の日電話がかかってきた
「昨日すまん、話しようとしたんだけど、どうも自信がなくて飲みすぎた。」
「それで??」
「付き合って貰えないかな」
「…うん」
「しゃああああ」
電話の奥でガッシャーンと何かが落ちる音がする。
「喜びすぎてコップ投げちゃった…」
「ふふっ」
「あはは」
こうして彼と付き合うことになった。すごく順調だった。
話は会うし、めんどくさい感じもしない。
映画を見れば私より先に泣くし、動物を見れば無邪気に触りに行く。虫に怖がったり、お酒に弱いくせに調子に乗って飲んで寝る。
嫌なことがあるとハイボール。嬉しいことがあるとビール。
女性に慣れてるのかなって思っていたが意外とウブでキスをするのにも1ヶ月かかった。本当に子供みたいで面白い人だった。
上手くいっていると思っていた。が別れは突然だった。連絡があまりこなくなったのだ。
「どうしたの?なんかあった?」
「忙しくて」
「時間作るからそっち行くよ」
「いや、いま実家だから」
会いたくないようにしか思えずこれ以上連絡するのも…と連絡をする頻度はかなり減った。
2日後「話がある」と連絡が来た。奇しくも付き合った時と同じ言葉だった。
いつもの居酒屋に行くと既に酔っている彼がいた。
「やっと来た…こっち」
大袈裟に手をこまねいている。
「…とりあえずのめって…たいしょぅ ハイボールください」
「飲みすぎじゃねぇか?」
「いいんですよ…」
やっぱり彼は寝てしまった。家まで送る途中、彼は「…ごめんな…ごめんな」と虚ろ虚ろ言っていた。正直寝てくれてほっとした気がした。話をしてしまうとフラれるからだ。ただ1日延長しただけだろうが彼の寝顔を横見れて嬉しかった。
次の日短くメールがきた。「ごめん。好きな人ができた別れよう」
たった七文字だった。
「うん」と短く返す。
何がいけなかったのか何もわからなかったが、あんだけ私のことを考えてくれる彼が決めたことだ。深く聞かない方がいいと思った。
1週間がたった頃、彼から荷物が届いた
荷物には「忘れ物だよ」とメッセージが着いていた。箱を開けると彼の家に置いていったマグカップや服なんかが入っていた。
「捨てていいのに…」
そう言いながら箱を閉じると差出人の欄に違和感を覚える
「愛媛県?」
なんと愛媛県からだったのだ。文字は名前の欄とは違うようだ。
わけもわからず何か知ってるんでは無いかと居酒屋に行く。
「大将、彼来てる?」
「あ、いや。あの酔いつぶれた日以来来てないな。ちょうど俺も心配してたところなんだ。お姉さん知らないのかい?」
「知らないの…わかったありがとう。」
彼は車販売の営業の仕事をしていた。会社に契約者のフリをして電話をしてみた
「ーーーさんいますか?」
「いえ、ーーーさんは今月付けで愛媛に転勤になりましたよ」
「…ありがとうございます。」
私は決心をし、その夜には飛行機に飛び乗り彼の元へ飛んでいた。
住所の場所に行くと1階がコンビニのアパートだった。
どうやらこのコンビニから送ったようだ。
そしてコンビニの中に彼がいた。そのまま会いに行かず、外から彼に電話をする。3秒くらいで慌てた様子で電話に出ている。
「もしもし…私だけど。荷物届いたよ」
「びっくりした…荷物届いたんだ。持っていけば良かったんだけど仕事忙しくて」
「持って来れないでしょ」
「ん?うん。仕事忙しくて?」
「違う。愛媛に転勤になったんでしょ」
「…なんで知ってんの。俺住所書いてないよね」
どもった感じで返答が来る驚いたようだ
「書いてあったよ。」
「あー、バイトの子が書いちゃったのかな…」
「外出て」
「え?」
「外出て、いいから」
「お、おう…なんでいるんだよ…」
スマホから耳を離し、こっちを見ながらそういう
「バカ…」
「ごめん」
「バカバカバカ…」
「転勤するなんて行ったらお前着いてこようとするじゃん…」
「バレるんだから隠すなよ」
「遠距離恋愛なんてさせたくなかったんだよ。」
「うるさい。好きにさせておいて勝手にいなくなるな。嫌われたかと…思って」
抑えきれず泣いてしまった。
とりあえず部屋に上がれよと部屋に案内されお茶を出される。詳しく聞くと1週間前に転勤を聞かされるらしい。
いつ帰って来れるか、いつまでこっちなのか分からないし、寂しい思いをさせるから、嘘をついて別れを告げたようだ。
来てくれたことが嬉しかったのか彼もないていた。
しまいには自分で別れを切り出したくせに「別れたくないよぉ」と泣きはじめた。ひとしきりお互い泣いた後遠距離でも付き合うことを決めた
「今度は俺が行くから。」
「うん」
「またね!!」
手をブンブン振っている。
お互い見えなくなるまで手を振って私は家に帰った
人間は嘘をつく。
いい嘘に悪い嘘。嘘も方便なんて言ったりするが、そんなのは詭弁だ。