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第98話。特別な真名をもつという黒鋼竜の子どもルシアンを追い、彼にナギが知っていたその真名を告げる鞠絵。果たして彼の反応は…?

第98話です。

 私は廊下を歩いていくルシアンに声をかけた。

「ルシアン、待って。あなたに話があるの」

「はい?なんでしょう、聖銀様」

 答えた声は男の子のものだった。他の黒鋼竜たちより低くて小さいけれどすらりとした背丈は美しく、振り返る動作に肩までかかる漆黒の髪がさらりと流れた。

 前髪のかかったオニキスの瞳が私をじっと見上げて、廊下の窓から漏れる月明りに輝いた。

 白皙の頬はまだ子どもらしい丸みを帯びていて、触れたら柔らかそうに見える。

 私の中で、彼を見たナギが自信をもって声を上げた。

 それはひとつの名だった。


『リュシエンヌ』


 そう、それが彼の本当の名前なのね?

 私はルシアンに向かって静かに声をかけた。

「あなたの真名は、リュシエンヌね?」

「…!」

 時が、止まった。

 あたたかいはずのおばば様の館の廊下に、冷やりとした空気が立ち込める。

 それは顔をなぜるように通り過ぎていって、ふと気づくとルシアンがほろほろと、オニキス色をした両眼から透明なしずくをこぼしていた。

「リュシエンヌ」

「ああ…ああ!」

 最初は低く、次は高く。

 ルシアンが吠えるように叫ぶ。

「ああ…ヴァレリア様。ヴァレリア様が待っていらっしゃる…行かなきゃ…お迎えに行かなければ…!」

「ルシアン?」

 様子が変だ。大丈夫かしら?

「行かなきゃ…!」

「ちょっと待って、どこに行くというの?」

「止めないで、約束したんだ…!ヴァレリア様に誓ったんだ。起きる時にはお傍にいるって…!」

 いけない、記憶が混乱しているんだわ。

 それに、ヴァレリア様が起きる時?ということは今は眠っているってこと?

 つまり予言にあった、ナギが起こすという神金竜はヴァレリア様のことなのかしら。

 私はとにかくルシアンの意識をこちらにむかせようとこう言った。

「ヴァレリア様はまだ眠っていて、起きてはいないわ、リュシエンヌ。だから行かなくて大丈夫。落ち着いて、私を見て、ゆっくり息をして」

 そしてルシアンの両肩を掴んで自分のほうに向かせ、軽く揺さぶる。

「起きては…いらっしゃらない?」

 神金竜はまだ目覚めてはいないのだから、嘘ではないわよね。

「そうよ、まだよ。今はあなたの話が聞きたいの、こちらに戻ってきてちょうだい、ルシアン」

「…ルシアン…」

 ぼうやりと遠くを見ていた彼の黒い瞳に焦点が戻ってきて、ようやっと私を見た。

 数回まばたきをするうちにその視点はしっかりしてきて、深く息を吸い込んで吐いて、やがて小さな声で呟いた。

「私は…とうとう…とうとう本当の名を知ることができた…!聖銀様、ようやく…ああそうです、それが私の本当の名前です…!私自身さえ知らなかった真名です…!」

「それは本当なの?どうしてわかるの?」

「私の魂がそう叫んでいるからです。ああ…」

 ルシアンは私の前に膝まづき、叫び声を上げた。彼の肩に手を置いていた私も、彼の前に膝をつく。

 ルシアンの泣き声が、私の胸を突いた。(続く)

第98話までお読みいただき、ありがとうございます。

とうとう真名を知ることのできたルシアンは…。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

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