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第97話。黒鋼竜の中、たった一人だけ子どもらしきルシアン。彼には隠された真名があるといい、ナギがそれを知っているという。声をかけようと後を追う鞠絵だが…?

第97話です。

「あの子は…」

 昨日も見た、黒鋼竜の子ども?

 大人たちに混じってたった一人だけ、子どもらしき人がいる。

「おばば様、あの子は…」

 目を離さないまま隣の席のおばば様に問いかけてみると、ああ、と応えがあった。

「ルシアンですか?ああ見えてもう百歳ですから、酒は飲んでおりますよ」

「そうではなくて…え、百歳?」

 もうそんな年というべきなのか、まだそんな年というべきなのか。千年といわれる神竜の寿命からすれば十分の一だから、まだ子どもじゃないのかなあ。

 お酒…いいのかなあ…。

 私が首をひねっていると、おばば様がつづけて説明してくれた。

「あの子は神金様にお仕えしていた一族の末裔です。母親はその一族の最後の一頭で、我が息子が見つけ出しましてな。しかしながら、嫁に迎えるにはずいぶん苦労したようでしてのう」

 へえ。じゃああの子はおばば様の孫というわけね。

 心なしかおばば様の声が得意げに聞こえるわ。

 私は微笑んで、語り続けるおばば様にうんうんと頷いた。

「聖銀様にお仕えする我ら一族のもとへ嫁に来た母親ルシールから産まれたあの子は、つまり両親ともに黒鋼竜の最後の一頭なのでございます。我が末息子が真竜との見合いをいやがって出奔してしまいましてな。しかし数年後に、ルシアンの母親ルシールを連れて戻ってきたのです」

 まあ、そうだったのね。

 おばば様はちびりと酒を口にしながら、しかし…と続けた。

「あの子には真名があるはずなのですが、それがわからないのです」

「真名、ですか?」

 わあ、漫画みたい。カッコいい。

「はい。ルシールの家系は神金様に仕えていた記憶を保持しておりましてな」

 えっ?

「子どもには記憶と共に先祖の名を真名としてつけ、それを呼ばれれば先祖の記憶が戻るようになっておるのです。しかしあまりに幼いうちに記憶が戻ると負担となるため、百歳の誕生日にその名を呼ぶ習わしがありました。しかし、私にそう説明してくれたルシールは数十年前に病をえて他界してしまい、父親にすら真名を教えていなかったため、誰も…あの子自身ですら、真名を知る者がいないのです」

 それじゃあ、神金竜についての記憶は封じられたままになってしまったのね。

 というか…ついカッコいいとか思ってしまったけど、自分の本当の名前がわからないなんて…かわいそうだなあ。

 その時ルシアンが席を立ち、廊下へと出て行った。私の中でナギが声を上げる。

『後を追え、マ・リエ』

 えっ?どうして?

『あれは我の知る者の末裔かもしれぬ。だとしたら、我はあの者の真名を知っている』

 それは本当?

 私はあわてて立ちあがり、おばば様と反対隣のタニアにちょっと席を外します、と断ってルシアンの後を追った。タニアはついてきたがったが、少し一人にさせてと言ったら頷いてくれた。

 ルシアン、待って。

 ナギの声が私の中で響く。

『我は創世の神金竜、ヴァレリアと一時期行動を共にしていたことがある』

 えっヴァレリアって、おばば様の話にあったあの神金竜になった人のこと?

『うむ、そうだ。その時確かに、黒鋼竜の一族がヴァレリアを守っていた。そしてヴァレリアはその中でも最も彼女に近しい黒鋼竜を呼んでいた名がある』

 そうか、それならもしかして。

 でも違っていたら?

『我はその時共にいた黒鋼竜の何頭かの名を覚えている。どれかが当たるかもしれぬ。しかしあの者は見覚えがあるのだ…きっと、間違いはないだろう』

 それならいいんだけど。(続く)

第97話までお読みいただき、ありがとうございます。

ルシアンの真名を知ることで、一体何が起きるのでしょうか。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

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