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第96話。まるで日本の温泉旅館の宴会場のような部屋で、聖銀竜の帰還を祝って乾杯する鞠絵たち。食べ放題にあったメニューはすき焼きや肉じゃがなどに酷似していて…?

第96話です。

「あっ、あの中央の席が姫様のお席ですね!ささ姫様、あちらへ行きましょう。美味しそうなごはんがたくさんですよ~」

「た、タニア、あのちょっと」

「大丈夫ですって!ほら、皆待ってます。姫様がお席につかなければ、皆も食べ始められないですよ?」

「わ、わかったわ、行くからそんなに引っ張らないで。サラも来て」

「ええ」

 宴会場は床にカーペットが敷き詰められ、靴を脱いでその上に座るスタイルのようだった。まるで日本の温泉旅館の宴会場みたい。畳じゃなくてカーペットだけれど。

 食べ放題なのかな。料理が中央の低いテーブルの上にずらりと並べられていて、それを囲む各々の席にはどう見ても座布団が敷かれ、一人ずつテーブルが置かれてお皿やグラスが並んでいる。

 これに取り分けろ、ということのようだ。

 私が恥ずかしながら中央の席に座ると、ささっと女性たちが皆のテーブルを回って、飲み物を注いでまわった。私とサラに注がれたのは真っ赤で美味しそうな果物の匂いのするジュースだったが、その他の人たちにはお酒が注がれていたようで、ルイがちょっと困惑した様子でグラスを手に取る。

 隣に座ったおばば様が、お酒の入ったグラスを手に立ち上がって言った。

「それでは、聖銀様のご帰還を祝って、乾杯!」

「乾杯!」

 えっそんなところも元いた世界みたいなんですけど。

 全員がグラスを掲げて叫んだので、私も遅ればせながらジュースの入ったグラスを同じようにした。するとわっと歓声が上がって、中央の料理を囲んで座った人々が、周囲の者たちとグラスをカチン、と合わせてぐいとあおる。

 それを真似てお酒をあおったルイが咳き込み、隣のダグに背中をさすられていた。

 私は隣のおばば様と、反対隣に座ったタニアとグラスを合わせて、中のジュースを飲む。

 あ、美味しい。すっきりしててクランベリージュースみたい。

「姫様、料理をとってきましょうよ!」

 タニアに促されて、お皿を手に座卓の中央の料理を取りに行くと、いい匂いに私のおなかがぐう、とはしたない音をたてた。タニアはちらりと私を見てにっこり笑ったが、腹の虫については聞かなかったことにしてくれたみたいだ。

 そんなところが大人だなあ。ありがとう、タニア。

 さて…と料理の数々を見て、私は昨晩に続き仰天した。

 こっ…これは…肉じゃがじゃない?

 それにこっちの鍋の中身は、どう見てもすき焼きなんですけど。

「聖銀様、スキ・ヤーキはいかがですか?こちらのお椀にとりわけますね。とても美味しいのですよ、ぜひご賞味を」

 わ…わかってます。美味しいのは。

 そうよね、ユニコーンの里で砂糖があることはわかってた。だから醤油があるってことは、肉じゃがもすき焼きもできるってことよね。

 うわあ…泣きそう。

 別の世界にやってきて、ここの料理も素朴で美味しいと思っていたけれど、二度と食べられないと思っていた料理がまた食べられるだなんて感動だ。

 私は昨晩に引き続き涙腺が緩んできそうなのをぐっとこらえて、すき焼きを…スキ・ヤーキを取り分けてもらい、どう見ても肉じゃがとふっくら焼き上がってる焼き魚と醤油ソースだというステーキと卵焼きをお皿に取って、自分の席に戻った。

 そしてようやく食べてみたけれど、スキ・ヤーキと肉いも煮は私が知っているすき焼きと肉じゃがと比べると、何だか少しばかり味が物足りない気がした。

 なんだろう…やっぱりみりんと調理酒かな?

 すき焼きは少し味が薄い。

 肉じゃがは、ジャガイモに似てはいるけど違う食材のせいかも。

 米っぽいものがあるってことは、日本酒に似たお酒もあると考えていいだろうけど、やっぱりそれを調理用には使っていないのね。

 皆が飲んでいるお酒は透明で、日本酒に見えるんだけどな。

 今度、ここの厨房ですき焼きと肉じゃがを作らせてもらおうかな。

 そんなことを考えながら会場を見渡した私は、席の端っこに小さな影を見つけた。(続く)

第96話までお読みいただき、ありがとうございます。

小さな影は誰でしょうか。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

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