第92話。ミンティが鞠絵に差し出したものは、ビカビカにデコられたひとつの小箱だったが…?
第92話です。
それを見送ったラナクリフ様が、背中にしょった大きなリュックをよいしょと下ろし、その中から取り出したものは。
「聖銀ちゃん、これ」
「わ、わあ…」
それはビッカビカにデコられた、両手で捧げ持てるくらいの大きさの小箱だった。この世界にもデコレーションってあるんだ。
たくさんの大小の宝石で飾りつけられた小箱は見るだけで目に痛いくらいだったが、手に取るとずっしりと重みもあって、つけられた宝石が本物であることが知れた。
こ、怖。手に持っているのが怖い。落としたらとか思うだけで怖い。
「あ、あの、ラナクリフ様」
「ミンティちゃんって呼んでってば~!」
「あ、はい、み、ミンティ…」
「うん」
「さま」
「ちがーう!!」
「はっはい!み、ミンティ」
「うん」
「ちゃ…ちゃ、ん」
「よくできましたー!」
疲れる。
この方、本当は一体何歳でいらっしゃるのか。
まさか、真竜の長の中で最年長とか言わないわよね…。
私はこの時思ったことが真実であるとは露にも思わずに…否思いたくなくて、上げた唇の端をひくひくと引き攣らせた。
「み、ミンティさ…ちゃん、こ、これは…?」
「それはね、風竜の長に代々伝わっている小箱なの!デコったのはミンティちゃんなんだけどね!」
あ、やっぱり。
ということは、あなたがデコるまではこれは普通の小箱だったんですね?
ご先祖様がご覧になったらどう思われることか…。
「いつか帰られる聖銀様にお渡しするようにって、代々受け継がれてきたものなんだよ。だからそれは聖銀様のもの。どうぞ受け取って?」
「中身はなんなんですか?」
「それは」
ラナクリフ様は右手の人差し指を可憐な唇に当て、くりっと首を傾けて体をひねった。
「伝えられてないの。だから今ここで開けてみて?ミンティちゃんも見たいから~」
スーリエ様が身を乗り出して、ピカピカにデコられた小箱を覗き込む。
「ほう、それが風殿に伝えられているという宝か」
リヴェレッタ様は首を傾げる。
「おれんところには伝えられてねえなあ。光殿のところにはあるか?」
「いや、我が地にもない。風殿のところだけに、何故伝わっているのだろうか」
うーむと腕を組む二人に、しかしラナクリフ様はきゃぴりんと明るく言った。
「え?ほかにも持ってる長いるよ?明日までには皆揃うだろうから、そしたら持ってくるんじゃないかな?」
「ええ!?そ、そうなのか!?」
だったら何故光竜と炎竜のところには伝わっていないのだろうか。余計深まった謎をよそに、私はずっしりした小箱をおそるおそるテーブルに置いて、そのふたに指をかけた。
いずれ還る聖銀竜へと残された、おそらくは創世の頃から代々伝えられてきたというもの。
今はデコられた小箱の中に入ってはいるが、その中身とは一体。(続く)
第92話までお読みいただき、ありがとうございます。
小箱の中身とはいったい、何なのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




