第90話。ナギの記憶から夢をみる鞠絵。翌日ミンティと名乗る美少女が訪ねてきて、一方的に撫でくりまわされる鞠絵だが…?
第90話です。
その日の夜、私はひとつの夢を見た。
限りなく美しい草原や森林が広がる大自然の中、それらを見渡す小高い丘の上に立つ大きな木の下で、白銀色をした長い髪のすらりとした女性と、青銀色の短い髪をした小さな男の子が、手を繋いで立っている。
こちらに背を向けているせいか、二人の会話は全く聞き取れなかったが、やがて女性がこちらを向いて男の子の前にしゃがみこみ、小さな体をそっと抱き締めた。
その時の言葉だけは、私にもはっきりと聞き取れた。
『愛しているわ、私の小さなナギ。可愛い弟』
ああ、これはナギの記憶なんだ。昼間のナユとの出会いで刺激された彼の記憶を、私も一緒に見ているんだ。
二人がヒト型になっているのか、それとも私が人間だからヒト型として二人を見ているのか。
抱き締められた小さな男の子…ナギは、背伸びをして女性…ナユの首に手を回し、ぎゅうと抱き返してその耳に囁いた。
「ぼくもだぁいすき…あねうえ」
大きな木が二人を祝福するかのように立派な枝を揺らし、駆け抜けた風が二人の髪や服を舞い上げていった。
その風はあたたかく、花々のかぐわしい薫りがした。
翌日また私たちは談笑しながら和風の朝ごはんをいただいた。少し期待していた海苔はさすがになかったが、昨晩とは別の魚の干物と、くるくる巻いてはいないけど畳まれた卵焼きがあって、お漬物も美味しかった。
そこへ突然ドアをバーンと開けて、飛び込んできた人は。
「はぁい!ミンティちゃんだよ!どの人が聖銀様なのかなっ?」
「え」
薄い緑色のふわふわした短髪を揺らして入室してきた人は、明るい声でそう叫び、こちらをぐるりと見回してその視点をぴたりと私に向けた。
「あ、あの」
「あなたが聖銀様ね!う~ん、思ってたよりずっと可愛いじゃな~い!すごい!うん!いい!」
い…いい…とは?
それにこの人、すごい美少女なんですけど。小柄でこの世界での私と同じくらいの年齢に見える。こんな人が黒鋼竜の領域にいたなんて、全然知らなかったんですけど?
すると美少女は細い両腕をぱっと私に向けて広げて、あろうことかこう叫んだ。
「ハグしていい?ぎゅってしていい?可愛い聖銀ちゃん!」
あ、様からちゃんに変わってる。
「可愛いとは聞いていたけど、思ってたよりずっと小さくて美人で可憐で清楚で素敵っ!うーん、ぎゅー!」
「あ、あわわわわわわわ」
初めて会う美少女にいきなり駆け寄られ抱き締められて、私は目を白黒させた。なに、何が起こってるの?
「いやーん、聖銀ちゃん、ちっちゃくて可愛い!柔らかくて気持ちいい~ほおら、撫で撫で~!」
美少女の華奢な手が、私の頭や頬や肩や背中を撫でまくる。
ふわっふわな髪の毛が、私の頬をくすぐる。
私は突然のことに、自分の身に何が起こったか分からず、呼吸をすることも忘れて固まった。
「こ、こら、勝手に姫様を撫でくりまわさないで!」
タニアがあわてて駆け寄ってくる。
「あの、は、離してください!?」
ようやく我に返った私が叫べば、サラが私から彼女を引き離そうと手をかけた。
「ちょっと、あなた誰!?マ・リエから離れなさい!」
ルイも触れないながらおろおろと後ろから声をかけてくる。
「あの、すまないがいったんマ・リエから離れてくれないか」
タニアはサラとは反対側から、私にくっついている美少女を引っ張る。ダグはルイのさらに後ろから、女性二人に手をかけるわけにもいかず困っていた。
わあ、この人からすごくいい香りがするんだけど。
短くてウェーブのかかっている薄緑色の髪が顔に当たるたびに、そのやわらかさに胸がどきどきしてしまう。
タニアに抱き着かれたときとは違って、当たる胸は小さい。やっぱりこの人は若いんだろうな。でも人間と違って長命の竜とかだったらわからないけれど…え、もしかして。
サラとタニアが両方から引っ張ってもビクともしない力といい、これは見かけ通りの年齢の人じゃないのかもしれない。(続く)
第90話までお読みいただき、ありがとうございます。
ミンティちゃんとはいったい何者なのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




