第87話。用意された食事を食べる鞠絵。それは懐かしい白米や味噌汁に酷似していて、そのほかにも…?
第87話です。
「さあ聖銀様、今ふっくら炊いたゴ・ハヌとミソーヌ汁をよそいますから。お好きなだけ、召し上がってくださいね」
ええええええ。
変な汗をだらだらかいて彼女の後姿をガン見した私は、かぱっと開けられた釜の中身を女性がお椀によそい、ミソーヌ汁とやらと一緒に持ってきてくれるのを、案内された席に座ったまま固まって待っているしかできなかった。
だって…だって…いやいや白いごはんですよこれ!
それにこっちはかぐわしい味噌と出汁の匂いがお椀から立ち昇っていて、中身的に豚汁っぽいんですけど!
どっくん、どっくん、どっくん。
心臓の音がやけに大きく聞こえる。ナユのタマゴに名前をつけた時だって、こんなに緊張してなかった気がする。
ふるえる手でフォークを掴み…残念ながらお箸はなかった…まずはゴ・ハヌという、ピカピカふかふかに炊きあがった白い粒々の塊をすくって口に入れた。
もぐもぐ。
もぐもぐもぐ。
もぐもぐもぐもぐ。
ごっくん。
「あー…」
神さま。
これはごはんです。白メシです。少しだけ私が知っているお米より粒が小さめな気がするけど、芯も残ってないしふっくらしていて美味しいごはんです。
ということは…と、いうことは、ですよ。
こちらも期待してしまいますよね?
「ふわあ…いい匂い…」
とても懐かしい匂いだ。
最後に嗅いだのはいつだったろう。
お味噌と、出汁の匂い。
私はミソーヌ汁のお椀を取り上げて肺いっぱいにその匂いを吸い込み、期待をこめて一口すすった。
そして、もう一口。
それから具材もかきこんで。
「おみそしる、だあ…」
私の目から熱いものがあふれて頬を伝い、ぱたぱた、と膝に落ちた。
「ひっく、ひっく…白いごはんとおみそしる…おいしい、おいしい…」
泣きながら夢中で食べる私に驚いたタニアとサラが、布を手に両脇から涙をぬぐってくれたが、涙はなかなか止まらなかった。
だって、だって。
醤油があるっていうことは大豆があって、味噌だってある可能性はあったけれど、こんなに美味しいお味噌汁と、ふわふわのごはんを食べることができたなんて。
うれしい。
嬉しくて、涙が止まらないよ。
「大丈夫マ・リエ?そんなにおなかすいてたの?」
サラが心配そうにのぞき込んでくるのに首を振って、私は涙をぬぐった。
「ううん、私の故郷の味に近いから、懐かしくて嬉しくて、つい」
「まあそうだったのですか!それは良うございました。ささ、それじゃ他のものも食べてみましょう、姫様!」
タニアはそれ以上は何も聞かず、私の気を引き立てるように促してくれた。
頷いた私は改めて、目の前のテーブルに用意された御膳に並べられたおかずに手を付ける。それは私にはとても懐かしい、和風の味付けをしていた。
メインは干した魚を焼いたもので、それに醤油…いえショユをかけた大根おろしによく似たものをつけて食べるようだ。
これってどう見ても干物よね?懐かしくて、美味しい。
それから根菜の煮物。でもこちらは少し何かが物足りないような、薄味な気がした。
今までずっと一人で自炊してきたので、何の味が足りないのかは少しわかる。これはみりんとか調理酒とかが入っていない…とかっぽいな。
そっか、みりんはないのかあ。お酒はあるだろうけど、料理に入れるって発想はないのかしら。少量入れれば美味しいのに。
あとは見覚えのない料理が数品、小鉢に入れられて並んでいたが、そのどれもが優しい和風の味付けで、また涙が出そうになってしまった。
ああ、こんな嬉しいことはないわ。
今度厨房に立たせてもらって、ここにある食材と調味料を使って自分で料理してみたい。
じんわりした後はわくわくしながら食事を頂いて、食べ終わった私たちは部屋で一休みしてからお風呂に向かった。(続く)
第87話までお読みいただき、ありがとうございます。
鞠絵さん、美味しいごはんが食べられて良かったですね。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




