第85話。世界のほころびについて話しているとき、また遠くから声がすると思う鞠絵。その声とは…。また、おばばと今後について話す。
第85話です。
「それが証拠に、生命のほとんどいない砂漠や雪原、空の高いところなどには、ほころびが生じたことはないのです。我らはほころびの別名として、魂食いと呼んでいたこともありました」
それでは炎竜の領地で、火口の中にほころびがあったのは、火口には生命はいないけれどその周辺に街があったからなのね。
そこまで考えた時だった。
『たす…、て…、…ねが…』
私はルイに背後から抱き締められながら、ふと顔を上げた。
また何か遠くから声がした気がしたのだ。
「どうした、マ・リエ?」
あわわ、ルイ、耳元でしゃべらないで。くすぐったいし微妙な気持ちになるわ。
「声が…また声がした気がしたの」
「また?」
「声、だって?」
「ええ、目が覚めてすぐの時にも聞こえた気がしたのだけど…今もまた」
タニアが首を傾げ、何かを聞こうとする素振りを見せる。サラも同じようにしたが、二人とも首を振った。
「何も聞こえないわ」
「そうですね。姫様の気のせいでは?」
そうかもしれない。でも…妙に、心に引っかかるの。
「外の風の音かもしれませぬな。今日は風が強うございますから」
おばば様がそう微笑むので、私はぷるぷると首を左右に振って気を取り直し、話を戻した。
そうよね、今はほかのことに気を取られてる場合じゃなかったわ。
「では今この時点でわかっているほころびの地点と危険度を知りたいです。地図か何かあれば、それに書き込んでいただけませんか?」
「地図ならございますよ。すぐに用意いたしましょう」
「ありがとうございます。ナギが動けるようになったらすぐに、行動を開始したいので…よろしくお願いします」
それから、もう一つ。
「おばば様が教えてくださった予言では神金竜を起こすという言葉がありましたが、神金竜について何か情報はありませんか?」
するとおばば様は少し言いづらそうに眉をしかめた。
「我らは聖銀様にお仕えしておりましたから、神金様に関する情報はあまり…。少し前まで、神金様にお仕えしていた一族の末裔の一人がこの地に住んでおりましたが、何も告げずに亡くなってしまいましたので…」
「そうですか…それは残念です」
じゃあ神金竜に関しては、これから自分たちで探していくしかないわね。
でもその人がいてくれたら…と思わずにはいられない。亡くなってしまったのなら仕方がないけれど。
何か、手がかりはないものだろうか。
あと、それから。
私は姿勢を正した。
「今後のことに関して、ですが。ナギとも話し合ったのですが、先程もお話したようにナギが回復したらすぐにでも動けるようにしておきたいんです。でも私たちはほころびの状態や、どのくらいほころびがあるかなど、この世界の状態がよくわかっていないので、黒鋼竜ならば知っているのではないかと思ってここに来ました。おばば様がご存知ならば、どうか御力をお借りしたいのです」
私は頭を下げた。
「本当は、お会いしたときにすぐに、そういう話をしなければならなかったのですが…すみません」
おばば様は笑って首を横に振った。
「いえいえ、あの時は我らの都合で聖銀様を振り回してしまいました。私を治していただいたり、タマゴを見ていただいたり、こちらこそ勝手に連れ回してしまいまして、申し訳ございませんでした」
そうして私と同じように頭を下げるのに、私はあわてた。(続く)
第85話までお読みいただき、ありがとうございます。
本当に、鞠絵さんの気のせいなのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




