第81話、ヘレナに着替えをするなら体を拭こうと言われ、それならと背中を拭いてもらいながら彼女と話をする鞠絵。着替えを人に手伝ってもらうことが気持ちいいと思う。
第81話です。
「さあ聖銀様。お着替えするならお体を拭きましょうね。私がお手伝いいたします」
えっ、それは…ちょっと…恥ずかしいので…。
私は両手を彼女に向かっていえいえと振ってみせて、笑顔を浮かべながら辞退した。
「ありがとうございます。でも自分でできますから…」
「まあ、聖銀様はお恥ずかしがりやでいらっしゃるのですね。では髪を梳いてお背中だけでも」
どうして皆、私の体を拭きたがるの。
「ささ、お背中だけでも」
言い募られて、私はとうとう頷くこととなった。
「わ…わかりました。ありがとうございます、背中は助かります」
「まあ、頬がピンク色になってお美しいこと」
「えっ」
「本当に。こんなにお美しくて華奢な方が聖銀様だなんて、驚くばかりです」
肩よりも長い髪をまとめて頭の上で留めてもらい、背中を向けた私が自分で胸や腹、腕を拭く間に、もう一枚のタオルで背中を拭くヘレナ様がそう溜め息をついた。
すると、もう一人の真竜の女性も頭を下げる。
「聞きましたよ。お倒れになるほど、私たちのタマゴに力を注いでくださったのですね。本当に…ありがとうございます」
「あっ、いいえ。倒れたのは私が不甲斐なかっただけですから、気にしないでください」
それよりも、人に拭いてもらってる背中と首の後ろがほんとに気持ちいい。
ヘレナ様が驚いたように、私の背を拭いている手を止めた。
「えっそうだったのですね。では私の体調がよくなったのは、もしかしたら聖銀様の御力が私のおなかのタマゴにも届いたからでしょうか」
「そうかもしれないですね」
「そうでしたか…それは…ありがとうございます。何と感謝申し上げたらよいか…」
「いいんですよ。私は私にできることをしただけですから。それに私がしたことが本当になるかどうか、今この時点ではわからないのですし」
「聖銀様がなさったこと?」
私は黒鋼竜のタマゴにしたことをヘレナ様に話した。ヘレナ様はそれはもう驚いていたが、やがてひとつ息を吐いて私の背をまた拭き始める。
「本当に…我らは聖銀様にはお世話になってばかりですね。せめて、少しだけでもお世話することで返させてください」
「こちらこそ、ありがとうございます。拭いてもらってとても気持ちいいです」
着替えが終わると、服を持ってきてくれたほうの女性が髪を梳いてくれた。
この世界に来てから何度も思ったけれど、人に世話をやいてもらうのって…本当に気持ちがいいんだなあ。
自分のことは自分でしかしたことなくて、それどころかお母さんの世話をしなくちゃいけなくて、知らなかった。
「ふふ、聖銀様。心地よいですか?」
「えっ、は、はいっ」
「うふふ。本当に、可愛らしい方ですこと」
「そっ、そんなことは」
「あります。はい、これで良いですよ」
「あっ、ありがとうございます」
座っていた椅子からあわてて立ち上がってぺこりと頭を下げると、ヘレナ様たちは満足そうににっこり笑ってくれた。
着替えた服のポケットにナユのウロコを移すと、女性が言った。
「それでは、ご案内いたします。皆さん、ちょうどおばば様とお話していらっしゃるところですよ」
私は頷き、ヘレナ様たちについて、皆のいるという大きめの部屋に連れていってもらった。
ちょうどよかった。私もおばば様に聞きたいことがあったのよね。(続く)
第81話までお読みいただき、ありがとうございます。
鞠絵さんがおばば様に聞きたいこととはなんでしょう。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




