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第8話。豚の背脂からとった脂でミシャと一緒にトンカツを作る鞠絵。

第8話です。

 帰ってみたらサラとシルが、彼女たちが作ったというスープと焼いた豚、それにお裾分けした天ぷらも持ってやってきてくれたので、三人で夕食を摂った。

「まあ、これは美味しいわね!カラッとしてるし甘味が強くなってるわ!このつゆにつけて食べると更に美味しい。これについているのはなに?」

「卵を水でといて、小麦粉を混ぜたものよ。天ぷらの衣」

「まあ。食材は柔らかいのに衣はサックリしていて歯ごたえがいいし、特にカボチャがすごく甘くて…こんなの食べたことないわ」

「良かった。多くの油がないとできないから、今回みたいなことがなければ作れないけど」

「そうなのね。あとで作り方を教えてくれる?メモしておきたいわ」

「いいですよ」

 帰ったら一人で夕ご飯だ、と思っていたけれど、思いがけず二人がやってきてくれて楽しい夕餉になって嬉しい。

 三人で談笑しながら夕餉を済ませた後には、二人が片づけも手伝ってくれたから楽ちんだった。

「ご馳走さま、マ・リエ」

「ご馳走さま」

「こちらこそ、楽しかったわ。ありがとう」

 二人が帰っても、楽しい余韻は残っている。

 お母さん。

 大丈夫。私、この世界でもやっていけそうよ。

 私は二人を見送って閉めたドアに額をつけてふふふ、と微笑み、質素な作りのダイニングを振り返った。

 ここだって、前の世界で住んでいた安いアパートと変わらないじゃない。日本と違って靴を脱がない、っていうくらいで、むしろ住み心地は今のほうがいいかもしれない。

 でもお母さんの御位牌と仏壇は…どうなっただろうと思うと胸が痛む。もうどうしようもないことだけれど。

 御位牌が近くになくても、お母さんは私の胸の中にいつまでもいてくれるよね。

 小学生の頃からお母さんが教えてくれた料理が今、役に立ってくれてるよ。

 お母さんが色々生活のことを教えてくれていなかったら、お母さんが入院していた十年の間も大変だったろうし、今だって何ひとつできない只のよそ者として、ずっと誰かの世話になるしかなかっただろう。 

 本当に、ありがとう。お母さん。

「さて、寝る前に少し仕事をしますか」

 もちろん電気なんて通っていないから、周囲を照らすのは獣脂を使ったランプかと思いきや、魔法の力を籠めた魔石を入れたランプで、これが驚くほど明るい。暗くなってきたら村の魔法師にお金を払えばまた魔法を籠めてくれるが、なかなかに長いこともつのだ。

 和室でいえば台所部分を除いて六畳程度のリビングダイニングも、二つも使えば隅々まで照らしてくれる。

 そのうちの一つを手元に持ってきて、私は毛糸と編み棒を取り出した。サラのところから毛糸をもらってきて、編み物の仕事をすることにしたのだ。今のところはあれもこれも頂いてくるしかない私だが、いずれはお金を貯めてお世話になった皆さんに返したい。

 毛糸を編み棒で編む方法はこちらにもあって、出来上がったものは商品として売れると聞いたので、申し出てやらせてもらうことにしたのだ。

 これも頂いた紙に鉛筆でデザインを描き込んだところだから、これから編み始めるのだけれど。時間はある、がんばろ。

 そして翌日の夕方、硬くなったパンを持ってミシャがトンカツ作りにやって来た。

 ルイに冷蔵庫にある残りの豚肉を持ってきてもらったら、今度は何を作るのかと聞かれたから、豚肉を揚げてトンカツというものを作るのだと言ったら、自分のところの肉の余りも渡すから作って欲しいと言われちゃったし、ルイのところにもミシャのところにもというと、サラのところだけ除け者にするわけにはいかないから、結局シルにも話して余った豚肉を分けてもらった。

 これで四家族分のトンカツを揚げることになったから、ちょっとしたお店気分だ。

「それで、このパンはどうするの?」

「おろす…にはおろし器がないから、ナイフを使って細かく切って、更に叩いて、パンの粉…パン粉を作って欲しいんだけど」

「わかったわ」

「一緒にやりましょう」

 二人でパンを細かくすること、しばし。

 揚げる時間を短くするため、一センチくらいの厚みに切った豚肉の塊を、包丁代わりのナイフで叩いて塩コショウをする。厳密にコショウなのかわからなかったけど、味が同じような気がするしそう呼ばれていたからコショウで良し。

 それに小麦粉をつけ、溶いた卵に浸してからパン粉っぽくできたものをまんべんなくつける。

 昨日天ぷらで使った油の残りに卵をつけた小麦粉を落として、それが底まで沈みきらないうちに上がってくるようになったら、豚肉を入れて、と。

 じゅわわわわ~。

「あら、あらあらまあ、すごい音だけど大丈夫?」

「温度が高くならないように気を付けていれば大丈夫よ。両面がキツネ色になるまで…って狐っている?」

「?いるわよ?」

 良かった、キツネ色で伝わった。

 豚肉の塊が揚がり、専用の網がないので今日のうちに細い竹と目の粗いもう使わない布を使って作った手製の網もどきで、浮いてきたカスをすくって油用のワラの上に落とす。なかなかうまくいきそうだ。

 そうしたらまた次の一枚を入れて、と。

 これはミシャに任せてみた。

「もういいかしら?」

「どれどれ?あ、もういいみたい。さすがねミシャ」

「伊達に夫や子供たちに料理を作ってきてはいないわ」

 そう言いながらも少し得意そうなミシャに微笑んで、私はワラを敷いた皿を差し出した。木で作られたトングを使って、揚がったトンカツをワラの上に乗せたミシャが、私がしていたようにカスをすくう。

「天ぷらの時もこうしてカスを取るの?」

「ええまあ、今回は使わなかったけど、できればこまめに取ったほうがいいと思う」

「わかったわ。これの作り方も後で教えてね」

「あ、私が作って明日渡しに行くからいいわよ」

「ええっ、それは助かるわ。ありがとう」

 そんな話をしながら全てのトンカツを揚げ終わると、ミシャは残った油を覗き込んだ。

「これの後始末はどうするの?」

「ワラの吸収率がすごくいいので、たくさんのワラに少しずつ滲みこませて燃やしてもらおうと思ってるの。油は三回くらい使えると思うけど、獣の脂だし食べた感じが重いから、二回くらいにして始末したほうが良さそう」

「そうなのね」

「それは私が作った豚の油の半分なの。残り半分、良かったらミシャにあげる。毎日食べるには私一人では重くて、困っていたの」

「まあそれは有難いわ。天ぷらの作り方も教わったことだし、明日やってみるわ。うちなら四人いるし、一人あたり少しなら毎日でも大丈夫でしょう。良かったらマ・リエの分も作るから、味見をしてみてくれない?」

「喜んで。でも油には気を付けてね」

 その晩揚げたトンカツは、やっぱり油の食感が重くておなかに溜まる感じがしたけれど美味しかった。

 やっぱりトンカツにはキャベツとソースだ。キャベツはたくさん採れるので、二人で刻んで付け合わせにした。

 問題はソースだ。ウスターソースなんてないから、代わりのものを作るしかない。トンカツを揚げながら、かまどのもう一つの火にかけた鍋で、細かく切った色々な野菜をビネガーと魚醤と一緒に煮込み、どうにかそれっぽいものをこしらえた。

 つけて食べてみたら、前の世界で売っていたウスターソースのような深い味わいには至らなかったけど、まあ材料が足りないわりになかなかの出来だと思う。満足。

 ソースの作り方まで教えてくれてたお母さんに感謝ね。

 その晩は天ぷらもトンカツも気に入ってくれたルイの家もサラの家もわざわざうちに来て、御礼を言ってくれた。残りの油はあげちゃったし、また豚をしめるか脂身の多い獣が獲れるまで揚げ物はできないのがちょっと残念だ。

 どの家族にも嬉しそうに御礼を言われて舞い上がっていた私は、その翌日にあんな事件が起こるなんて、思いもしなかった。(続く)

第8話までお読みいただき、ありがとうございます。

次回は鞠絵さんの教えた料理が原因で、とんでもない出来事が起こります。

またぜひ読んでいただけましたら嬉しいです。

どうぞよろしくお願いします。

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