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第78話。夢の中で、ナギの姉ナユの姿を見て、彼女の遺したメッセージを聞く鞠絵。ナユが伝えたかったこととは…?

第78話です。




 地下空洞から出てくる時も、おばば様が一つずつ鍵をかけていった。タマゴの世話をしている女性たちにも、予備の鍵が代表の一人に預けられているのだという。

「お疲れになったでしょう。食事を用意させますから、しばしお仲間とゆっくりお休みになってください」

 仲間たちのいる部屋まで戻ってくると、皆が駆け寄ってきた。

「マ・リエ、大丈夫?少しふらついてない?」

「ずいぶん長いことかかったな…心配していたんだぞ」

「姫様」

 タニアが私の頬を両手で包んで、眉をハの字にして目を覗き込んできた。

 ふうわりと、彼女から花のような香りがかすかに漂ってくる。

 私はタニアの体臭であろうこの香りが好きだった。虎の姿の時にモフっていてもこの香りが毛皮からほのかにするのだ。いいなあ…あれ?

「姫様!」

 仲間たちに会った瞬間に私は気が抜けてしまって、色々ありすぎたせいかふらりと倒れてしまった。

 眠い。無性に眠い。耐えられない…。

 皆が口々に私を呼ぶ声を遠くに聞きながら、私の意識は沈んでいった。




 夢の中で、私は優しい声を聞いた。ナギが泣きそうな声で応えているが、それに対する返事はない。

 ああ…この声はきっと、ナユなんだ。

 そう認識すると同時に、ゆっくりと映像が浮かんできた。

 サンガルの吟遊詩人が歌っていたように、長い青みがかった銀の髪と薔薇色の瞳をした、ほっそりとしたたおやかな女性がそこに現れた。

 この人が、ナユ?

 私が人間であるから、彼女をヒト型として見ていることはわかっていたけれど、私には彼女がナユであることがわかった。

『ナギ、あなたがこれを見ている時には、私はもうこの世にはいないでしょう。どうしても伝えたいことがあって、この記憶をウロコに込めて渡します。黒鋼がこれをあなたに渡してくれると信じているわ』

 ナユが伝えたかったことって、なに?

『私は私の魔力では届かない遠い未来を見るために、他の聖銀の魔力も借りてあなたの未来を見たわ。あなたが戻ってきたときは、とても困難な時代となっているでしょう。あなたは一人でたくさんのことを成さなければならない。そのために、あなたの助けになる道しるべを残します。このウロコにはこれ以上入らないから、別のウロコにも残したのよ。大方は竜たちのところに預けたけれど、どれだけあなたに届くかはわからない。けれどいくつかは必ず届くと信じているわ』

 ナユのウロコが、他にもあるっていうことなのね?

 私の言葉にはナユは反応せず話し続けたので、これがウロコに残された記憶なのだと実感した。

『私のタマゴは見たでしょう?あの子たちにも私は色々なことを言い聞かせたわ。神竜は生まれつき、生まれたらすぐにその能力を使えるけれど、経験は足りないから、あの子たちを導いてね。私があなたにしたように。育んで、導いて、愛してあげてね。あの子たちはきっとあなたの力になるわ。あの子たちのことをお願いね』

 もちろんよ、ナユ。

『ナギ、愛してるわ。私の小さなナギ。あなた一人に重荷を背負わせてしまうけど、あなただけが頼りなの。お願いね。愛してるわ』

『姉上』

 ナギの声が潤んでいる。一方的な会話だけれど、お姉さんと話ができて良かったね、ナギ。

 しかもこんなメッセージが、もっと他にもあるなんて。

『最後になったけど』

 ふわり、と。

 とても綺麗な微笑みで、両手を広げたナユは言った。

『お帰りなさい、私の小さなナギ。ずっと、ずっと待っていたわ』

『姉上…!』

 ナユの薔薇色の瞳から、薔薇色の涙があふれて頬を伝って落ちる。

『よく頑張って帰ってきたわね。えらいわ。ずっと…愛していたわ。もう会えないけれど、これからも…愛してる。私の生命、尽きようとも』

『姉上、姉上…!』

 小さな子どものように、すがるようにナギが泣いている。

 その声を聞きながら私も、薄れていくナユの映像と声を追って泣いた。(続く)

第78話までお読みいただき、ありがとうございます。

一方的ではありますがお姉さんと話ができたナギは嬉しかったことでしょう。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

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