第76話。4つの聖銀竜のタマゴにつけた名前とは。名付けたタマゴに子守歌を歌う鞠絵。黒鋼竜のタマゴに祝福をくれと願われて…?
第76話です。
「ではこの子には、マコトという名を与えましょう。それから…残りの三つですが、男の子にはマモル、女の子にはマナミ、どちらでもつけられるようにマリン、と」
何となくだけど、男女ともに生まれてくるような気がしたので、思いついた名を告げると、ナギが目を細めて頷いた。
「マ・コト…マ・モル…マ・ナミ…マ・リン」
おばば様はゆっくりと復唱し、私に向かって両手を合わせる。
「しかと承りました。この子らが、このおばばが生きている間に生まれてきてくれることを願います」
心なしか、タマゴの表面が内側から光っているように見える。 とても、綺麗だ。
まだタマゴとはいえ、聖銀竜がまだこの世界に残っていることが心強かった。それも、ナギの身内なら、私の身内も同然だ。
とても嬉しくて、私は微笑んだ。
その表情と、白銀色の薄光を受けて輝く私の青銀色の髪を見たおばば様が息をのみ、ぽうっとした顔で私を見つめる。まさか己が姿が、歳を経た女性の目を奪っているとは露知らず、私は青銀色のタマゴたちを一つずつゆっくり撫でて、無意識に小さな声で子守歌を口ずさんでいた。
「眠れ 今は眠れ 良い子たち
その力必要とされる時 生まれ出でて
この世界のために 力合わせよう
力合わせよう…」
幾度か歌を繰り返すと、タマゴの光はおさまり、青銀色の殻に銀水晶の光を反射するだけとなった。
私の歌か終わるとおばば様は立ち上がり、私に向かって手の甲の黒いウロコを見せるように胸の前で組んで一礼した。
「ありがとうございました。マ・リエ・ナギ様。きっと子供らも喜んでいることでしょう。…不躾ながら、もう一つお願いしたいことがございまして…」
もうここまできたら何でも来い!よ。
私ははい、と頷いて、おばば様の後ろについて銀水晶の部屋を出た。
銀水晶の部屋から黒水晶の部屋に移動して、少し明るさが落ちたので、私はしばしまばたきをして目が暗さに慣れるのを待った。
銀水晶の部屋には入って来なかった真竜の女性たちが、私に向かって頭を下げる。
「こちらでございます」
おばば様に導かれるまま、あちこちから飛び出した六角錐の黒水晶の間をぬって歩いていく。
「あっ…」
そこにあったものは、キラキラと細かい金の光を放つ黒い水晶に囲まれた床の上、綺麗に並べられた大きなタマゴだった。薄暗いから色合いははっきりしないが、先程の青銀色のタマゴとは違い、どれも黒っぽい。
床は黒い水晶のように艶々としていて、金箔のような細かい光がちかちかとまたたいていてとても綺麗だ。そこから生えた無数の水晶の突起物に支えられるようにして、タマゴたちは先の尖ったほうを上にして並べられていた。
「これは…」
「こちらは我らがタマゴにございます」
黒鋼竜のタマゴ。そうか、ここにいる真竜の女性たちは、タマゴのお世話をしていたのね。
するとおばば様が、少しばかり悲しそうにタマゴを見つめて言った。
「皆一様に、黒鋼の子に見えますでしょう」
「え、ええと」
すいません、ナギならわかるかもしれないけど、私にはどれも黒っぽいタマゴだからそうなのかな…くらいしかわからないです。
口をパクパクさせてどう答えようか迷う私に構わず、おばば様は続けた。
「しかし、嫁は黒鋼ではない故に、孵ってみるまで黒鋼竜か、真竜なのかはわからないのです。どうかマ・リエ様、お願いがございます。図々しいとは存じますが、どうか聖銀様の御力を、我らのタマゴたちにいただけませぬでしょうか。この卵たちが一つでも多く黒鋼となるように、聖銀様の祝福を」
ああ、そういうことなら。
もちろんいいけれど、でもどうやったらいいんだろう。
歌う…のとはまた違う気もするし。(続く)
第76話までお読みいただき、ありがとうございます。
鞠絵さんはどのようにして祝福を与えるのでしょうか。
また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。




