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第75話。命をかけると言ったが思い直してくれたおばばに、聖銀竜のタマゴに名前をつけて欲しいと頼まれた鞠絵は…?

第75話です。

 きらきら光る水晶の床の上でひれ伏し、肩を震わせて泣いていたおばば様は、しばらくの後ゆっくりと顔を上げた。

 年齢を重ねていたのが、私の歌で若返ったように見えるその顔は、まだあふれる涙でびしょびしょに濡れていたが、その視線はしっかりと私を見つめていた。

「…わかりました。他ならぬ聖銀様のお言葉であれば、このエリアス・カルダット、並びに全ての黒鋼竜は、持てる力を余すことなく聖銀様に捧げると誓いましょうぞ」

 私はほっとしておばば様に歩み寄り、その肩にそっと両手を置いた。

「ありがとうございます、おばば様。思い直してくださって嬉しいです。これからも、ぜひよろしくお願いします」

「あなたという方は…こんな重罪を、お許しくださるとは。…いや、許されるかどうかは、今後の我らの行動にかかっておるのですな」

『誰でもあやまちはおかすものだ。そなたらのことは許そう。その上で今後とも協力してくれ』

 ナギの言葉を伝えて、私も同意であると言うと、おばば様はそっと涙を袖口でぬぐった。

「なんと有難い…そのお言葉で、数千年の我らの苦しみが解き放たれました。マ・リエ・ナギ様…慈悲深き聖銀竜に、多くの幸あらんことを」

 感動で声を震わせるおばば様に、私はふと思い立ったことを聞いてみた。

「このタマゴたちは、いつ孵ると予言されているんですか?」

 できれば近いうちがいいんだけど。

「それは…予言にはないのです。マ・リエ様、できればこの子らに、名をつけてやってはくださいませぬか」

「名前?ですか?」

「はい。この子らがいつ孵ってもいいように。その時あなた様がいなくても、先んじて名がつけられていれば、その名で呼べば力となりましょう」

 えええ…どうしよう。私は大きな四つのタマゴを見渡した。床や壁や天井の白銀色のまたたき、あちこちから突き出した六角錐の柱が放つ柔らかなきらめきに包まれて眠る、青銀色のタマゴたち。

 この子らが孵れば、ナギのように立派な聖銀竜となるのだろう。

 千年以上の寿命を持つ、神の竜に。

 そんな存在に、この私が名前をつける?

『よいではないか。我の甥や姪に、ぜひそなたから名をつけてやってくれ』

 えっナギ、あなたまでそんなことを言うの。

『そうだ、そなたと同じ、マから始まる名前がよい。そうすれば、我らは同じ血筋なのだと誰からもわかることだろう』

 それは…そうかもしれないけど。

 わざわざ呼びにくい名前をつけなくても…。

『よい。マから始まる名を、頼む。マ・リエ』

 まるでナギの言葉を読み取ったかのように、床の上に正座したままのおばば様が言った。

「マ・リエ・ナギ様。あなた様と同じ、マから始まる御名を、ぜひこの子らにお願いいたしまする」

 えええおばば様までそんなことを。

 私はしばらくタマゴを見つめて固まっていたが、私の中でひそやかに笑うばかりのナギと、私をしっかりと捕らえるおばば様の視線に、ああ~…と小さな声を漏らした。

 これは…逃げられないな。

 仕方ない。それじゃ…。

「…わかりました」

「おお!ありがとうございます…!」

『頼むぞ、マ・リエ』

 私はひとつのタマゴに手を伸ばし、そっと指先で触れた。

 とくん、と脈打つかのように感じられるそのタマゴに、何かを感じたので。

「この子には…おそらくですが、二つの魂が宿っているんじゃないでしょうか」

 おばば様がようやく涙の止まった目を見開く。

「なんと…!それではもしや、死んでしまった子の魂が、その子の中に宿ったと…?」

「確信はありませんが…感じるんです。二人分の魂を」

「おお…おお…」

 おばば様の瞳に、また水滴が盛り上がった。(続く)

第75話までお読みいただき、ありがとうございます。

鞠絵さんはどんな名前を聖銀竜のタマゴにつけるのでしょうか。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

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